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霞みかかった景色に映る沢山の人

はじめまして、よろしくお願いします

前世はとある王国の末姫で、お隣の帝国に嫁いだ。それは政略結婚というものだった。嫁ぎ先の帝国は、大陸1大きくて、軍事力も高かった。その上、その皇帝陛下と言えば若くてかっこいいと来たから当時の貴族令嬢たちは盛りに盛りあがって我先にとお嫁さん志願をしたものだ。



 そんな、大人気な皇帝陛下に嫁いだお姫様が隣国の末姫だった。大陸中がその姫に注目を浴びた。そして、その姫を見た大陸中の貴族令嬢は諦めた。彼女には勝てない、と悟るほどにその末姫は美しかったのだ。



 人は彼女を、月の女神の化身だと言った。


 人は彼女を、妖精の落とし子だと言った。


 人は彼女を、美の女神に愛されていると言った。



 それほどまでに美しい姫は、たったの25歳でこの世を去ってしまった。幼い頃から慣らされていたが、それ以上に強烈な毒を盛られたのだ。

 きちんと毒味係が毒味をしたというのに。その毒味係までが敵だったのだ。



 紅茶を口に含んだ途端、喉が焼ける苦しさ。胃が暴れる痛さ。口に広がる鉄の味。痛い、苦しい、きつい、辛い。そう思った途端意識が途絶えた。



 そんな壮絶な最後を迎えた前世。



 それを誰かに言ったところで、誰も信じなかった。脳裏に張り付く幸せと辛いを交互に繰り返されるような夢物語を前世だと言って、笑って周囲に受け入れられたのは幼い時のみだ。現在16歳の折本恵梨香は、そんな世迷いごとも現実離れしたこともそっと隠して暮らしていた。そもそもが恵梨香自身の持っているこの記憶自体が少しだけ歪なのだ。



 霞みかかった景色に映る沢山の人。きっと前世で関わった人々たちの顔を今では覚えていない。世界を轟かすイケメンな皇帝陛下も、幼い時からそばに居てくれた近衛兵士も、ずっとそばで笑いかけてくれた侍女も、愛情を注いでくれていたであろう家族も、愛おしかった我が子も。顔に霞がかかっている。



夢でしか見ないその人達が、恵梨香を呼ぶ時も声を掛けられたと分かるがその声をはっきりと覚えていないのだ。呼ばれて、振り返って、話して。そうして覚えてるのは痛くて、苦しくて、熱い最期ばかり。閉じた瞼と同時に閉じてた瞼を持ち上げると、覚えているのは夢の断片とただただ涙を流したくなるような懐かしさばかりだ。



 記憶を持ったばかりから見ている夢は、かれこれ十数年程恵梨香の隣にいるばかりで、それ以上の進展を見せてはくれない。幼い頃は親に兄に話したことがあるが、幼い子どもの言うことだと真面目に取り繕ってはくれなかった。2歳年下の妹と弟が意志を持ち始めたあたりから恵梨香の口からその話をしなくなった。



 そうして気がつけば16歳となる年になった。



 1度25歳まで生きたせいか、小学校高学年から少し達観した子に育つ。理解力も高く、自我の芽生えも早かったため、中学の時はそれなりにお洒落をした時期もあった。それが周りからは異性へと媚びを売ってるように見えたのか、やっかみがいじめへと発展しそうになったところで恵梨香は自分を隠した。



 毎晩ツヤを出すためにしていたヘアオイルを辞め、毎日楽しく掛けていたヘアアイロンを辞め、薄らとしていリップをやめ、まつ毛をあげるのを辞め、膝丈少しだけ上にしていたスカートをひざ下まで下げ、高かった成績を調整して中盤あたりに落とし、己を地味に地味に目立たずに、そうして中学校生活を終わらせた。



 それでも座る姿は背筋が伸びて、微笑む姿はどこか気品を持つ。隠した姿の奥に、誰もがあっと飲み込む空気を彼女は持っていた。前世というものはかくして、彼女に地味を満喫させらてあげなかった。




 小学中学は地元の人達が多い。クラスメイトも顔見知りばかりだ。その為、家から近い高校は更に知り合いが集まるものだから、絵里香は都内の私立学園にある高等部を受験した。



 恵梨香の家は裕福だが一般家庭寄りだ。親にその旨を伝える時は胃がキリキリと痛んだのを嫌でも覚えている。寮生活ができる高校は漫画の中だけかと思ったが、思っていた以上に存在していたし、実際に受験で行った学園は、夢で見るお城よりかは小さいが普通の高校よりは宮殿のように広い。所謂お金持ち学校。基本、初等部中等部とエスカレーター式で通っている子どもたちは御曹司ばかり。



 だからこそなのか外部受験時の偏差値も高い。勉強は嫌いでは無いため、苦にならなかったがそれでも高いレベルに合わせるのは、1度人生を経験したとしても大変な事だった。



 しかしその努力は報われた。無事に難関を突破し、特待生として授業料免除で絵梨花はその学園に入学したのだった。周りは御曹司ばかり。社長令嬢、社長令息が基本。政治的にも有名な人や、有名芸能人の子どもも通っているこの学園は、一般家庭から見れば高嶺の花ばかりいる敷居の高い学校なのだろうと思う。が、それも入学してから1ヶ月も過ごせば慣れるもの。



 絵梨花は現状、頭を悩ませているのは家庭的な身分格差でもなく、高度な授業に追いつけないわけてもない。



「失礼いたします。本日はここに折本絵梨花さんはいるかしら」



 目下の悩みは、この、毎休憩時間に現れる、生徒会長様である。



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