①-9 価値を知るもの①
少年は困り果てていた。情報収集のため、昼時の食堂を訪れるところまでは順調だったはずだ。湧き上がる淡い期待は、何度も打ち砕かれていた。
ルゼリア国では親切にしてくれた人に限り、持っていた懐中時計を見せていた。しかし、見せた人々はその銀時計の描かれた獣に見覚えはなく、どこぞの島国の紋章だと言うのだ。
それがセシュール国に入り、絵柄をグリフォンだと言い当てられたのだから、少年は有頂天になってしまっていた。
「どうしよう」
食堂には、各地から復興支援のために人が集まっていると聞いた。各地で作物が十分に育たなくなり、自然災害も多く起こっているという。
大戦後に起こった原因不明の光。その発光場所から遠く離れたこの町を中心に、皆で協力して田畑を耕し農作物を作り、収穫物をそれぞれの故郷へ送ろうというのが復興事業だという。
その為に、遠くフェルド共和国や、セシュールの山々から部族民が集まっている。多種多様な人が居たにもかかわらず、なんの情報も得られなかったのだ。そもそも兄を捜索するにしても、名前はおろか。少年は何一つ知らない。
「どうしよう…………」
広場まで出ると、大井戸に列が出来ていた。ルゼリア国では、僅かな硬貨で飲料水を買う事が出来たため、水には困らなかった。
セシュール国の商店は建物の店内ではなく、路上に布やテーブルを置き、その上で食材のみを売っていることが多いとわかった。水の販売は行われていないようだった。
「ここ、本当に外国なんだ」
ルゼリア国では、路銀の支払いさえすれば、詮索されることもなかった。それなりに路銀は手渡されていたし、無駄遣いをする気もなかった。
すぐに食べられる物の取り扱いが多く、必要なものだけ買い、リュックに詰めて少しずつ食べることが出来たのだ。
ところがセシュールでは、パンは材料の小麦として売られている。パンとして売られていないなど、初めてだ。当然練ることはおろか、焼くことすらできない。 野菜は購入できても、調理する道具はおろか、場所もなく、料理などしたこともない。
「もっと色々学んでおくんだったなぁ……」
とある列を眺めてた少年はあることに気付いた。その列、広場の井戸は無人のようで、誰も支払いをしている様子はない。無料なのだろうか。少年は試しに列に並んでみるが、特段咎められる様子はなさそうだった。
すぐに少年の後ろに若い女性が並んだ。首元から二つ、可愛らしい三つ編みをしていて、紐のような美しい布が一緒に編み込まれている素敵な女性だった。