⑬-3 再会とわだかまり③
レンはクラウス達に向き合うと、丁寧なお辞儀をしながら答えた。景国風のお辞儀はもはやレンの代名詞と言っても過言ではない。
「セシュールが守護獣、ケーニヒスベルクとして言うよ。今のルゼリア国に、ボクの発言がどこまで響くかわからないけれど。ミリティア王女は黒龍に乗っ取られていたアドニス司教の言葉を真に受け、クーデターを起こした。それだけなんだ。ミリティア王女には償う必要があるけれど、穏便に事を運んでほしい。お願いできるかな、クラウス代王よ」
「…………古き盟約に従い、守護獣ケーニヒスベルクの願いを聞き届ける」
「うん。ありがとう。負傷者も出ているだろうから、穏便にね」
「……待って!」
ミリティアが声を上げる。
「ミリティアお姉さん、トゥルク王子は無事だよ。無事を知らせてあげたらどうかな?」
「そう、トゥルクが、無事……」
ミリティアは心を撫で下ろしたものの、その手枷がギラリと光った。黒龍にそそのかされたとはいえ、クーデターを起こしたのはミリティアなのだ。
「レオポルト兄さん、トゥルク兄さんに連絡してみたらどうかな」
「あ、ああ。そうだな。トゥルクと、メリーナに無事を知らせるコンドルを飛ばすよ。みんな無事だってな。」
「うん。じゃあそれが終わったら、フェルド平原へ移動しよう」
「誰が移動するんだ。俺は行けるぞ」
歩み出たルクヴァに、レンは大きく頷いた。無邪気に笑う微笑みに、ルクヴァだけではなく、コルネリアも昔のレンを重ねた。
「そうだね、黒龍はとても力を蓄えているから、戦力は多い方がいい」
「だったら、コルネリア。お前も行きなさい」
「しかし、陛下……」
「儂はミリティアを守ってやらんといけない。それに、トゥルクも戻るじゃろう。二人を守っているから、お前は行きなさい」
「……おじい様…………」
狼狽えるミリティアに、クラウスは笑顔で頷いた。その笑顔に答える形で、ミリティアも頬を赤らめた。二人のわだかまりは、緩和されているように感じられた。それでも何処かぎこちない。
「のう、ミリーよ。それとも、ミリーが儂らを守ってくれるかね?」
「! ……はい。お守りいたします」
「うむ。では、その枷は外しておこう。これ、ミリーの剣を返してやってくれ」
「え、でも……」
「じゃあ、ルゼリア国のことは、王様に任せるね」
レンは笑顔を浮かべると、木の棒を拾いあげて地面に円を描いた。
「黒龍と戦闘出来る者は、この中に入って。転送魔法陣で飛ばすよ」
「そんなに魔力を使って、大丈夫なのか?」
アルブレヒトの心配そうな言葉に、レンは笑顔で返した。今までの反応のない表情ではなく、笑顔だ。それがアルブレヒトを堪らなく不安にさせている。
「それくらいは大丈夫だよ。オーブから力をもらったしね」
「そうか……。信じるぞ」
「うん。ありがとう」
(レンが嘘をつく時は、それなりに理由があるはずだ。それでも、俺が信じなくて誰がレンを信じるというのか)
魔法陣には、アルブレヒト、レオポルト、マリア。そしてルクヴァとコルネリアが入った。他の兵士たちは恐れおののき、その場に立ち尽くしているため戦力外だろう。
「じゃあ行くよ……」
レンの金色の光に包まれ、一行はその場から姿を消し、転移したのだ。
◇◇◇
転送魔法陣によって一気にフェルド平原まで運ばれた一行は、その平原を見つめた。青々とした草原と晴天の青空の地平線は、大変美しい。
「着いたよ」
「後はどうするんだ」
「黒龍が戻ってくるだろうから、ここで待機だね。いつ来るかはわからないけど、明日には来るんじゃないかな」
「そういうことなら、野宿の準備をするか」
「えー。フェルド共和国が近いのよ? サーシャもいるから、フェルド共和国に行きましょうよ」
「ははは、柔らかいベッドが恋しいのか」
マリアの言葉に、レオポルトが笑い声をあげた。ルクヴァはその姿を見て安心したのか、胸を撫で下ろした。それでも、聞かずにはいられない。
「レオポルトはマリアと親しいのか?」
「親しいわよ、ね。レオ」
マリアは自然な笑顔を浮かべると、ウインクをして見せた。そんなマリアの反応に、レオポルトは頬を赤らめた。
「そう言われるなら、有り難い。マリア嬢には感謝している」
「なんかお硬いのよね、王子様は。アルを見習ったら?」
「悪かったな、お固くない王子で」
「俺は王子じゃないって、何度言ったら……」
三人の笑い声に、レンも微笑を浮かべた。それでも、レンは心ここにあらずといった感じで、俯いたままだ。レンはマリアを見つめながら懐かしい日々を思い浮かべていた。
かつての、過去の現実を見る。花に囲まれ、笑顔を振りまくマリアを。
それを壊してしまったのは、レン自身だ。
「フェルド共和国から食料の支援を受けよう。バリアも張らなきゃいけないから、許可申請もしないとね。それでも、いつ来るかわからないからなあ」
「わかったわ。仕方ないわね。何も持ってきてないから、いっぱい支援してもらわなきゃ」
マリアの図太い言葉に、一行は笑いに包まれた。それでも、レンだけは心から笑っていない。それに気付いているのは、アルブレヒトだけだった。
体調不良が続いており、毎日更新できない日々が続いてしまいました。これからも不定期ですが午前11時に更新したいと思います。宜しくお願いします。