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辞め巫女王女と死神王子  作者: 河ばた 四季
3/10

不幸の手紙とベラ様

不幸の手紙、とサニー王妃が言った封書は、蝋で封がされていた。

「この紋章は?」

封を手に取り、刻印された印璽についてラアラは訊いた。

「王太后様からの、昼食会へのお誘いよ。」

サングレイス王国の王太后・ベラ様は、前国王の第2王妃だった方だ。亡き前王には配偶者が2名いたが、

第1王妃は既に亡くなっている。

従って、現在の国王との血縁は無い。子供は第3子、4子といずれも姫君で3子はグリーン公爵と結婚し、

4子は神殿の神官になったと聞く。

「私のお披露目の晩さん会は来月のはずよね?」

ラアラは姉に確認する。サニーは頭を抱えた。

「粗探しよ。これは。嫁いびりの一環だわ。」

聞いたことも無いような低い声で、サニーは呟いた。

「よ、嫁いびりって・・・。」

まさか、この異世界の王家にもそんなものがあるなんて。

転生する前、ラアラは令和時代の日本の中学生だった。その彼女が知っている

嫁いびりは、奥様向けのサイトの実話再現コミックのネタだった。

「アーロン(王の名前)は婚約するのが遅かったでしょう?ベラ様はご自分の姪ご様と結婚させたかったようなの。」

サニーが理由を話し出す。現王、アーロンが15歳の頃に実母である王妃が亡くなった。

第2妃のベラ様はアーロン王子を可愛がっていたので、自身の血縁の娘と結婚させたかったのだという。

姪はアーロン王子と2歳違いで釣り合いも取れているとベラ様は考えていた。そろそろ本格的に話を進めようかと

思っていた矢先、アーロン王子はスカイ・ハイ王国のサニーを王妃として迎えたいと公言したのだ。

しかも、サニーの他に妃は持たない、と宣言した。

 ベラ様としては、姪には第1王妃は無理でも第2王妃になって貰いたかったのに。

何しろサニー王女はわずか8歳。スカイ・ハイ王国からはなかなか色よい返事を貰うことが出来なかった。

アーロン王子は、熱烈なラブレターをサニーに送り続けた。それらは何年間もサニー自身の元には届かないのだが。

王太子の特権を使って早馬で毎日、手紙は届けられた。スカイ・ハイ王家としては受領せざるを得ない手紙だった。

 最初の方こそ女王も目を通したが、後は定期的に報告を受けるだけであった。

王宮の中でそれらの手紙は保管された。

(うわぁ。ラブレターを相手の親に読まれるとか。最悪じゃん。あ、でも生まれながらの王族は

そんなこと気にしないのかも。)

