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婚約者


島流しにあったものの、辺境伯ベリオールさんのお城で働くようになったおかげでなんとか生きているわたしです。


使用人としての生活にも慣れ、自分はこのままここでゆっくり歳をとっていくんだろうなと思っていた矢先、

わたしがベリオールさんと話す機会を得たことで事態は風雲急を告げます。



「ごほ、ごほっ……やぁ、元気にやっているかな、ブリエノーラ」


「あ、ベリオールさん。はい。おかげで元気にやっていますよ」



婚約者のメイシスさんがわたしをあまりよく思っていないと聞いていたので、彼と話すのは基本的に避けていました。おかげで出会ってしばらく経つのにこれで三回目の会話といったところです。



「そうかい。元気にやっているようでよかった……ごほっ、ごほごほっ!」


「だ、大丈夫ですか? ベリオールさん、あまり顔色がよくありませんよ。……あれ、そういえば出会った頃もけっこう咳をされていませんでしたっけ?」


「よく見ているね……実は、君と出会う二ヶ月前くらいから原因不明の咳が出だしてとまらないんだ。日に日に体調も悪くなっている気がする」



二ヶ月前?


わたしはその言葉を聞いてハッとしていました。


老兵さんと初めに出会った頃にした会話を思い出します。


……確かベリオールさんは、わたしと出会う二ヶ月前に婚約されたって話でしたよね。

じゃあ、これってつまり−−


ベリオールさんはこんなわたしを迷わず雇ってくれた恩人です。


至急やるべきことができたわたしはその夜、早速行動に移っていました。



メイシスさんの私室に忍び込んだのです。



戸棚を漁っているとそれはでてきました。


摘まれた花が二輪置いてあり、それぞれの花の前には明日と明後日の日付が書かれた謎のメモが置いてあります。


わたしはその花を見て驚愕しました。



「え、これってヘナクーソカズラじゃないですか……!」



片手に持った灯りと、もう片方の手に抱えたお守りがわりの巻き貝をつい落としそうになります。


ヘナクーソカズラは毒を持った花だと、前に庭の手入れをしている時にパンナさんに教わっていました。


続いて手がかりを探すわたしは机の引き出しを開けます。


そこにはメイシスさんが書いたと思われる日記がありました。


一番始めのページには、こう書いてありました。


“ 計画通りコーラッシュ家の子息と婚約を結ぶことに成功した。ひ弱そうで私のタイプじゃないけど、ベリオールは中央に土地を持っている。罪人の息子であるベリオールが生きている間は無理だろうが、婚姻後に彼が死ねば妻である私が遺産を相続することになる。そうなれば自由だ。また貴族として中央で暮らすことも可能になる。あとは婚姻まで彼と島で暮らす傍ら、どう計画を実行に移すかを考えるだけだ”



「な、なんとっ。杞憂で終わればいいと思っていましたが、まさか本当にビンゴとは……」



わたしは恐る恐る、数日後に書かれた内容にも目を通します。



“ベリオールをどう殺すか考えながら庭を散策した。そこで偶然、ヘナクーソカズラがたくさん咲いているのを見つけた。これは使える。毒持ちのヘナクーソカズラは、体内に取り込むことで身体に悪影響を及ぼすが一回の摂取では体調を崩す程度だ。ただし継続して摂取すれば確実に死に至るらしい。さっそく今日から彼の食事に混ぜてみるとしよう”



もうここまで読めば十分でした。


悪巧みを行っていたようですが、この証拠を提示すればベリオールさんも彼女を追放して健康を取り戻すことができるはず。そしてわたしの生活は今まで通りというわけです。


しかし、その時です。誰かが静かに部屋に入ってきていました。


後ろ手に扉を閉めたその人は、今まで見たことのない鬼の形相でわたしを睨んでいます。



「め、メイシスさん……」


「……見たわね。やっぱり、同じ貴族であるあんたは早くに始末しておくべきだった」



はわわわわ。


メイシスさんはライ麦色の長髪を振り乱し、壁に飾ってあったサーベルを手にこちらに近づいてきます。


わたしは巻き貝を抱いてあとじさるも、彼女は待ってくれません。



「死んでおしまい!」


「うぎゃぁっ……!?」



巻き貝はけっこう頑丈のようでした。


咄嗟に掲げたところ、彼女の攻撃を受け止めてくれていました。


頼りになるお守りーーいや、もうここまでくれば相棒と呼んでもいいはずです。


しかし、所詮は相棒“巻き貝くん”も戦いの道具ではありません。


わたしは振り払われ、その場に尻餅をついてしまいます。



「ふふ、バカな女。大人しくしていれば、ベリオールを殺した後に待遇を考えてやったものを……。いい、コーラッシュ家の財産は私のものよ。お前みたいな女狐に、渡してなるものですか! 今度こそ死ねぇえっ!」



人が本気になった時の剣幕はすごいものがあります。


わたしは迫力に呑まれて動けず、死を覚悟しました。


サーベルが振り下ろされ、胸が一突きの下に串刺しになる。


その瞬間、鈍色の何かが宙を切り裂いていました。



「ーーごふっ……ぶ、ブリエノーラ、大丈夫かい?」


「え、ベリオールさん!?」



わたしを庇うように割り込んできた彼が、メイシスさんの攻撃を振り払っていました。


その手には月明かりを受けて煌めく刀剣が握りしめられています。



「ちっ、ベリオール……」



距離を取ったメイシスさんは苦々しい表情でしたが、すぐに歪んだ笑みを浮かべます。



「あははっ、でもあんた血を吐いてるじゃない。もう末期のようね。どうせもうまともに力も入らないんでしょう? ちょうどいいわ、あなたはここで本土復帰を企む罪人と争って相打ちになったことにしましょう。今日まで私の企みに気づけなかった自分を恨むことね」


「知っていたさ」



え?


わたしとメイシスさんはお互いに驚いていました。



「……はっ、そんなわけないでしょう? もしそうなら、むざむざ毒を摂取するわけがないじゃない」


「ない話ではないさ。僕は死ぬまでこの孤島で生きることを考えるとむなしくなるんだ。こんな生活、世の中にいないも同然だ。だから、僕は君の所業に気づいていながらも毎日毒入りの食事をーー」



ごんっ。


わたしは思わず、拾い上げた巻き貝くんを彼の背後から振り下ろしていました。


前世での死に方を思い出すと、きっと私の同僚である友人は悲しみにくれたに違いありませんでした。


それは男尊女卑の文化に浸かった家族だって同様です。


そう思うと、無性にベリオールさんの考えが許せなかったのです。



「命を無駄にしないでください。残された人が悲しみます」


「くっ……ブリエノーラ、君はこんな状況で何を……ぐうぅ」


「あはははは! こんな状況で仲間割れとか救えないバカどもね。そろそろ幕引きよ。二人仲良く、あの世にお逝きなさいっ!」



メイシスさんが刺突の構えでわたしたち目掛けて跳躍。


わたしは相棒である巻き貝くんを抱えて腰元に引き、



「命を狩ろうとするあなたは、もっと許せません!」



控えめに必殺技名を心の中で叫びつつ繰り出したのは、巻き貝くんを使ったスクリューパスでした。


そう、ラグビーのそれです。



「ふがあっ!?」



回転がかかった巻き貝くんの先端が、見事メイシスさんの額に命中して卒倒。


相棒の大活躍のおかげで、わたしたちは助かったのでした。



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