表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】レスティン・フェレス2~暁の草原  作者: Lesewolf
第14環「金色の真実」
198/215

⑭-3 金色の獣①

 レンを覆いつくしていた金色の光はとぐろを巻き、やがて竜のような姿となった。金色のふさふさの尻尾が生え、大きな耳が二つ。その姿は伝説の守護獣、否。守護竜の姿だった。


 眩い光を放ちながら、レンは月面へ降り立った。


麒麟(きりん)……」


 その姿を見て、レオポルトが声を上げる。


『そう、ボクは麒麟と呼ばれていた、竜であって竜ではないもの。神様だからね』


 レンはアルブレヒトよりも大きく、そして黒龍よりも大きかった。黒龍は驚き、たじろいでいる。


『馬鹿な! 麒麟だと⁉ お前は、ただの狐では……』

『話を聞いていなかったのか? にわかファンはこれだから困るんだよね』




『……ボクはケーニヒスベルク。そしてニミアゼルと呼ばれた神だと』


 アルブレヒトは眩い金色の光を受け、紅だった瞳が輝き、更に暁色の瞳を輝かせた。竜の姿で分かりにくいものの、笑っているのがわかる。


『アルブレヒトはよくやったよ。ずっとずっと頑張ってきたんだ』



『それでもね……』



『黒龍、お前をボクは許さない』

『麒麟がなんだというんだ! 俺は、我は……力を付けた黒龍だ!』


 黒龍は咆哮するとすぐにどす黒い霧のブレスを放った。しかし、放った直後からそのブレスは四散していき、無となった。


『ば、馬鹿な!』

『終わりだ、黒龍』


 麒麟となったレンの言葉に、黒龍は再び悍ましい程の笑みを浮かべた。


『だが、罪を犯したのは我だけではない筈だ』

『何?』

『麒麟であるレン、お前もまた、罪を犯している』

『……へえ』


 レンは警戒を解かず、黒龍ににじり寄った。


『そうやって、ボクの精神を弱らせる気か』

『……アルブレヒトの両親は実に立派だった』

『な、なにを……』

『! だめだ、黒龍!』


 アルブレヒトの言葉を無視するように、黒龍は言葉をつづけた。


『アルブレヒトの母親は聡明で凛としていた。だからこそ、王城が陥落する瞬間を眼にしたくはなかった。だからこそ、塔から身投げをした』

『……何を。お前、それ以上喋るなら』

『そして、アルブレヒトの父親もそうだった。息子が竜で太刀打ちできないと知りながらも、軍を率いらせて戦わせた。そして、フェルド平原でお前の亡骸ケーニヒスベルクを見つめて絶命した』

『アルブレヒトの母の名、幼名ゾフィー。そして、父親の名は……』

『やめろ!』


 アルブレヒトの叫びは、既にレンの耳に入ってはいなかった。


『アルブレヒト。父親の名もまた、アルブレヒトという。奇妙なことだろう、レン』

『な、なにを……。言って……』

『もう判るだろう、レン』

『アル、こいつは何を言っているんだ。君の両親が……』


 アルブレヒトは視線を逸らしてしまった。


『そう、本当なんだ。そうなんだ。生まれ変わって、レスティン・フェレスへ来ていたの。熊とゾフィー様は』


 レンの金色の光が強く、それでいて淡くなっていく。


『そう、そうなんだ。知らなかった。守れなかったのは、ボクの罪だね。知らないでいた、無知の罪だ』

『そうだ、レン。お前は大罪を犯した。かつての親友二人を、お前は葬るきっかけを作ったのだ』

「何を言っているんだ、黒龍は? アルブレヒト?」


 レオポルトの言葉は最もだった。ルクヴァも、コルネリアも、そしてフリージアも無言のまま、その場に立ち尽くしていた。


 熊公アルブレヒト。地球で生きた辺境伯だ。そして、ゾフィーはその妻である。どちらも、レンにとってはかけがえのない存在だった。


『熊とゾフィー様は、ボクにとって恩人で、かけがえのないトモダチなんだ』

「その生まれ変わりだと? アルブレヒトの両親が?」

『アルブレヒトの様子を見るに、本当みたいだね。そうか。本当に、そうだったんだ……』


 レンはそれでも、威嚇を辞めない黒龍を見つめた。



『でも。それ、可笑しな話だよね』

『レン?』

『あの二人が、自ら命を絶った?』




『そんな選択、二人がするわけがない……!』

『れ、レン……』

『だって、だって! 二人は……』



『黒龍……! お前、お前が……』


 レンが爪を掲げる。強固な一撃が、黒龍を襲った。黒龍はそれをいとも簡単に回避する。


『終わりだ、黒龍! 孤独に、罪を償えええええええええええ‼』

『……‼ れ、レン……』


 その時だった。



「まって!」

「待ってくれ!」


 マリアとレオポルトがレンの前に立つと、マリアは黒龍の方へ向きながら両腕を広げた。レオポルトはそんなマリアを庇うように、同じく両腕を広げながらレンに対峙した。突然の光景に、フリージアは口元を手で覆った。


『マリアにレオポルト……』

「待ってくれ、レン様!」

『待つって何?』

「黒龍は、本当に何もわからない子供と同じではないのか」

『それは……』

「黒龍も落ち着いてよ。あなたはどのみち、罪を償わなきゃいけないわ!」


 レオポルトの言葉、そしてマリアの言葉に、レンと黒龍は無言で二人を見つめた。


『どうしたの、マリアまで。黒龍を恨んでいたんじゃないの?』

「恨んでるわ」


 レンに背を向けたまま、マリアは黒龍を見上げている。


「でも、それ以上に憐れんでる」

「俺もだ、マリア。俺たちは、お前を憐れんでいる。可哀そうな奴だと……」

『待ってよ。熊とゾフィー様がそもそもそうなったのは、黒龍の差し金でしょう。だったら……。許せないでしょう。アルブレヒト、君の両親は……』

『俺の両親の死を否定することは出来ない。それでも、間違っていなかったとは言えない! 命を絶つなど……』

『…………本当に、命を絶ったのか』


 レンは無言のまま、黒龍ではなく目の前のレオポルト、そしてマリアを見つめた。


『それで、二人はボクから黒龍を庇うんだ』


 レンの冷めた瞳に、レオポルトは刀に手を振れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