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立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花を代名詞として持つ美少女

すみません、サブタイトル間違えていたので修正しておきます。

 手入れの行き届いた黒く艶やかなロングヘアー。小さな顔に詰まったパーツは適切に配置されている。鼻も唇も小ぶりなのに対して、くりくりとした猫目だけは零れてしまうかと思うくらいに大きい。長いまつ毛が自然と上がり、伏せてもいないのに影を落とす。


 

 磁器の様に白く滑らかな肌にほんのりと桃色がさして、誰もが振り返る絶世の美女。ただし、身長がとても低く、168cmの絵梨花に並ぶと頭ひとつぶんの差が出ていた。それだけであれば異性から見ると庇護欲を注ぐもの。



 だが、両足を地につけて、背筋を伸ばし、しっかりと前を向いて歩く姿を目の当たりにしてしまえば、途端に手が届かない高嶺の花になる。立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花を代名詞として持つこの美少女は、高等部の生徒会の会長を勤めており、国内外に問わず、高級ホテル・旅館の経営で有名な、大宮グループの末娘、大宮遥である。



 そんな遥が、絵梨花のクラスの入口で声をかける。その声はとても大きいわけではないのだが、なぜかよく通る。良くも悪くも、この高校で学生のトップにいる少女が現れれば、新入生は閉口してしまうだろう。更に初等部から有名人で、注目を集めている人であれば尚のこと。自然と発せられる人の名前に、クラス中は視線を名前の持ち主に移した。



 自然と視線を集めてしまった絵梨花は逃げきることが出来ずに、肩身を狭くする。姿勢よくしたまま、入口の近くにいる遥の視線から逃げるように、少しだけ顔をさげた。



「今日はちゃんとおられるのね」



 ふっと優しく淑やかな笑みに、クラス中がうっとりしてしまう。人を惹き付ける美貌、立ち振る舞い、仕草というのは己が相手にどのような姿を求めているか理解してこそのものである。それを自然とやってのけてしまう彼女は、やはりただ者では無い。



 実際にただ者ではないのだけど、などと自己完結型漫才をしながら、ぼんやりと思考をめぐらせている絵梨花を他所に、遥は下級生のクラスなど関係なく、教室に入ってきた。モーセのように、遥の歩く先には道が出来る。自然と、一定の距離を保ってクラス中が遥を注目していた。



 絵梨花は徐々に近づいてくる気配を感じながらも、逃げたい心を体現するかのように更に視線を机に向けていた。そして、絵梨花の視界に遥の小さく少しだけ丸い、きれいな手が写りこんだ。



 机に置いた両の手で体を支えながらしゃがみ、視界に入り込もうとして体制を低くした遥は、ぬっと絵梨花の顔を覗き込む。突然ドアップに美少女が炸裂してしまえば、流石の絵梨花も驚いて後ろに体を逸らしてしまう。



「……っ」


「ふむ、やっと私を見たな」



 絵梨花の瞳に遥が写りこんだのを確認すれば、彼女は満足そうに、そして嬉しそうにくりくりな猫瞳を細め、口角を持ち上げた。先程とは似ても似つかない口調で発せられたその言葉に、浮かべた笑顔の癖に、霞かかった記憶の遠くで笑ったあの人の笑顔と全く同じ面影を重ねて、絵梨花の胸を少しだけ波打たせる。



「わ、私は……()()()()には、あなたとお話することはございません」


「そう冷たくしないで欲しいな。君になくとも私にはあるのだが」


「何を話すと言うのです」



 2人は小声でやりとりをしていた。その為、遠巻きにしてる生徒は、一定の距離を持って絵梨花の机から離れている。だから、突然会長の言葉遣いや絵梨花の話し方などが変わっても気が付かないし、やりとりの声は聞こえていない。



「何を……と言うと話すことは沢山あるとは思うが……」


「あなたは……、貴女はわたくしと思い出話でもされたいのですか?」



 絵梨花の嫌味なその言葉に、遥がぐっと言葉を詰まった。


 

 その様子に面食らった絵梨花も言葉を失う。ぽかんと目を丸くして遥を見つめていれば、みるみると遥の白い磁器の肌は赤く染まっていく。



「あなたが私の元から飛び立ってから、私が死ぬまでや、ここに生まれ落ちてからの話しを私はあなたとしたいと思っていたのだ」



 遥の決まりが悪くなって視線をふいっと逸らす。そして次いで小さな声で発せられた言葉に、その姿に、絵里香は数度瞬きを繰り返す。確かに絵梨花も思うところはある。彼女が絵梨花にここまで付き纏う理由もわかる。思い出話と言えば聞こえのいい、前世のすり合わせだ。絵梨花自身も死んだ後、己の周りにいた人たちのことを知りたいものだ。



 それであれば、目の前にいる彼女は最適であった。



 彼女に言葉に、不覚にも胸がきゅっと切なく掴まれた感覚を覚えながら、絵梨花が口を開こうとした時だった。



――キーンコーンカーンコーン……



 予鈴が鳴った。遥も時間になったと言わんばかりにゆっくりと腰を持ち上げると、「お昼休みにまたお伺い致しますわ」と猫を数匹被ってその場を退室して行った。入れ替わるように担当教科の先生が入ってきては、出ていく上級生に視線を送る。その視線はいつも不思議がっているが、日常化としてしまったため先生たちも特に気にもしない表情で教壇に立った。



 それを合図に、ばらばらと生徒たちも自分の席に戻る。そして、会長が退室して5分後。静かになった教室に本鈴が鳴った。



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