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島流し

短編版を大幅改稿した連載版になります。


短編版:https://ncode.syosetu.com/n9009ih/


「詰んだぁ〜……」



わたしは今、大海原を眺めて砂浜に座り込んでいます。


晴れ渡った空の下、過ぎ去っていくのは一隻の船。


わたしをこの島まで送り届けた船でした。


今置かれた状況を言葉にするのはやすしです。


島流し−−


そう、どうやらわたしは島流しの刑にあったようでした。



え、なぜそんな他人事のように言うのか?




乙女ゲーム『フォーエバー・プリンス(略してフォープリ)』に登場する悪役令嬢・ブリエノーラに自分が転生していて、今まで彼女の人生を歩んできたことに気づいたのがついさっき。


他人事のように語ってしまうのも無理ないというわけです。



さて、話は半刻ほど前まで遡ります。





「罪人ブリエノーラ。貴様は王国の第一王子ハーベスト様の婚約者、ミンスク様を毒殺しようとした罪で、今日からあの島で生活してもらう。いいな?」


「だから、ワタクシは無実ですわ! 何度言ったらわかるんですのよ!? このスカポンタン……!!」



まだ前世の記憶を取り戻す前のわたしことブリエノーラは、船上で役人に罪状を告げられ、威勢よく猛反発していました。


しかし抵抗もむなしく。

彼女は島に到着後、兵士たちにつつかれてさっさと船を下ろされてしまいます。


大きな事件が起きたのはこの時でした。


さぞ立派なヤドカリが棲んでいたと思われる一抱えもある巻き貝に、ブリエノーラは見事に足を取られてしまったのです。


そして不運なことに、流木に顔面からダイブを決めてしまったのでした。


前世の記憶が戻ったのはその時でした。



わたしはそう、前世ではしがない一般人の女性でした。



将来自立して生きられるようにと真面目に勉強したおかげで学力はそれなり。

高校教師にも大学進学を強く勧められるほどでしたが、親に相談したところ大学の学費は長男である弟にしか出さないと当然のように言われ、我が家に根付いた男尊女卑の文化に思うところがありながらもやむなく地元の中堅企業に事務員として就職。


会社の仕事をそれなりにこなす中で、気弱で大人しい同期の女友達ができ、会社ライフは充実していきました。しかし、清潔感という言葉とは無縁のおじさん社員に彼女がセクハラされていることを知り、怒ったわたしは人事のおばさまと信頼関係を築いた上でセクハラ現場の証拠をリーク。おじさんの所業は社内で大問題となり、居場所がなくなった彼はやむなく退職と相成りました。


友達にも感謝されて気持ちよくなっていたわたしでしたが、帰りの電車を待っている最中に背中を押されてホームに転落。そして電車が迫り、最後に見たのはわたしを見下ろすセクハラおじさんの下卑た笑みでした。



それらの前世の記憶が走馬灯のように蘇り、わたしは『わたし』であることを思い出したというわけです。



しかし、むしろ問題はそこじゃありませんでした。


役人が先ほどわたしに対して使った呼称が何より問題だったのです。


甲板の役人を見上げると、彼はこちらを見下ろし、嘲笑いながら言います。



「ふん、所詮は容姿がいいだけの赤髪娘。農民出身の分際で、権力を得ようと分不相応な野望を持つからこうなる。ザイードラ公にうまく取り入り、爵位を得たところでやめておけばよかったものを。まったくとんでない女狐だ」



この台詞には覚えがありました。


フォープリの島流しエンドーーいわゆる正規ルートで聞けるものです。


ちなみに島流しエンドとは、悪役令嬢であるブリエノーラを揶揄する意味で、ユーザーたちが面白おかしく使っているスラングでした。


やはりわたしは、フォープリに登場するブリエノーラに転生したようでした。



ブリエノーラは元々、アストリアルデ王国の北方にある貧しい村の農民出身。


彼女は王都へ作物を売りに行った際、偶然見かけたハーベスト第一王子に一目惚れし、いつしか結婚したいと強く願うようになります。


そんな中、ひょんな理由で中央貴族の養子となり、目的達成のためなら手段を選ばない非情さと狡猾さを武器に王子へと迫り、主人公と彼を巡って争うようになる。

とまあ、フォープリはざっとこんな感じのストーリー展開です。


しかし、あらためて情報を整理して思いましたけど、なんてことでしょうか……。


前世では、主人公が悪役令嬢に転生するエンタメ作品はたくさんありましたけど、いずれもバッドエンドを迎える前の、まだテコ入れ可能な段階で物語が始まるものばかりでした。



なのになぜ、わたしはバッドエンド後からなんでしょう?


前世も大概でしたが、今世も理不尽すぎませんか……?



わりとどんな時も冷静なわたしですが、よくない感情がふつふつと込み上げてきます。

落ち着くために素数すら数えたくない心境、と言えばわかってもらえるでしょうか。



「詰んだぁ〜……」



こうして冒頭のシーンへと繋がるというわけです。



しかし、死んだ魚の眼で嘆いていてもどうしようもありません。



見渡すと島は小さく、中央の小高い場所には小さなお城のようなものが見えました。


わたしは『フォーエバー・プリンス』を一通りプレイ済みでしたが、島流しエンドではブリエノーラが島に置き去りにされたところまでしか語られないので、島に住民がいるかや彼女がその後どうなったかなどの細かい情報は知りません。


つまりここから先は未体験領域というわけです。



不安な現実を前にやすらぎを求めたんでしょう。


わたしは気づきをくれた巻き貝をお守りがわりに脇に抱え、森へと踏み出すのでした。



読んでくださり、ありがとうございました!

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