表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】レスティン・フェレス2~暁の草原  作者: Lesewolf
第10環「白銀の懐中時計」
162/215

⑩-7 セシュール王国というものは③

 黒龍とアンチ・ニミアゼル=反ニミアゼル教に動揺したのか、レオポルトはルクヴァを睨みつけるように見つめた。


「父上、先の戦争では黒龍と思しき存在を信仰する、反ニミアゼル教の存在がありました。その報告になります」

「待て。お前、やっぱりルゼリアを探っていたのか?」

「ええ、そうですよ。そうでなくては、あんな戦争は……! 父上、何か知っているのですか?」


 ルクヴァは視線をレオポルトから外さず、見つめていた。ただ見つめていたのだ。


「どうして何も仰らないのですか! アルブレヒトの故郷は……」

「辛かっただろう、レオ」

「…………」


 ルクヴァは尚も視線を外さない。しっかりと息子を見据え、心配していたと言わんばかりの表情を浮かべたのだ。


 その時に外から大きな声が上がり、タウ族族長セシリアが到着したのだと誰もが思った。


「セシリアだ。その話には、あいつも交えなくてはならない。元はと言えば、あいつのもたらした情報だからな」

「で、ですが……」

「まずは食事にしよう。腹減っただろ」

「父上……!」

「いいか、レオ」


 ルクヴァは身長が高い。それは背の高いアルブレヒトよりも、ルクヴァの方が頭一つ高い。高身長のルクヴァはレオポルトを見下ろすと、頭を強引に撫でまわした。


「腹が減っているときは、イライラして物事の根本が見えなくなる。ちゃんと食事をして、その後で話そう」

「わかりました……」

「うむ、ちゃんと話すからな」


 ルクヴァの言葉に、レオポルトは多少安心したように頷いたのだった。



 ◇◇◇


 ――セシュール城、食堂にて。


「レオポルト!」

「セシリア殿……」


 レオポルトにとって、セシリアは恩人だ。愛刀の麒麟刀と出会ったのも、セシリアのおかげであった。セシリアは屈強な肉体美を誇っており、タンクトップに短パンというスタイルだ。


「アルブレヒトも、よく無事だった!」

「……セシリア様、俺とはほとんど初対面ですよね」

「ガッハッハ! そんな事気にする事ではない! アンザインの王子よ」

「セシリア殿、そんな軽はずみな言動は……」


 宥めようとしたレオポルトに対し、セシリアは更に大きな声で宣った。腰に手を当て、豪快叫んだのだ。


「お前ら、ここがセシュール国なのを忘れたか⁉」

「それは、そうですが……」

「スパイなんざ入り込めないこの王城で? そんな警戒する事はないだろう! アンザインの王子なのは間違いないのだからな」

「アンセムでいいですよ」

「何を言う! 正式名で誇るところだろう!」


 アルブレヒトはセシリアの勢いに押されつつ、その言葉を返した。


「セシリアさん、声が大きい……」

「ガッハッハ! ありがとうよ! 最高の誉め言葉だ!」


 セシリアはそこまで言うと、真っ先に食堂の席に座った。セシュール国で上座と呼ばれる席に座らないところが、セシリアらしくもある。規格外なところはあるものの、ちゃんとした教養も持ち合わせているから面白い。


「そうだ、レオポルト。これ、息子のアンナからだ」

「え? ああ、ありがとうござい……。また、果たし状ですか」

「レオポルト。たまには相手してやってくれよ。その麒麟丸でな! ガッハッハ!」

「麒麟刀です。五月蠅い……」


 セシリアが場を和ませたところで、食事会が始まった。鳥と魚がメインの食卓で、レオポルトはかつてのタウ族での村の食事を思い出していた。レオポルトは何度も、タウ族の村で食事をしているのだ。

 ほかにもレオポルトが好む果物が用意されており、アルブレヒトは父の愛を感じ取っていた。それは自分にはもう叶わない愛情だ。



 ◇◇◇



「で、だ……」


 食事が終ろうという時、ルクヴァが使用人を下がらせた。何人か待機していた使用人たちが、続々と下がっていく。数名配置されていた兵士も、セシリアの申し出により下がっていった。


「お前、ちょっと声のボリュームを下げろよ」

「おう。任せろ」

「どうだかなあ。……ケーニヒスベルクの話だ」


 ルクヴァの言葉に、セシリアは眉を細めた。しかし、口元には笑みが浮かんでいる。


「まさか。生まれ変わったと?」

「お前、知っていて黙っていただろう」

「一応、部族間でもトップシークレットにしているぞ」

「お前らの声がでかいんだよ。まあ確かに、俺の耳には入って来なかったが。で、そのケーニヒスベルクなんだが。俺の娘かもしれないんだ」


 セシリアはひとしきり大笑いした後、酒を豪快に飲み干した。ルクヴァは酒が飲めない為、ぶどうジュースを手に持った。その話でさえ、レオポルトには理解できない。ティトーが、ケーニヒスベルクだとでもいうのだろうか。


「やっぱり知ってたんだな。人が悪いぜ、セシリアよ」

「なーに。それで? アルブレヒト、お前はどうしたいんだ」

「セシリア殿、ちょっと待ってください。セシリア殿は、ケーニヒスベルクのことも、アルブレヒトの正体も知っていたのですか?」


 レオポルトの言葉に、セシリアは眼をわかりやすい程真ん丸にして見せた。


「そうか。お前さん、知らなかったのか」

「……はい」


 何故かしょんぼりとしたセシリアは、アルブレヒトに姿勢を向きなおした。


「アルブレヒト。親友なんだろ? 何故話してやらない。巻き込みたくないなど、こいつには通用しないだろ。ルクヴァも何で黙っていた」

「セシリアが色々知りすぎてるだけだろう」

「そうかもしれんなあ~」


 一通りのルクヴァとセシリアのやり取りから、レオポルトは自身が知らないことは珍しくないことを知った。知らないものの方が多いのは当然だろう。それでも、友人であるからこそ知っておきたかったという反面もある。その気持ちの方が大きいのだ。


「話しにくいのはわかるだろ」

「俺たちは知ってるんだ。だったら二人だけにしてやれよ」

「そうだな……」

「で、あれば……」


 アルブレヒトは席を立つと、レオポルトの前で跪いた。レオポルトがかつて見た、立派な姿勢のアルブレヒトだ。いつものやる気のない姿勢からは別人であるかのように。


「レオポルト殿下、二人でお話しても宜しいでしょうか」

本日より18時更新にて物語を上げていく予定です。宜しくお願いします!感想などお聞かせください♪

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