 外交ルートを通じて、何回か両国で話し合いが持たれたのはいうまでもない。

まず、サニーが12歳になったら返事をする、ということで表面上は落ち着いた。

しかし、アーロンの手紙攻撃は留まるところを知らなかったそうだ。

「12歳の誕生日にアーロンからプレゼントが届いたの。その時初めて

宮殿内に、アーロンから私に宛てた手紙のための部屋があると知らされたのよ。眩暈がしたわ。」

ふう、とサニーはため息をつく。

「よ、読んだんですか?」

ラアラは恐る恐る聞いてみる。サニーはブンブンとかぶりを振った。

「そんなわけないでしょう!」

サニーは即答した。

「でも結婚したんですよね?どうしてですか?」

ラアラは姉の気持ちを知りたくなった。

「ラアラ。あなたは早くから巫女として人生が決まったから、悩むことは無かったかもしれない。」

サニーの言葉にラアラはぎくりとした。サニーはその様子を見て微笑んで、続けた。

「王家に生まれたからには、国の繁栄の為に働かないといけない。私は体格が良くて武術、特に弓が得意だから

軍人になるか、宮廷の医師の弟子になるか、悩んでいたの。けれど12歳の時。長年、私と結婚したいと言っている

人がいると知ったのよ。1国の王太子よ。しかも隣国。断ったら双方の国に不利益になる。

受けるしかないじゃない。」

ラアラは震えた。これが王女の覚悟か、と。

「でも、婚約して会ってみると、とても良い人だった。

今でも、私の事を大好きだって毎日言うの。ほだされたっていうのかしらね。今となっては私も好きよ。」

姉は照れながらそう言った。そして、

「いけない、ベラ様のことだったわね。『アーロン王が何年も恋焦がれたというのが、丸太のように腕の太い、

女性とはね。』って結婚式の後に言われたのよ、私!」

と、サニーは自分の腕をパンパンと叩いて言った。

確かにサニーは上背も高く、弓を始めとして武芸が達者だ。確かにラアラに比べれば腕は筋肉がついて逞しい。

しかし身体のバランスが良く、顔は小さい。トータルとしてとても美しいのだ。

「お姉様の容姿にケチをつける人がいるなんて、驚きね。」

ラアラは素直な感想を述べた。

「私も生まれて初めてのことだったわ。でも、それが姑というものだと身に染みて知ったわ。」

サニーはラアラの手を握り、ため息をついた。

「苦労されたんですね、お姉様。」

ラアラは姉を労った。

「でもアーロンがいつも庇ってくれたから。お陰で最近ベラ様とは顔を合わせていないの。次に

会うのはベラ様のお葬式だと思っていたのに。」

サニーは悔しがる。

「昼食会に招待されたのは、私とお姉様だけですか?国王様は?」

サニーは絶望の面持ちで言った。

「国王様は、地方にお出かけでお留守になるの。狙っていたのよ。

世慣れないあなたを笑いものになさるおつもりよ。ごめんなさい。ラアラ。」

サニーは正々堂々とした勝負ごとは得意だが、こういうねちねちとした

女性同士の付き合いはうまくできないのだと嘆いた。

ラアラは受けて立とう、と思った。

「お姉様、お嘆きにならないで。

ベラ様の事をもっと私に教えてください。生まれた国、ご両親のこと。

お好きな色、食べ物、ご趣味、どんな細かいことでも結構ですから!

人を使って現在のお暮しぶり、ご友人関係も調べてお知らせください。」

(情報を集めるだけ集めて、上手く活用して見せてやる!どうせ悪逆王女と

笑われている私だもの。今更一人から笑われたからってなんなの?)

昼食会までわずか10日しかないが、姉と共に出席することに決めた。

今日は姉の子供達と一緒に、王宮の庭で昼食だ。

初夏の日差しが心地よい。

来週、ベラ様の昼食会に招かれているラアラとサニーは打ち合わせ中だ。

レニーとヒューイは侍女達と遊んでいる。メグは蔓で編んだゆりかごで眠っている。

「ベラ様が、お姉様達を、その、排除しようとしている可能性は

本当に無いのですか?」

ラアラは尋ねた。サニーは

「王位を自分の娘に継がせるつもりなら、さっさと実行していたはず。

アーロンが結婚して子供が生まれる前にね。」

と言って首を振る。

「ベラ様の親類に、妃になりそうな女性はいませんし。本当に嫁いびりの一環だと良いのですが。」

と、ラアラは言う。

「あなたの見立てでは危険は無いのよね?」

とサニーは言う。当然のようにラアラは先読みをしてみたのだ。

「私の場合ですが、危険な時ほどはっきりとした映像で見えるのです。例えば・・・

レニー!転ばないようにね!石があるわ。」

ラアラは今まさに駆け出そうとしていた第1子のレニーに声をかけた。

レニーはその場で足踏みをして、

「あい!らあらたん!」

と、返事をした。侍女が素早く芝生から石を拾ってポケットに入れた。

「これで大丈夫。尖った石だから危なかった。」

ラアラは笑った。

「危険であれば、招待状を手にした瞬間に映像が見えたはずだと思います。」

サニーは感心した。

「あなたを信じるわ。」

トランプの勝負を読みながらイカサマに警戒する方が難しいと言えば

難しい。

そこへ、国王付きの侍従が走って来るのが見えた。

「王妃様、国王様がすぐに出発することになられました。」

息を切らせて彼は言った。

「私がお見送りしないと王はお出かけにならないのよ。」

姉は急いで立ち上がった。

「子供達はこのまま遊ばせてあげて。ラアラ、少し失礼するわ。」

ラアラは姉の姿を見送った。

子供らを見ていると退屈しない。

レニーもヒューイも母であるサニーによく似ている。

赤ん坊のメグは父親であるアーロン王に似ているそうだ。

ぷくぷくとしたほっぺをそっと撫でてみる。

(うわぁすべすべ!)

