白秋
こんにちは、こんばんは。最近は寒くなってきて、少し体調を崩しそうで怖いシラスです。
今回は純文学風に「秋、芸術」をテーマに書いてみました。ぜひご一読下さい。
美しいものは善、醜いものは悪だ。それが芸術の全て。
ここに、子供がキャンパスに向かってバケツいっぱいのインクをぶちまけたような毒々しい画が飾られてある。
醜悪、悍ましい。見た者を、それらの嫌悪感が全てない交ぜになった何かで満たしていく。
描いた自分でさえそう思うのだ。だがこれは、美術館に飾られてしまった。
タイトルは「秋」。かろうじて山だと分かりそうな影の上を、赤、紅、朱、赫の群れが覆い尽くしている。
自分はこれを描いてすぐ、死ぬつもりだった。芸大を出て、フリーターとして食いつなぎながら、何とか美しいものを世に出したいと必死になっていた。
あれから3年、生活費もそこを尽き気力など疾うになくなっていた。
高校にいた頃には、蒼すぎる理想を応援してくれる彼女もいた。
芸大にいた頃には、昼下がりから夕暮れまでデッサンの腕を高め合った仲間との黄色い陽だまりがあった。
そんなことを思い出し、展覧を後にする。外に出てみるとかなり肌寒い。
春も夏も終わり、もはや冬に届くまで冷えてゆくしかない。
あの画は、熱だ。夏を終えてもなお燻る最後の熱。だが、そこに温かみなどない。
ただ必死に、キャンバスの上で燃えている体を装っているのだ。
必死すぎて笑える。薄っぺらい。まるで駄々をこねる子供のようだ。
それでも佳作の評価を貰ったのだから、見る者の評価から得るものもあるだろう。
そう考えて自分の絵を自分で冷やかしに来ているのだが、誰もが遠目に眺めるだけで足を止めることはない。
それほどまでに、どこか嫌悪を覚える作品なのだろう。むしろ何故こんなものが佳作なのか。
何はともあれ、自分はもう終わったのだ。
今夜、スミノフでも煽って死のう。
「あの、」
後ろから、細く声が聞こえた気がしたが誰か女が男を呼んでいるのだろうと思って無視した。
一瞬の後、カーディガンの袖が軽く掴まれているのに気づき振り向いた。
彼女だった。頭が働く前に、身体が動いていた。彼女に背を向け踵を返す。
だが、彼女は逃がしてくれなかった。
「どうして、連絡くれなくなったの?」
デッサンの練習とバイトで忙しくなってから、彼女の優先順位は段々と下がっていった。
そこからかもしれない。芸術の為に他の全てを塗りつぶしたのは。
何も返せないでいると、彼女は続けた。
「あの画、どこか寂しそうだった。全部色が塗られているのに空虚で、少し気持ち悪いくらい」
気持ち悪い、はっきりとそう告げられて身体が固まった。
「あなたは、何を塗り重ねていたの?」
何も、答えられなかった。自分への憎悪とか、画の道に進んだ後悔とか、あったはずなのにだ。
「色使いは昔っからいいんだけどね」
そう彼女は少し悔しそうに言って、抱き着いてくる。
「もう一回、昔みたいな画が見たいな」
耳元で囁く彼女の言葉は、半分も頭に入ってこなかった。
彼女が預けてくる温かさと重みを、受け止めるので精いっぱいだった。
帰ったら、真っ白なキャンパスに白を塗ろう。何故かそうするのが、美しいと思えた。
いかがだったでしょうか?何か感想ございましたらご指摘下さると嬉しいです。
それでは皆さん、次回作でお会いしましょう。それでは…