⑫-6 王都ノーブル・ルミヴェイル③
城内にはミリティア派が階段を駆け上がってくると音が轟き、周囲を緊張させていた。クラウス代王はティトーを後ろにやると、剣を抜いた。
「おじいちゃん、危ないよ!」
「ティトーだけは守る。儂の可愛い孫なんじゃ……。レオポルトにしてやれなかったことを、せめて……」
「レオポルトお兄ちゃん?」
部屋の扉が蹴破られ、白煙が舞い上がる。武装した集団がなだれ込んでくると、その背後から武装した王女が歩み出てきた。
「漸くお姿が拝見出来ましたか。代王」
「ミリティア……」
「! ……この人が、ミリティアおねえちゃん?」
ミリティアは白い鎧を見に纏っており、12歳とは思えぬほどの騎士姿で現れた。
「貴様に姉と呼ばれる気など無い」
「やめないか、ミリティア! ……王位なんぞくれてやる、だからこの子には」
「そいつがいる限り、私は王にはなれない!」
ミリティアは剣をかざした。真新しい剣に、ティトーの顔が映り込む。
「そんなことないです! 僕は王位なんていりません! 大巫女として……」
「それでも王位からは逃れられない。母がそうだったように!」
「母、お母さん……?」
「そうだ。王より地位がありながら、愛する夫と離婚する羽目になった。愛しい夫と別れ、どれだけ母が悲しんだか」
ミリティアは悲しそうに笑みを浮かべると、剣を突き出した。
「離婚した原因はわかっていますよね。代王クラウス」
「…………」
「おじいちゃん?」
「カミソリでレオポルトお兄様の首を切り裂き、生死の境をさまよわせた! お母様を置いて、父はレオポルトお兄様だけを連れてセシュールへ帰り、一方的に離婚を申し入れたのよ! お母様が妊娠されているとも知らずにね」
「…………そんな、お父さんが……」
ミリティアは剣を握り直すとその剣を振りかぶった。
「まずは元凶クラウス、死ね!」
ミリティアが剣を突き出すと同時に、ティトーは後ろへ突き出された。ティトーが体勢を崩し、前を向いた時にはミリティアの剣がクラウスを突き刺し、背中へ貫通していた。
「おじいちゃん!」
「ぐあ……」
血が溢れ出ると同時に、えぐるように剣をねじり込ませるミリティアは、悲しげに笑った。
「これで終わりです。代王よ」
ミリティアが剣を引き抜くと同時に、クラウスはその場に崩れ落ちていった。
「ああ……‼」
慌ててティトーが駆け寄るものの、血が噴き出しており、クラウスは浅い呼吸を繰り返すだけだった。
「ティトーっていうのね」
ミリティアが再び剣を振りかぶる。血に汚れた剣が、ティトーに迫る。
「でももうお別れよ、死ね!」
その時だった。
金色の光が室内に立ち込め、一瞬で視界を奪った。まばゆい光が放たれ、ミリティアを含むミリティア派は数歩後ずさりするしかなかった。
「うわ……‼」
「な、なんだ! この光は!」
光が収まると、そこにはティトーがクラウスを抱きかかえ、治癒魔法を唱えているところだった。
「貴様……‼」
「動かないで」
ティトーは手を左手を掲げると、ミリティアへ向けた。
「動くと撃ちます」
「撃つ? 撃つって、何が」
「アイスニードル‼」
ミリティアの足元に、鋭い氷の刃が突き刺さる。
「次は当てます、動かないで」
「な、こいつ……」
「お爺ちゃん、もう大丈夫」
「う……うう…………」
ティトーはクラウスを床に寝かせると、静かに立ち上がった。
「ミリティアさんは何か勘違いされてます」
「何?」
「お爺ちゃんが言ってました。そうするしか、レオポルトお兄ちゃんを解放する方法がなかったって」
「ど、どういうこと? 何をいまさら……」
ティトーはゆっくりとミリティア達に振り向くと、顔を上げた。青いブルーサファイアの瞳が煌めいていた。
「さっきお爺ちゃんから聞いたんです。ルゼリア王家は呪われている。もう終わりにしようと思ったって」
「な……」
「やっとの思いで孫を解放したのに、娘が妊娠していて、可愛い双子が生まれたんだって……」
「ッ……」
ティトーはゆっくりと歩み寄る。
「呪いは終わらず、今度は双子を苦しめる事になった。結果、姉は……」
「やめて!」
「…………お姉ちゃんもやめて。こんなことをしても、呪いは消えたりしない」
「消えるわ! 私が王になって、全部変えてやるんだ‼」
「そんな事をしても変わらない」
「変わる、変えてみせる。でなきゃ、トゥルクが……。トゥルクが殺されてしまう!」
ミリティアは絶叫するように剣を振りかざした。ティトーへ向けて、一気に刃を落としたのだ。
「うあああああ‼」
ガキン。 鈍い、音がした――。