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【完結】レスティン・フェレス2~暁の草原  作者: Lesewolf
第13環「白銀の再会」
195/215

⑬-9 レスティン・フェレスの守護竜②

「呼吸は出来るのね」

「呼吸?」

『バリアを張っているから、俺の周囲では呼吸可能だ』

「バリアの外では、呼吸は出来ないのか?」

「出来ないわ。それ以前に、寒くて死んでしまうかも」


 マリアの言葉に、レオポルトはバリアを見つめる。レオポルトにとって、宇宙空間というものは物珍しく、知識もない。


『黒龍だ』


 黒龍はどす黒い鱗に覆われ、まがまがしい鋭い爪を立てながら現れた。


『戦う前に、一つ聞きたいことがある』


 レンの言葉を待たず、黒龍は口を大きく開けると威圧するように笑った。


『月に居た幼子の眠るゆりかごに、どうやって触れた。お前が干渉できたとは思えないんだ。無理やり干渉したんだろう』

「…………()()()()()のことね……」


 マリアのいうフリージアが何であるのか、レオポルトは自身だけが知らないことを知っている。気後れするものの、信頼している者たちに囲まれているせいか、動揺はほとんどない。


『フン、痴れたこと。竜である我が干渉しただけで、ゆりかごは我の呼びかけに答えた。そのままの状態で地球へ送ったまで。地球で目覚めるとは思わなかったがな』


 黒龍はマリアを見つめると、ため息を吐き出した。黒い靄となって目に見える形の息。どす黒く、全てを腐らせる。


『小娘が我の母親など、笑止千万』

「それは貴方の信徒が、勝手に私のような存在を作り出した結果でしょう。私も、貴方の母親なんてごめんだわ。私は、黒龍の母親代わりとして作られた、人工的な魂を持っていたわ。でも、人間に生まれ変われた。今は人間なのよ」

「そうだ。マリアはレスティン・フェレスに生きる一人の女性だ」


 何も訪ねて来ないレオポルトに、マリアは微笑んで見せた。


「ふふふ」

「どうして笑うんだ。……全てが終わったら、ゆっくり聞かせてくれるのだろう」

「そうね」

「アルブレヒト、コアは額だったな」


 アルブレヒトは竜化したまま、レンを見つめると首を横に振った。


『コアはな。でも、どうか貫かないでやって欲しい』

「何のためにここまで来たんだ、アルブレヒト!」

「ルクヴァの言う通りだ、アルブレヒト。黒龍を討たなければ、陛下たちの安息の日々は訪れない……」


 レンの背から降りながら、ルクヴァとコルネリアはアルブレヒトに説得を試みた。しかし、アルブレヒトは首を横に振る。


『アル、対話出来る相手じゃないよ』


 九尾の狐の姿のまま、レンは黒龍を睨みつけた。


『人間の命も、動物の命も、全ての万物の命も、なんとも思っちゃいない。無慈悲だよ』


 アルブレヒトは黒龍を見つめたままだ。


『地球で、多くの人が黒龍の誘惑で命を失った。遠い距離に居ながら、その影響力は見て来たでしょう?』


 地球での日々はアルブレヒトにとって、決して幸せなものではない。生まれる前から続いていた戦乱に巻き込まれ、望まぬまま軍人となった。母と自分を見捨てた父親を追い、復讐する事だけを考えていたのだ。


『マリアがどれだけ悲しんだか、苦しんだか』


 マリアは地球で作られた。彼女は捧げものとして黒龍の母親代わりとして作られたのだ。


『レオポルトさんに、母親のミラージュだって、皆が苦しめられてきたんだ! ルゼリア王家への呪いは、()()()()だって望んじゃいなかった!』


 ゲオルク。アルブレヒトにとって、変わり者の親友。くどい話し方で人々に嫌われ、孤独に過ごしていた彼は生まれ変わっても親友となった。彼はアルブレヒトにとって初めての友人であった。


 ゲオルクは話していた。言葉足らずのアルブレヒトにとって、その言葉は印象強く残っていた。


(場面毎に、きちんと矢面に立ち、向き合わなければいけない。それすら面倒に考えるのであれば、相手は当人への接し方も、実に淡泊なものになるだろうね)

