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辞め巫女王女と死神王子  作者: 河ばた 四季
9/10

怪しい姉妹

暗い室内で、水晶玉に映る姉妹の姿を暗い瞳で見ている。

黒いフードを被った女だ。

水晶玉の中では、ラアラとサニーがお揃いの弓を手に、仲睦まじく談笑している。

「元・先読みの巫女様が何よ。ど厚かましく王宮で暮らしてるんじゃないわよ。

なぁあにが!お!そ!ろ!い!の!弓よ!」

口汚く罵っているのは、ヴァイオレットだ。

アーロン王とアーサー王子の異母妹であり、現在はグリーン公爵夫人である。

「お姉様、お声を落としてください。外に聞こえてしまいます。」

ここは、サングレイス王国の大神殿の中。神官の個室である。

ヴァイオレットの妹・アイリスの部屋だ。

「そんなもの、あなたが術をかけておけばいいだけでしょう。」

アイリスはしぃっと、口元に人差し指を立てる。

「そんなわけにはいきませんよ。神殿の中で魔術を大っぴらに使えるもんですか。」

ヴァイオレットの覗いている水晶玉は、魔道具の一つだ。

魔術をこめたバッテリー、いわば乾電池のようなもので作動している。

水晶玉には呪文が彫り込まれている。

この世界での魔術というものは、生活を便利にする道具に使うエネルギーなのだ。

魔道具に呪文を彫り込むと一定の時間作用して、魔術が切れると効力を失う。

最近は魔術のバッテリーを交換することで、作用が復活する物が出て来たのだ。

魔道具は生活を便利にすることに使われている。

しかし、アイリスの使う魔術は、それとは性質を異にしている。根っこは同じなのだが。

彼女は呪文を唱えることで、一定の作用を物質に与えるのだ。

音を外に漏らさないようにする、というのも出入り口の扉にたちまち作用するのだ。

いわば魔法使いなのだ。

「部屋を暗くすると、目が悪くなりますよ。」

と、アイリスは雨戸を開けた。

「ちょっと眩しい!気分よ気分!」

ヴァイオレットは目を細めて抗議する。アイリスは構わず、ツカツカと歩み寄り水晶玉を覗き込む。

「これが先読みの巫女様。サニー様とは似ていらっしゃいませんね。神殿にお越しくださらない

かしら。」

アイリスはうっとりと話す。ヴァイオレットは舌をだして

「元・巫女よ。今では博打狂いの悪逆王女よ。」

と毒づいた。アイリスは首を振り、

「分かっていませんね。お姉様。この方、先読みの巫女としての能力を失ったわけでは

ないのですよ。神々より稀な力を授けられた、尊い方です。

還俗されたのには何か深い理由がおありなのですよ。ああ。お仕えしたい。」

ほぅっと小さくため息をついたアイリスの頬は、ほんのり赤く染まっている。

「冴えないお子ちゃまだったわよ!あんた、がっかりすると思うわ!」

アイリスは気分を害した。姉は既にラアラ様にお目にかかっているのだ。それなのに、

それなのに。

ふわりとヴァイオレットの体が宙に浮いた。アイリスは呪文を唱えている。

「ちょっと、アイリス!降ろして!」

アイリスは姉の体を天井まで持ち上げた。目がマジである。

「ごめんなさい!もう巫女様の悪口は言いません!」

ヴァイオレットは必死に謝罪した。アイリスは姉をそっと降ろした。

「あと1時間は。」

ヴァイオレットはぼそりと呟いた。アイリスはまた呪文を唱え始めた。

「やめてー!ごめんなさい!巫女様に会えるようにするから!」

アイリスは呪文を止めた。

「ホント?」

彼女は王女として生まれ、未来の大神官はとはいえ、おいそれと外出出来ないのだ。

しかも王宮に足を踏み入れるのは

実母の暮らす離宮でさえ、難しいことなのだ。

「夜にこっそり抜け出せば簡単よ。一緒に行きましょう。」

ヴァイオレットはニタリと笑った。

 数日後。ラアラは賭場の奥の部屋にいた。今夜はアーサーは来ないという連絡が入っているとショーンは

言っていた。

賭場の様子を見守っている。今夜の賭場は平日だけに穏やかだ。談笑しつつゲームを楽しみ

勝ったり負けたりを繰り返すお客ばかりだ。

ラアラはつい、あくびをしてしまった。ショーンがくすくすと笑う。

