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辞め巫女王女と死神王子  作者: 河ばた 四季
4/10

昼食会ではベラ様優勢?

昼食会当日。ベラ王太后の暮らしている離宮に、ラアラとサニー王妃は出向いた。

「ようこそ。サニー王妃、ラアラ姫。」

ベラ様は今日も紫のドレスを着用している。

娘のグリーン公爵夫人・ヴァイオレットと挨拶を交わした。

あれからラアラはベラ様のことを調べ上げた。

彼女は菫の花をこよなく愛する。離宮のあちこちに菫の花をモチーフにした装飾がほどこされている。

談話室で他の招待客と挨拶をした。いずれも女性で、年齢は40から50代。

名のある貴族の当主や夫人であった。しばらくすると侍従の案内で着席した。

室内には長方形のテーブルが3つ、コの字に並べてあった。

奥のテーブルは3人掛けだ。真ん中には当然、主催者のベラ様が座った。

ラアラの席次は、なんと、ベラ様の右隣りだった。

(ええっ私ってそんなに重要なゲストなのかしら?)

ベラ様の左は王妃のサニーだとばかり思っていたが、

サニーはラアラの右隣りの席、というか、別のテーブルの端の席だった。

果たして王妃に相応しい席次なのか?嫁いびり発揮か。それとも姉妹で会話をしやすい席にしてくれたのか。

サニーの向かいに当たる窓を背にした席には、ヴァイオレットが腰かけた。

ベラ様の左は空席のままだった。

「皆様本日はようこそ。これはごく内輪のお食事会です。1名、遅れてまいりますので、お食事を始めましょう。」

ベラ様の合図で食事が始まった。

「ラアラ様、いかがですか?サングレイスでのお暮しには慣れましたか?」

にこやかにベラ様が語り掛けてくる。

「はい。国王様のご配慮には感謝しております。」

無難な答えを返した。

「あの、王太后様は菫の花がとてもお好きなのですね。

ナプキンやテーブルクロスにも菫がデザインされています。」

思い切ってラアラは自分から話かけた。

「ええ。御覧のとおりですわ。娘にも名づけるほど。

あなたのお名前は、正式にはローズ様ですわね?」

ベラ様は答えた。

「あ、はい。公式文書にはローズで記載されております。」

ラアラは正直に答えた。神殿に巫女として入った時以外、

ローズ・エヴァ・スカイ・ハイと呼ばれた事は無い。

ちなみにサニーの正式名はアンヌ・テアだ。

見事な金色の髪を見た母がサニーと呼び始めた。

菫の花ネタを深掘りして時間稼ぎをしようと目論んでいたラアラだったが、なぜか自分の名前の話に

なってしまった。

「良いお名前だわ。貴女はもう大人なのだから、そちらを名乗られるようになさったらいかが?

ラアラ様、ではいささか子供っぽいかと思いましてよ。」

ラアラとは確かに、ラアラが生まれた時に主にサニーが

そう呼んでいたことから定着した名前だ。嫁いびり発動なのか?途端にサニーの動きがぎこちなくなる。

「ありがとうございます。でも、幼い王子様達もラアラと呼んでくださるので

もう少しこの名で通そうと思います。」

ラアラの答えにサニーはそっとベラ様の顔いろを伺っている。

そこへ、爆弾が落とされた。

「ラアラ様ってとても良いお名前だと思いますわ。何といっても

今や庶民までが知る人ぞ知る。

『悪逆王女・ラアラ』様ですものね!」

声の主はヴァイオレットだ。すると、他の客人達から失笑が漏れた。

どうやらこちらの皆様、かわら版の愛読者でいらっしゃるようだ。

サニーだけは話題について行けていない。

さすが王妃様。世俗の垢にまみれていらっしゃらない。

「なんですの?それは。ラアラがどうしたと?」

サニーが真顔になった。

「王妃様はご存じないようね、ヴァイオレット、説明して差し上げて。」

ベラ様が促した。ヴァイオレットはかわら版を賑わせている悪逆王女の事を語って聞かせた。

「火の無いところに煙は立たないと申しますものね。ねえ、ラアラ様、賭場ってどんなところですの?」

とヴァイオレットは意地悪く言った。

「巫女様をお辞めになったのも、もしや博打のためでは、と噂になっておりますのよ。

ですから、お名前をお変えになっては、と私。王妃様、アタクシおせっかいでしたかしら?」

とベラ様は得意満面である。

ラアラの失態だ。サニーにかわら版のことを話していなかったのだ。

サニーは顔面蒼白で、ラアラを見つめている。

(ああっお姉様はご自分を責めていらっしゃる。)

