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黄昏の記憶  作者: リーメン・シュナイダー
第一部 黄昏の記憶
8/12

試し

耳狐巫女喫茶『ヴィクスン』での会合から、十数日……


すぐにでも相手側からの何かしらの動きがあるかと警戒していたが、そんな事は全くなかった

俺は普段と変わらない日常を送っていた。豪華になった朝食と夕食、そして夜の訓練を除いては……


会合の夜、早速ロンメルさんに呼び出された俺は、10kgを超えるパワードスーツを含めた装備一式を手渡された

そして、満面の笑みでこう言ったのだ


「まずは体力作りからだ。何、最初からそれほど無茶は言わないよ。

 その装備を着用した状態で、10km程を走って(・・・)もらうだけだよ」


『何を冗談を言ってるんですかぁ~』と、思わず笑って流そうかとも思った

だが、どう考えてもそんな事では逃げられそうにない、無言の圧力がそこにはあった


「……分かりました」


俺は翌日の筋肉痛との闘いを覚悟しながら、そう頷くしかなかった……


そして、訓練が始まって一週間は激しい筋肉痛との闘いであったが、その痛みを超えると、不思議と訓練は苦にならなくなった

元々親父から剣の手解きを受けていたのも、功を奏したのかもしれない

だが訓練前と訓練後の、入念過ぎるストレッチとロンメルさんの指導の賜物だろう


そんな訓練の成果を試す機会が訪れたのは、咲にせがまれてカラオケに向かう道中だった……


咲に円、連に健介というお決まりのメンバーでじゃれ合いながら歩いていると、その女性は現れた

着物姿で、地図を手に困ったような表情を浮かべて周りをキョロキョロとしていた彼女は、俺を見るなり微笑を浮かべて話しかけてきた


「ごめんなさい、この辺の学生さんよね?ここに行きたいのだけど、分かるかしら?」


そう言って差し出された地図には、ここから然程遠くない路地裏にある、小さな雑貨店に赤い丸印が付けてあった


「あっ、ここって可愛い雑貨が売ってる店だ。ここからそんなに遠くないし、良かったら案内しましょうか?」


「本当?それは、とても助かるわぁ」


咲の申し出に、女性はそう言って無邪気に喜んで見せるが、その瞳に一瞬、剣呑な色が宿ったのを俺は見逃さなかった

恐らく、彼女は俺を狙っている襲撃者の関係者なのだろう。なら、ここでこいつ等を巻き込むのは好ましくない

そう考えて、案内を申し出た咲へと俺は提案の言葉を放った


「全員で行く必要もないだろ?俺が行ってくるから、先に行って部屋を押さえておいてくれ」


「ん~、それもそっか。じゃ、銀河に任せますかな」


案内をすることに、大した興味はなかったのだろう。俺の提案を、咲はすんなりと受け入れる

そして他のメンバーも、何時ものノリで揶揄いの言葉を口にした


「二人っきりだからって、変なことするなよ」


「浮気はダメだぞ~」


「駄目ですからね」


「そんな事するかッ!!良いから、早く行けよ。

 お気に入りの機種、埋まっても知らないからな」


そう言って追い払うと、咲達はきゃいきゃいと楽しそうに騒ぎながら去っていく

それを見送ってから、俺は女性―――恐らくは刺客であろう彼女へと、言葉を放った


「それじゃ、行きましょうか」




     *




「へぇ~。それじゃあ、今日は妹さんの誕生日プレゼントを買いに?」


「はい、そうなんです。それで友人に良いお店を教えて貰ったのですが、迷ってしまって……

 案内して頂けて、本当に助かりました」


そう言って、ころころと笑う女性……

その姿はどう見ても、妹思いのお姉さんにしか見えないが、こちらを狙ってきた刺客の可能性が高い

何時何処から攻撃されても良いように警戒しつつ、それをおくびにも出さないように気を付ける


「そんな、大したことじゃありませんよ……っと、着きましたよ」


地図に書かれていた、路地裏の雑貨屋

咲達のウィンドウショッピングに付き合わされ、偶に訪れるその店の入り口には、本日臨時休業の看板がかかっていた


「あれ、臨時休業ですね。どうされます、もし良ければ近場の別の雑貨屋でも……」


そう言って女性の方を振り返った俺の目に飛び込んできたのは、こちらに向かって右手を向ける女性の姿

次いで、女性が小指を折り曲げると同時に、袖口から一条の光が飛んで来た


「危なッ!?」


突然の事に驚きはしたものの、元々警戒していた事が功を奏したのか、体は瞬時に反応する

飛んで来た一条の光―――恐らくは何かしらの薬品が塗布された針であろうそれを、俺は紙一重で避ける事に成功した


「……このッ!!」


俺に、攻撃が避けられるとは全く予想していなかったのだろう

女性は驚愕の表情を浮かべたかと思うと、すぐにその表情を憎々し気に歪めると、袖口から取り出した短刀を振り上げる

だが、それを振るわれるのを座して待つ俺じゃない。女性の顎目掛けて、拳を繰りだした


「……ッ!?」


フェミニストではないけど、女性に対して拳をまともに当てる程クズでもない

顎に掠る程度に調整した拳は、見事に女性の脳を揺らすという目的を果たす

そうして急激に脳をシェイクされた彼女は、脳震盪で意識を手放すと、俺の胸の中へと収まった


「おーおー。白昼堂々浮気とは、お前さんもやる事が中々えっぐいねぇ」


「揶揄わないで下さいよ、暁先生。今までのやり取り、どっかから見てたんでしょ?」


タイミングよく現れ、そう言って揶揄する暁先生に、俺はジト目でそう言って返す

恐らくは何処かから俺を護衛しながら、事の顛末を見守っていた筈だ


そうでもなければ、このタイミングで都合よく現れる事など出来る筈がない

しかし暁先生は、そんな俺の言葉を否定も肯定もせず、お道化て見せた


「さて、どうだかね~」


「……暁先生、俺を試しましたね?」


「ったく、これだから下手に優秀な奴は……まぁ、そういう事だ。

 試すには相手の力量が低い気もするが、まぁ合格で良いだろう」


図星を突かれた暁先生はつまらなさそうにそう言うと、女性の身柄を受け取る

そうして、まるで犬でも追い払うかのように、シッシと手を振った


「という訳だから、後は任せてさっさと行け。お嬢を待たせると、後が煩いぞ?」


「……なんか納得いきませんけど、その通りなんで大人しく従います。

 すみませんが、後はよろしくお願いしますね」


「おーおー、任されて~」


本当に任せて大丈夫なのかと疑いたくなる程、暁先生は気の抜けた返事をする

だがこの人に任せる以外に方法がない俺は、暁先生にこの場を任せてカラオケ店へと急いだ

急いだ甲斐も無く、咲達に一通り弄られる未来を予見しながら……

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