「し、失礼しました。」

王女として、いや元巫女として他人の前であくびをするなんて、

(転生前なら平気で授業中にあくびをしていたが)とんだ失態だ。

「少し、仮眠を取ってください。そこのソファで。」

ショーンの厚意に甘えることにした。

「ありがとうございます。実は連日マナーだダンスだ弓矢だと、お稽古漬けなんで

クタクタなんです。」

ラアラはハードな日常を正直に言った。

ショーンも、昼は商人、夜は賭場の支配人と忙しいはずだ。

「人間、体力よね。」

柔らかなソファに身を横たえて、ショーンから借りた毛布を掛けた。

(ああ、気持ちいい。)

あっと言う間にラアラは眠ってしまった。

 「姫、姫。起きてください。」

とショーンの囁く声で目覚めた。

時計を見たところ、あれから2時間経過していた。

「何かあったの?」

頭を振って意識をはっきりさせてラアラは尋ねた。ショーンが

気まずそうな顔をしているのだ。

「それが、初めてのお客様がね。低いレートで楽しめるルーレットをお勧めしていたのですが。」

「イカサマ?」

「いえ、それが」

ショーンが真剣な眼差しでいった。

「魔術ですね。咄嗟に使ってしまったという未熟なレベルですが。」

「魔術・・・。」

ラアラは

「大した事ないでしょ。私、何か良い夢を見ていたから。」

と笑った。

ショーンも魔術を使う。彼は魔道具を作って売っているのだ。

この賭場ではラアラが怪しいと目を付けた客がイカサマをした時に

取り押さえることのできる魔道具を使っている。

賭場はざわついていた。

「何があったのか、話して。」

ルーレットの担当ディーラーに声をかけた。

「私が投げ入れた球が浮いたのです。ふわっと。」

ラアラがそのお客を見た。客は仮面を着けた2人連れの女性で、後ろに従者が控えていた。

うっ。ラアラは仮面の下で目を見開いた。

(ヴァイオレットじゃない。もう一人は知らないけど。魔術を使うなんて。)

「このお客様はこの勝負で最後のチップを賭けられました。」

と、ディーラーは言う。ショーンは

「右の少し背の高い女性が、術を使いました。」

と囁いた。

ヴァイオレットではない方、なるほど、と頷いた。

「困りますわね、お客様。こちらの賭場はイカサマと魔術はお断りですのよ。」

冷たく言い放つ。

「し、知らないわよ!」

と、ヴァイオレットがしらを切る。

ショーンが、桃の種のような物を取り出す。

「この魔道具は、魔法を使われた物と術を使ったものとを繋ぐのです。

確かめ・・・。」

言葉が終わらないうちに、ヴァイオレットが動いた。

バン!という破裂音がしたと思ったら、煙で前が見えなくなった。

煙幕だ。ラアラは煙を思い切り吸い込んでしまった。

「うっ。」

ラアラはしゃがみ込み、激しく咳き込んだ。

ショーンが何か叫んだ。

すると、視界が晴れた。

ショーンが魔術を使ったのだろう。

「何だ?今のは?」

「あの女、逃げたぞ。」

客が口々に言っている。

ヴァイオレットは逃げてしまったらしい。

「お怪我はありませんか?巫女様。」

いつの間にか、ヴァイオレットではない方が、ラアラの背中を擦ってくれている。

「ケホッ。あなたは?」

「ご無礼いたしました。私は、神官をしております、アイリス・サングレイスです。」

下手人自ら身元を白状するとは。と、ラアラはほくそ笑んだ。

「まぁ。陛下の妹君。恐れ入ります。あ、いたたたた。」

ラアラは大げさに痛がってみせた。

「巫女様!」

アイリスは顔色を変える。

ショーンは

「私は巫女様のお体に触れることは許されません。申し訳ありませんが、

奥のお部屋までお連れしてください。」

と、さも困り切ったようにアイリスに頼んだ。

「分かりました。さあ、どうぞ。」

と、ラアラはアイリスの肩を借りて立ち上がり、奥の部屋まで

戻った。ついてきたショーンは後ろ手にそっと鍵をかけた。

賭場はお開きとなり、お客も帰っていった。

・・・楽しい夜はまだこれからだ。

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