豪快に快活に声を出して笑う美少女
豪快に快活に声を出して笑う美少女。大きな声で腹の底から鳴らす声は、個室によく響いた。それをぽかんとした表情で見つめている恵梨香。
「はぁ……折本さんはとっっっても可愛らしいわね」
ひとしきり楽しく笑った彼女はスッキリした顔で、大宮遥の顔をした。それが少しだけ寂しく感じたとかはきっとない。だが、それが表情に出てないとも言えないのか、一瞬見せた大宮遥の顔を彼女はすぐに崩してくれる。
「気にしなくていい。これは私の思い出だ。私が持っていた感情だ。君が、私のこの思い出も感情も共感したり同情したり否定したりしていない。それだけで充分だししっかりと伝えられたことに今はスッキリしている。何せ、私はかなりの頻度で城を空けていたからな。君を失うまで突然起きるそのことをすっかり忘れるくらいには、君との夫婦生活に浮かれてもいた。だから感情をちゃんと伝え忘れていたんだよ。だから、今先程伝えたことは、皇帝が妻に贈るものであった、その事実を伝えたかったんだ」
何も無かったかのように語られる言葉がとても丁寧で、それだけでなぞった記憶も、なぞった感情も大切なのだと伝えてくれる。
恵梨香はその言葉を真正面から受け止めながら、素直に「分かりました」と応えた。
お互いの皿が空に近づいた頃、学園中に授業開始の合図が鳴った。個室にいるせいで、食堂に生徒が残ってるかどうかは不明だ。そもそもが少人数制の建物で、昼食時間だというのに食堂には疎らにしか人はいなかった。外側に人がいるかは定かでは無いが、少なくとも遥と恵梨香はサボることとなる。
食後にデザートもと考えたが、やはり学食。高級食材ばかり使われていたから、パッと見てあまり量は意識しなかったが、平らげてから意識させられる。思っていた以上にしっかりと多い。いや、多くはないのだろうが、恵梨香にとっては腹9分なのでボリューミーではあった。
目の前で、エビフライプレートを平らげた後に油っこい口の中を、さっぱりとしたシャーベットでお口直しをしている遥はとても涼しい顔をしている。恵梨香よりも身長も低く、体格も華奢で、手足など軽く握っただけで折れそうな程に細い。それなのに入るのか、デザートが。そんな信じ難い事実を受け止めながら、お口直しのブラック珈琲を口にしていた。
「今日のシャーベットはミックスベリーだったよ。とても爽やかで口当たりもいい、君も食べてみるといい」
恵梨香が遥を見つめていたのは、デザートを欲していたからかと思われたのか、遥はスプーンでひとすくいするとそれを恵梨香に向けた。
それは突然の事で、恵梨香は持っていた珈琲を落としそうになりながらも慌ててソーサーに戻す。向けられるシャーベットにどう返事したらいいのか、慌ただしく視線を泳がせたあと、意を決して口を開けた。そのまま遥が恵梨香の口に匙をゆっくり持っていくとぱくっと口にする。ひんやりと広がる酸味が爽やかで、甘すぎずに舌の上で溶けていく。
「おいしい?」
傍から見ても幸せそうに表情を輝かせる恵梨香に、遥は楽しそうに目を細めた。優しい声で尋ねられてしまえば、何度も首を縦に振ってしまう。濃厚なベリーの味がとても上品で、流石高級デザートである。
「おいしい」
ほろっと表情を崩す恵梨香に遥はきょとんと目を丸くさせた。数秒だけその崩れた恵梨香を見つめたあと、シャーベットを掬い、再度無言で恵梨香に向ける。その行動に一瞬首を傾げるが、先の勢いで素直に口にした。再び口に広がる高級な味にさらに表情が崩れる。その瞬間、手に持っていたスプーンを置いた遥は、片手で目元を隠すと天井を仰ぐと「はぁーーーっ」と深く深く息をはく。その不思議な行動に、崩れていた恵梨香の表情が戻ると、きょとんとその様子を眺めていた。
「あーーー……もう、可愛い……その表情は狡い」
遥の口から溢れて零れてきた言葉に、恵梨香は目を大きく見開いて驚く。天井を仰いで遥が、手をどかしてそっと恵梨香に向ける視線はとても真面目で、恵梨香もきゅっとどこか胸を掴まれた感覚にさせられた。
なんだか空気が少しだけ甘くなった気がする。恵梨香はそっと視線をそらして珈琲を口に含むと、その苦味に空気の甘さを中和させた。
(可愛い……?可愛いって……落ち着け、相手は美少女。前世はイケメンだった今は美少女……パワーワードが過ぎる)
落ち着けと大きく息を吸って吐いて、珈琲を飲んで落ち着いて、を繰り返しせば次第に空気も気持ちも落ち着いてくる。落ち着いた気持ちに安堵すれば、カップをソーサーに戻して遥に目を向けると、彼女は慌てる恵梨香をよそにシャーベットと向き合っていた。
恵梨香は少しだけそれに対して唇を尖らせた。