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【完結】レスティン・フェレス2~暁の草原  作者: Lesewolf
第九環「巫女継承の儀」
150/215

⑬-2 遅れたフーガ①

「フリージア」


 不意に声をかけられ、白銀の髪を靡かせる。相手は赤毛の美しいマリアだ。マリアは人造人間であると言うが、フリージアにとっては頼れるお姉さんだ。


「マリアお姉ちゃん」

「部屋に戻るところ?」

「いえ、アルお兄ちゃんのところに」


 マリアは嬉しそうに微笑む。その微笑みは安心できる微笑みであり、母親代わりになってくれていたティニア、レンが思い浮かぶ。


「私も一緒に行ってもいい?」

「はい。でも、まだ寝ているかもしれないです」

「大丈夫よ。昨日、結局みんな疲れていて、何も話せなかったじゃない? それに、寝ていたら出直すから」

「それなら、叩き起こします」

「ええ……。フリージアって、意外と強気なのね」



 フリージアは笑みを浮かべながらマリアを見つめていた。


「どうしたの?」

「えっ」

「私の顔、何かついてる?」

「あ……。えっと、髪型。素敵だなって思って」


 マリアはハッとしたように、照れくさそうに微笑んだ。マリアは髪を一つに束ねている。右耳の上に一つにポニーテールを結っているのだ。フリージアはその髪型を一目で気に入った。マリアはすぐにポケットに手を入れると、紫色のリボンを取り出した。


「部屋で結んであげるわ。2本あるから、ツインテールでどう?」

「あたしなんかが、おしゃれしても……」

「そんなことないわ。おしゃれはしたい人が、自分の好きにおしゃれしていいのよ。ミュラーさんの受け売りだけどね。不安なら、背伸びしなければいいの。自分に合ってるおしゃれがあるから」


 マリアにそれを教えてくれたミュラー夫人、ミランダはここには居ない。ミュラー夫人と旦那はどうしているだろうか。アレン財団の関係者でタウ族のものであるのなら、里の存在も知っているかもしれない。


(落ち着いたら聞いてみよう。お店のこともあるし、メアリーさんだって……。今更、お店何て……。もう戻れないのに)


「お姉ちゃん?」

「あ、ごめんね! ちょっと考えごとを」

「大丈夫ですか? お姉ちゃんは、眠れてる?」

「優しいのね。大丈夫よ。意外とタフみたい」


 ある程度受け入れていた現実は、マリアにとっては何てことはなかった。当事者ではあるものの、アルベルトに比べれば軽すぎるくらいだ。


「フリージアも、大丈夫?」

「うん……。あたしより、アルお兄ちゃんが心配」


 そして、それ以上に心配しているのは、今もレンの事をティニア様と呼び続ける存在だろう。


「ねえ」


 マリアが立ち止まると、フリージアも立ち止まって振り返った。白銀の髪を見れば見るほどに、少年であったレンを思い浮かべる。


「はい」

「ティニアのこと、好き?」

「はい!」


 万遍の笑みで返る即答。充分な回答だ。


「そう。私も好きよ。ティニアのこと。レンのことも」

「あの、あたし。レン様って呼んだ方がいいですか?」


 その言葉に、マリアはゆっくりと首を横へ振る。それでいて自然な微笑みが浮かぶ。その微笑みの中に、過去を思い出すかのような、寂しさが垣間見えた。


「ティニアのことを、そう呼んでるだけでしょ? ほかの誰のことでもないもの。大丈夫よ。レンもわかってくれる」

「嫌われない?」

「嫌ったりしないわ。絶対に」

「ぜったい?」

「うん。言い切れる自信があるわ。だって、ティニアを信じてるもの。きっと、……また呼びかけたら微笑んで振り返ってくれるって」

「うん。あたしも信じてます」

「うん。私たちだけでも、信じていようね。アルベルトも、きっと信じてるから」


「はい!」



 間を置いたものの、フリージアは本日一番の笑みを浮かべる。歯を出して、くしゃくしゃに笑う少女は愛らしく、可愛らしい。素直な彼女を見習わなくてはいけない。その為に、一晩考えたことをアルベルトに最初に話すべきなのだ。


 そのために。起きてもらわなければならない。


「正しき選択を迫られているのは、恐らくアルベルトよ」

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