表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】レスティン・フェレス2~暁の草原  作者: Lesewolf
第13環「白銀の再会」
187/215

⑬-1 再会とわだかまり①

 ルゼリア大陸を取り巻く未曾有のクーデターは、失敗に終わったという。それを伝えた彼女は静かにたたずんでいた。まるで、セシュール国の霊峰ケーニヒスベルクのように。

 かつて女性の姿をしていたという「王の山」は、青々として聳え立っている。美しい山には多数の部族が済んでいるだけではなく、動植物も豊富だ。命溢れるケーニヒスベルクは、昔からそこに存在していた。


「やあ。久しぶりだね、マリア」


 彼女はそれだけ言うと、マリアに向かって微笑んだ。彼女こそがそのケーニヒスベルクだと、この場の誰もが知っている。


「その姿、懐かしいよ」

「何が懐かしいのよ。まったく。あなたって、いつも言葉足らずなのよね」

「ふふ、そうかもね」


 彼女はマリアに向かって微笑んだ後、レオポルトへ向かってお辞儀をした。それは景国式のお辞儀であり、当然レオポルトも知っていた。腰を曲げ、膝に手を当てるように丁寧にするお辞儀を返す。


「初めまして。改めて自己紹介すると、ボクはレン。言わずもがな、セシュールではケーニヒスベルクと呼ばれている。気高き風と気高き地、そして気高き水を持って生まれた子よ」

「本当にティトーなのか?」

「ああ、うん。そうだよ。お兄さん」


 レンのはレオポルトに向かって微笑んだが、アルブレヒトを見ようとはしなかった。アルブレヒトは立ち尽くしたままレンを見つめている。それでも、レンはアルブレヒトを無視するかのように、レオポルトに向かった。まるで、目に入れてはいけないかのように。


「レオポルトお兄さん、あなたが火を持てば、勝てぬものなどいないよね」

「何? どういうことだ。いやそれよりも……」


 レオポルトはアルブレヒトの腕を引っ張った。呆然としていたアルブレヒトは体勢を崩すものの、驚きの表情のまま視線はレンを離さなかった。


「二人とも、まともに話をしないじゃないか。どうしてだ。念願の再会を果たしたんだろ」


 レオポルトの言葉に、レンは顔色一つ変えない。アルブレヒトはレオポルトへ視線を移しながら、苦笑いを浮かべた。


「話したさ」

「いつの話だ」


 間髪入れずに返ってきた返事に戸惑いつつ、アルブレヒトはさらに苦笑いを浮かべる。


「それは……。以前から、ちょっとずつレンの意識が出ていたんだ」

「何?」

「もしかして、ティトーが倒れた後、外で話していた時?」


 マリアの言葉に、アルブレヒトが頷いた。レンは相変わらず無反応であり、表情は変わらない。


「ああ、そうだ」

「それなら、いいが……」


 引き下がったレオポルトの前に、マリアがレンを睨みつけるように歩み出た。


「ティニア、あなた言葉足らずだって、言ってるでしょ‼ 地球で、あなたも後悔したんでしょ⁉ あいつは今、目の前にいるのよ。生きてるのよ‼ お互い、生きて存在しているの。今話さないでどうするのよ」


 レンをティニアと呼ぶマリアに、レオポルトはハッとしたように口を押さえた。


 ティニアとは、アルブレヒトと因縁のあった女性であるからだ。悲しい事件のことを、レオポルトはアルブレヒトから聞いて知っている。同一人物であるということは聞いてはいたものの、その事件そのものはレオポルトにとっては衝撃的なことであった。

 マリアの言葉にレンは漸く反応すると、口元を緩ませた。


「マリア、君は変わったね。ううん、違うね。君はずっと、昔からそうだった。彼女から、……レイスから聞いていたよ、ラーレ。素直で、真っ直ぐだね。でも、今はそれどころじゃないんだ。黒龍の幻影一撃を入れただけだから。しばらくしたら黒龍が来るんだ」

「確かなの? 黒龍が……?」

「うん」


 レンは一向に向かうと、手を広げながら説明を始めた。それでも、アルブレヒトを見ようとはしない。アルブレヒトは赤い目をレンへ向けたまま、微動だにしない。二人の隔たりを著すかのように、レンはアルブレヒトを見ない。


「アドニス司教に乗り移る形で、黒龍は教会やルゼリア王家に干渉していたんだ。でも、干渉自体は昔からあった。司教に取り憑く形で、昔から圧力をかけていたみたいだ」


 レンの言葉に、ルクヴァも言葉を重ねる。


「そう、昔からだ」

「ヴァルク……」

「今はルクヴァだ。そうだろう、娘よ」


 ルクヴァがレンの頭を撫でると、その耳としっぽがフルフルと震えた。


「ごめんごめん。でね、黒龍は王制を敷いた初代王ゲオルクの死後、その生まれ変わりを、地球へ拉致していったんだ。幼かった転生体は成すすべがなかった。さらに幼い王妃の生まれ変わりと、ゆりかごに眠らせていた幼い娘を人質にしてね」

「な、何てそんな惨い事を?」

「ゲオルクの生まれ変わりは、ルゼリアの古い知識を持っていた。機械人形や人造兵器の知識だよ。その作成を人質を前に強要され、幾つもの命を蝕んでしまった。その罪を償うために、地球で奔走したんだ。それが医師であるリオン。彼等は後に、この星レスティン・フェレスを目指して、無事に到着したんだ」

「目指したって……。まさか、父上も?」


 レンの頷きに反応す形で、ルクヴァ、そしてコルネリアが頷き視線を合わせた。二人の友情は地球という星から、レスティン・フェレスへ来てまで続いていたというのか。レオポルトはある意味納得した様子で二人を見つめた。


「そう。その船に乗っていたんだ。我々もな」

「我々って、アルやマリアもか?」

「そうよ。長い航海だった。無事にレスティン・フェレスにたどり着いて、私たちは延命をしていたから、その命に終止符を打ったの。そして眠りに付き、再び生まれ変わったのよ」

「なんてことだ。そんな事が、実際に?」

「私たちが、その証明だわ」


 マリアが笑みを浮かべる。そして、月を睨みつけた。マリアの動きに合わせ、一行も月を見つめる。


「黒龍が来るのは、明日だと言ったわね」

「うん。ボクの一撃を受けているから、すぐには動けないよ」

「黒龍って、本当に龍なのか?」

「竜だよ」


 レンはそれだけ言うと、アルブレヒトを見つめた。レンの金色の瞳が潤んでいるように見える。アルブレヒトと目線が合わさり、しばしの沈黙を誘う。


「竜の力を継承したんだね、とても懐かしいエーテルを感じる」

「……記憶を取り戻すためにな」

「戦えそう?」

「戦えるさ」

「わかった。フェルド平原で戦おう。ここじゃ、被害が出てしまう。今は、君たちの王様の安否確認が必要なんじゃないかな」


 レンの言葉に、コルネリアが慌てて王城へ駆け込んでいく。その後ろをルクヴァが付き添った。レオポルトにとっては、およそ13年ぶりのルゼリア王城だ。歩みを止めているレオポルトに、マリアが声を掛け、二人も王城へ入っていった。


 残されたのは、アルブレヒトとレンだけとなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