ふと気が付くと、侍女達がオロオロしているではないか。

(なにごと?)

特に危険は察知できないけれど。

王宮の庭は広大である。畑もあれば、湖や林まである。

ラアラは現在、国王とその家族が暮らす宮殿の離れに

部屋を貰っている。

 しかし当初は遠慮して、湖の近くの小さな屋敷に滞在すると申し出た。

庭の中には馬車道が通っており、行き来に不自由はしない。他に、小径がいくつもあり、日々の散策には

持って来いなのだ。が、今回は。その小径を遠征してきた一団があるのだった。

ビーチパラソルのような大きな日傘が見える。

「あれは、王太后、ベラ様です。どうしましょう。こちらにいらっしゃいます。」

30歳くらいの侍女が少女のように慌てている。

「逃げ出すわけにもいかないでしょう。ご挨拶をいたしましょう。子供達をここに。」

王妃・サニーが宮殿に戻ったのを狙いすましたようにやってくるとは。ラアラはベラ様は

先制攻撃タイプなのだなと思った。

侍女を使いに出して、王妃の妹がご挨拶を願い出ている旨を伝えて貰った。

ずんずんと一団が近づいて来る。日傘の下にいるのはベラ様だろう。

初夏だというのに、濃い紫のドレスを着ている。高く結い上げた黒髪に、紫色の髪飾りと着けている。

(うわ、気合入ってます!て感じ。)

ラアラは略式のお辞儀をして、口上を述べた。

「王太后ベラ様にご挨拶申し上げます。初めてお目にかかります、

私はスカイ・ハイ王国第7子、ラアラにございます。

先日は昼食会へのご招待を賜り誠にありがとうございます。」

レニーとヒューイは面識があるようだ。

「ごちげんよう。おばあたま。」

「よう。」

と、頭を下げた。さすが王子様、普段はともかく、肝腎な場面での礼儀はしっかり躾をされている。

「ごきげんよう。ご挨拶ありがとう。巫女様が還俗なさるとは思い切りましたね。何か。ご事情でも?」

一気に核心に迫ってくるベラ様!この人はどうやら言いたいことを言ってしまう性質のようだ。

「はい、新たな先読みの巫女が誕生することが判明したので、私は引退を決めました。」

はきはきとラアラは答える。

「新たな巫女様はまだ生まれていないのですか?巫女様がいなくては、お国の皆様が困るのではないのですか?」

ベラ様はずけずけと質問をしてくる。ラアラは

(うわ、この人、うちの親戚の噂好きのおばちゃんみたい。)

と思った。

「困るようなら、ワタクシ、巫女を辞めてはいません。次の巫女様については神殿から口外を禁じられて

おります。」

ラアラはうまく躱したつもりだった。

「ホホ。私は隠居の身。誰に漏らすこともないゆえ、ご安心を。」

ベラ様は引いてくれない。どうしよう?ここで話さないと、ベラ様を信用していないという事になる。

「わ、ワタクシは神罰が恐ろしいのでございます。お許しを!」

王太后より上の神様で、どうだ!とラアラは逃げを打った。

ベラ様はふうむ、とラアラを見下ろした。ラアラはその圧力に耐えた。

「私とて神罰は恐ろしい。ふふ。ラアラ殿、昼食会でお会いできるのを楽しみにしておりますよ。」

と、ベラ様は踵を返した。ラアラが肩の力を抜いた瞬間。

「そうそう、こんな信仰に厚い方が賭博に興じているなど、おかしな噂が立ったものです。」

と言う言葉が飛んできた。

(感じ悪ーっ)

ベラ様はサニーの言う通りの人だった。

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