⑦-8 緋色を求めて①
翌日、サーシャ一行は明朝に旅立っていった。迎えが来たと神官であるアレクが知らせに来たのだ。アレクはレオポルトが偽装したアンリという商人だと思い込んでいる。
「無事に出発いたしました。アンリ様、どうか安静にしていてくださいね。何がございましたら、遠慮なくおっしゃって下さい。こちらは報酬でございます」
「途中までだというのに、丁寧に有難うございます」
ズッシリとした銭貨袋を手渡されると、レオポルトはベッドの上で深々と頭を下げた。
「いえいえ。私どもが人手不足故、こうなってしまったのです。まさか体調が優れないとも知らず」
「では、これは戴いておこう。アレク殿にも、迷惑をかけたな」
「いえいえ。聖女様より、一週間の安静が言い渡されております。くれぐれもお大事になさってください。それでは、私はこれで」
神官アレクは丁寧に深々と頭を下げると、平屋を出て行った。平屋ではマリアとアルブレヒトが買い物へ町へ行っているのだ。ティトーはまだ眠っている。
「ティトー、そろそろ起きるんだ」
レオポルトはティトーのベッドを訪れるが、ティトーはまだ夢の中のようで、ムニャムニャと寝言を呟いている。
「むにゃにゃ」
「ティトー。ほら、朝だよ」
「………………るく」
「うん? 父さんの名?」
ティトーは微睡の中、目を開けないまま楽しそうに呟くと、再び眠りこけてしまった。
「そうか。会いたいよな。お前の、父親なのだから」
「…………げおるく……」
「…………ゲオルク?」
「ゲオルク、約束を果たそ、う」
ティトーは寝ぼけたまま、寝言を呟き続けた。そして、その名は――。
「どうして、初代ルゼリア国王の名を……」
「ゲオルク、だいじょうぶだよ」
「…………何が大丈夫なのだ?」
「……………………うー」
ティトーは寝息を立てるものの、すぐにまた寝言を言い始める。
「しあ、だいじょうぶ。きっと、およめさんになれるから」
「………………何?」
「みこ、そういう、ちいをつくって、それで」
「ティトー、お前…………」
ティトーは寝返りを打つと、再び唸りだした。