「これには、理由があって・・・。」

と、迂闊にもラアラは口に出してしまった。ベラ様もヴァイオレットもそれを逃しはしない。

「あら?どんな理由がおありなのかしら?ぜひとも伺いたいですわ。」

「お母様のおっしゃる通りよ。お聞かせくださいませ、ラアラ様」

母と娘、2人でがっちりタッグを組んでいる。

ラアラは言うべき言葉が出てこなかった。相手の事を調べても、実戦で使えなかったら

なんにもならないじゃない!と焦っていた。

サニーは心配そうにラアラの顔を見ている。

そこへ、

「貴婦人がかわら版をお読みになるとは。驚きますね。」

と若い男の声がした。ラアラには聞き覚えがある声だ。

「アーサー王子のご到着です。」

侍従の声が後ろから追いかけてくる。

大股で部屋に入ってきたのは、やはり先日会った賭場の主だった。

アーサー王子。アーロン王の同母の弟。つまりサニーの義弟。

今日は王子らしく、金色の縁飾りの施された濃紺の上着を身に着けている。

「私もかわら版では死神王子と言われていますよ。」

両手を広げておどけてみせるその姿は、ラアラにとって救世主に見えた。

そう、もうすぐ帰国すると言われた死神王子とは、彼の事だったのだ。

「アーサーお兄様!!」

ヴァイオレットが食事中にも関わらず席を立って彼に駆け寄った。

「公爵夫人、お久しぶりです。お変わりないようで何より。」

「嫌ですわ、他人行儀な。さあ、席にどうぞ。皆様、アーサー王子が都にお帰りに

なられましたわ!」

アーサーの腕を取り、ヴァイオレットは大はしゃぎだ。

「待ってくれ。今日のこの会への出席については内密に。

王へのご挨拶がまだなんだ。今、兄上はお留守で。」

強引にベラ様の隣の席まで引っ張ってこられたアーサー王子は、居住まいを正し

「王太后様、おひさしゅうございます。」

と挨拶をした。すると、ベラ様の目から涙がこぼれた。

「元気そうで何より。」

ベラ様はアーサーに向かってそう言うと、正面に向き直った。

「皆さん、我が息子、アーサーが帰って来まし・・・た。」

ベラ様の言葉は嗚咽となった。客人たちの中には涙を拭う者もいた。

 アーサー王子の母親は第1王妃。ベラ様は前国王の第2王妃。血のつながりは無くとも

彼女はアーロン王とアーサー王子を大切にしているのだ。

すっかり話の中心はアーサー王子になった。

「王妃様、いえ義姉上。あの時以来ですね。ご無沙汰しております。」

王子の声がしんみりとなる。あの時とは、彼の血の婚礼以来ということだろう。

「御覧のとおり私は健勝。もう、3人の子の母です。そしてこちらが・・・。」

と、サニーが流れで私を紹介しようとした。

「存じ上げておりますよ。ラアラ様。何しろ、彼女は私の賭場の用心棒ですからね。」

と、サラリとアーサー王子はぶっこんできた。

「な、なんですって?」

サニーはもちろん、一同驚愕の面持ちである。

「いや、私もかわら版に死神王子なんて書き立てられて、変に有名になったんですよ。

公の場に出ることもなくて暇を持て余していたので、今は小遣い稼ぎにあちこちの都市で

賭場を経営しているんです。ああ、ご安心を。良心的な健全ムードの賭場ですよ。

丁度、都の館の専属の占い師が引退したので、元・先読みの巫女様を頼んだんです。」

アーサーの話には皆を引き込む力がある。貴婦人たちは皆、納得してしまった。

「イカサマをする人間をあぶりだしていただくのです。ラアラ様にとっては人間観察の

勉強になるそうで、お互いに助かっています。そうですよね、ラアラ様。」

アーサーから同意を求められて、ラアラはうなづく。

「わ、ワタクシ。この国で初めてお芝居を観に行った時に、意味がわからなかったのです。神殿に暮らすと

人の心の機微にうとくなるのです。五穀豊穣、民の安寧を願うのは尊い事なのですが。

どんなことで人が笑うのか、やきもち、憧れ、思いやりなどの濃やかなやり取りについて行けなかったのです。

ですから、ある側面だけですが人間の本当の姿を見ることができる賭場で勉強しているのです。」

ラアラは事実を言った。サニーは

「それで、賭場に出入りして悪逆王女?などと書き立てられたのですか。王に願い出て

その版元に訂正をさせましょう。」

と、厳しい顔つきになった。アーサーは首を傾げて

「それは得策ではありませんね。民にはガス抜きが必要なのですよ。

我が国は多少の不満はあれど、王族を適当に笑いものにして

楽しむ余裕があるのです。民の暮らしぶりはまあまあということではないですか?」

と、サニーをなだめた。

「そういうものなのでしょうか。ラアラ、どう思う?」

サニーはラアラに話を振った。

「アーサー様のおっしゃるとおりだと思います。」

ラアラはアーサーに同意した。

「悪逆王女と死神王子、本人達が気にしないというのですから、王妃様には寛大なお心でもって

お見逃しいただければと思います。」

この言葉で一段落ついて、昼食会は再開された。

皆の関心がアーサーに集まったので、ラアラはホッと息をついて彼を見た。あのハンサムな青年貴族は賭場の主だったのだ。

私の事を知っいたから相当な身分のある貴族だとは思っていたけれど、死神王子だったとは。

彼の明るい金茶の髪が窓からの陽光に照らされている。そして表情豊かな話しぶりを見ても、

およそ死神などという呼び名にそぐわない様子だ。

 ふと、アーサー王子を照らす窓の向こうに黒い小さな影が動くのが見えた。

「危ない!」

ラアラは言うと、姉・サニーを庇った。

ガシャン!

窓のガラスが割れる音が響いた。

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