表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】レスティン・フェレス2~暁の草原  作者: Lesewolf
第一環「春虹の便り」
10/215

①-7 風の知らせ③

「コルネリア・シュタイン将軍は、今も昔も未婚のままだ」

「それだけは間違いないな」

「理由は俺も知らないがな。ただ、将軍の瞳はヘーゼルで、生まれた瞬間からシュタイン家に縛られている。あの陛下ですら、当主にはなれなかったんだぞ」


 グリットはそこで、今のルゼリア王が女王の夫であったがだけで王になった、代理の王であることを思い出した。


「シュタイン将軍は陛下とも親しい上に、王女とは幼馴染だ。それで、あいつと再会して、大切な王女を託したんだ。将軍は王女とあいつの仲人までやったんだぞ。そこまでやった将軍が、今はもうルゼリア領からは出られない」


 大旦那は構わず続けた。


「将軍の瞳がヘーゼルでなければ、シュタイン家はもう存在してない上に、王女と結婚していただろう。あの将軍が、王女と子供作っていたなんて、それこそありえないだろ。そうでなくても、将軍に御子がいれば、まずお前らの耳に入る」

「だから、俺が言いたいのは隠し子とかそういうことじゃあないんだよ」


 ガタガタンと窓が鳴った。少し風が出てきたようだ。二人の男は押し黙り、しばし静寂が流れた。女将の咳払いが店内に響き、すぐに歌声が聞こえてきた。


()()()が将軍を信頼しているのはわかる」

「そりゃあな」

「俺だって信用したいさ」


 大旦那は席に戻ると、いつの間にか置いてあったコーヒーを喉へ流し込んだ。


「将軍は大戦であれだけ働いたのに、今やただの騎士団の団長だぞ。領地にだってほとんど戻らず、王都からも出られない」

「陛下はもう高齢だったな」

「ああ。確か、74歳になる。王女の息子、王子は病弱で離宮から出ることも出来ずに寝たきり。娘の王女は剣の腕しか磨かず、魔力だってないというじゃないか」

「それでも騎士団で上り詰め、姫でありながら師団長にまでのし上がったんじゃなかったか? まだ12歳だろうに、天性の才だろうよ」


 グリッドは歯を食い縛っていたが、なるべく表情に出さないよう気を張った。


「千年以上続く由緒正しきシュタイン家を潰すことになっても、それでも王家を守らなければならない」


 大旦那は冷静を保つように、声を抑えると静かに語った。グリットもそれに合わせ、声色を落とす。


「シュタイン家なら、それが出来るだろうな」

「ああ。将軍がまだ独身なのは、そういう事情があるからだろう? もし彼に子供が居れば、すぐにでもルゼリア国で内乱が起きてるよ」

「コルネリア将軍はそんなの望んじゃいない」

「そうだ、あの人は根っからの騎士だ。それは俺でもわかる。それでも、将軍にとって最上の存在は今も昔も、陛下であり、()()だ」


 グリッドの手に持っているカップが数回小刻みに揺れた。それは無意識であり、本人は気付いていない。エーテルは乱れていないため、それ相応の冷静さは残しているのだろう。


「あの銀時計は有名なものじゃない。知ってるやつもほとんどいない。だからこそ、銀時計の意味を知っている者だけが反応する」


 グリットの手が明確に震える。


「あの銀時計をずっと持ってたのは将軍だった、てことだ。わかるか? あの大戦の最中、そして後、ずっとだぞ。他国の紋章に似た銀時計を持っている。見つかれば只では済まないだろう、良からぬ噂だって立つさ。あの将軍が、そこまで大切にしていた銀時計を、ほいほい子供に渡すと思うか?」

「…………だが、まさか」

「ちょっと、あんた」


 男たちの背後に、呆れ顔女将が立っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