⑫-4 王都ノーブル・ルミヴェイル①
シュタイン辺境伯領から見えた王都ノーブル・ルミヴェイルは悲惨な状況だったが、近づけば近づくほどに燦々たる状況であった。家々は破壊され、略奪が行われているようだ。怪我人は多く、所々で怯えたまま助けを求めていた。
「酷いことを……」
ルクヴァの指示で救助を行い、水や食料を配り、怪我の手当てを行うものの、人手が足りない。セシュール軍が味方だと分かると、王都の市民は次々に現れ、助けを求めてきた。ここまでにほとんど戦闘はなく、ミリティア派は城攻めに徹しているようであった。それでも町は破壊されており、クーデターの余波は大きい。
「城門が突破された!」
だからこそ、その知らせは皆を絶望へと突き落としてしまった。
「セシリア、レオポルトに城へ向かうように指示を! あいつは幼少期を城で過ごしている。内部構造は把握しているだろう」
「任せろ!」
セシリアの雄叫びに、遠くから雄叫びが返ってくる。レオポルト軍にいるタウ族だろう。
「ルクヴァ様、王都北側で交戦中の模様! 王都騎士団とミリティア派と思われます!」
「コルネリアか!? すぐに向かう! セシリア、ここは頼む!」
「おい、気をつけろよ!」
ルクヴァは護衛を連れ、王都の北側へ向かった。
「無事で居てくれ、ジジ……!」
ルクヴァは数人の近衛兵を連れ、北側の交戦地帯へ向かった。
◇◇◇
北側は避難誘導が終わっておらず、コルネリアが必死で避難誘導を行っていた。周囲に立てる騎士は見当たらず、負傷兵だらけだ。コルネリアは年配の老婆に声を掛け無事が確認できると、周囲の住民になんとか老婆の避難を頼んでいたところだった。
「自分のことだけ考えていては、必ず後悔する! この方を頼みます」
「頼むって言われても、俺だって必死で逃げてんだぞ!」
「ああ、待ってください!」
住民は自分のことで頭がいっぱいなのか、老婆を手助けするものはいない。
「私のことはもういいのです、避難誘導に行ってください、シュタイン様」
「そんな事はしません。さあ、立ってください」
老婆の身体を起こすと、コルネリアは避難先へと歩みだした。避難先と言っても、王都は既に陥落しており、火の手が上がっていない西南に避難することしか出来ない。
「シュタイン卿だ!」
ミリティア派の兵士がコルネリアを発見し、剣を引っ提げてにじり寄ってきた。コルネリアは老婆を背に剣を抜く。
「身を屈めていてください!」
「ああ……」
兵士が剣を振り上げた瞬間、後ろから風魔法が展開された。風魔法に驚いた兵士たちが振り返ると、そこにはセシュール軍の旗が掲げられており、そこにはルクヴァ王が居た。
「ヴァルク!」
「ジジ! 生きていたか!」
「ハァ⁉ セシュール軍⁉ なんで……」
「お前ら、住民の安全を最優先! 阻むものがいればある程度叩き潰せ!」
「「おおう!」」
セシュール軍の攻撃に恐れをなしたのか、次々になぎ倒されていくミリティア兵。訓練が行き届いていないのか、すぐに兵士の陣形は崩れていく。
「ジジ、怪我は⁉ ……ばあさん、怪我は⁉」
「私は大丈夫だ。それより、彼女をお願いします」
「お願いって、お前はどうするんだ!」
「まだ北側には誘導しきれていない王都民がいるかもしれない。誘導しなければ……。来てくれると信じていたよ、ルクヴァ王」
「待て! コルネリア!」
コルネリアはそのまま北へと走り去っていく。
「ええい、お前はこの婆さんを誘導してくれ! お前ら、コルネリア・シュタイン将軍に続け!」
「「おおう!」」
ルクヴァが追い付くころには、コルネリアは近くの子供の兄妹を発見し、介抱しているところだった。兄妹はかすり傷を負っているものの、まだ走れるようだ。
「おい、お前この子を連れていけ!」
「承知しました、ルクヴァ様。おい、走れるか?」
「うん。もうだめかと思った。頑張って走ります!」
「いくよ、リリー!」
「うん、お兄ちゃん!」
セシュール軍に付き添われ、走っていく兄妹にレオポルトとティトーの姿を重ねる。ティトーは今どこにいるのか。姿も声もまだ聞いてはいない。
「コルネリア! お前には聞きたいことが山ほどある!」
「そうか! 私もだ、ルクヴァ王」
「城門が突破されたんだ、代王が危ない!」
「何ですって⁉」
がれきの撤去をしていたコルネリアを、セシュール軍の兵士が加わり、がれきを撤去していく。下からは怪我をした婦人が姿を現し、青ざめた表情のまま横たわっていた。
「ここは俺の近衛が引き受ける! お前は俺と城へ向かおう!」
「ああ、すまない。クラウス陛下が……」
城の方角からけたたましい音が鳴り響いた。爆薬が使われた模様であり、黒煙が上がっている。
「いけない、クラウス陛下……」
「待て、早まるな! コルネリア‼」
「そうですよ。早まってはいけません」
天空からの声に、ルクヴァとコルネリアが天を仰ぐ。そこには黒衣の男が浮いており、二人を見下ろしていた。
「お前は……」
「まさか、お前は!」
「あなた方を殺すのは、私ですから」
黒衣のローブの男が、そのローブを脱ぎ捨てた。その人物の姿に、二人は驚きその場に立ち尽くしてしまった。