(そして、その <信頼> という結び付きがあるかどうかによって、大きく異なってくる)

(そういう目に視えない曖昧なものを、形として残そうなどと。それでも、私は残さなければならない)


 ――――地球で再会したゲオルクは言っていた。


(後悔というものは、感傷に浸るためにある。反省して改善がしたいのであれば、記憶を遡って冷静に分析をすべきだ。そして、それよりも優先すべき事案は優先すべきなのは、目の前にある出来ることからやるということ。そして、出来ることなら楽しくやる。でなければ損だよ)


 その教えはやがてレンへ伝わり、そして両親へ伝わっていた。


 再会の町の噴水は、ゲオルクが建てたものだ。噴水のモチーフの竜はアルブレヒトに他ならない。

 初代ルゼリア王、ゲオルク――。かつての親友は生まれ変わり、王となり、そして生まれ変わって地球で医師となった。レスティン・フェレスへ到着した彼は漸く眠りについたのだ。


『噴水は綺麗だった』

『アルブレヒト?』



『なあ、黒龍。信頼のその先に在るものが何であるのか、お前は知っているか?』

「アル、対話は無理だと……」


 レオポルトの言葉を遮るように、アルブレヒトは続ける。


『お前はその信頼が何なのか、わからないんだ。だから、不安なんだ』

『黙れ……。恵まれたお前に、何がわかる!』

『俺は恵まれてなんていない。レスティン・フェレスで生まれ変わった俺は皇族だったが、何の力もなかった。暴走して、レンを焼いただけだ』

『アルブレヒト……』

『地球で生まれ変わった俺には、更に何もなかった。母親も守れず、軍人として同じ軍人や罪のない人々の命を奪うだけだった』


 手に取るように覚えている。銃を撃った瞬間を、切り刻んだ瞬間を。


『そんな俺には、信頼できる友がいた。それがお前にはなかっただけだ。友人は初めから恵まれていたから出来るものじゃない。本人の心次第なんだ』

『…………』


 レンはもう何も言わない。静まり返ったまま、アルブレヒトと黒龍を交互に見つめていた。それは、ルクヴァやコルネリアにとっても同じ事だった。二人はレンを、アルブレヒトを信頼している。

 そして、それはレオポルトとマリアにとっても同じことった。


『だから何だというのだ。人間は愚かだ。いつまでも争い続け、奪い合う事しかしない』

『そうだよ。罪は償わなきゃいけない。人間もそうだけれど、黒龍。お前もね』


 レンの言葉に、黒龍は笑みを浮かべた。どす黒い感情が露わとなる。


『そんな彼らに愛着を感じ、愛しているのがケーニヒスベルクであり、レンだ』

『…………黙れ』

『そんなレンを、俺は愛している。信頼しているんだ。だから、お前もレンが好きなら……』

『黙れと言っている!』


 黒龍の爪が瞬き、アルブレヒトを襲った。それは轟音を鳴り響かせた。


 白銀の髪を靡かせ、ツインテールの女性がその爪を斧でもって受け止めた。その白銀の女性は、レンではない。


「アルベルトに何するの! 黒龍!」

『ふ、フリージア……⁉』


 白銀の女性は斧を構えると、黒龍へ跳躍し一撃を咬ました。衝撃で黒龍は数歩後ずさりした。


「何してるの、アル! アルベルト! しっかりしてよ!」

『フリージアか!』

「そうだよ、フリージアだよ! アルベルトお兄ちゃん!」


 フリージアと呼ばれた女性は浮遊しながら、再び斧を構えた。その腕には紫色のリボンが結ばれている。フリージアはそのままの体制で、視線をレンへと移すと、一気に表情を崩した。そして――。


「ティニア様! 遅れました! 会いたかったです!!!!」


 フリージアは九尾の姿のレンの首元に抱き着くと、顔を埋めた。嬉しそうなフリージアを前に、レンは目を丸くしたまま呆然と立ち尽くしていた。


 幾多の時を経て全てが再び相まみえ、交錯する。

次回、「暁の草原」 第14環「金色の真実」


 ふふふん、ボクは物理法則を超えるからね。一世一代の大嘘さ!


 そしてレンは微笑み、咆哮する――――‼

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