警告
ヤバい、早くもやる気が落ちてきてる……
しかし、何とか期限には間に合わせたぜ
日本の未来を担う若者の育成を掲げ、各分野のスペシャリスト(変人・奇人)を講師に揃えている学園
その名を雪花月学園というそこは、桁之丞 舞が理事長を務め、桁之丞コンツェルンの資金によって運営されている
そんな雪花月学園に俺と咲は二人とも通っており、俺は昨日の約束通りに咲と一緒に登校した
そして学園に登校するなり、早速厄介事に巻き込まれた……
「銀河様。昨日はお休みされて心配しておりましたのに、今日は咲様と御一緒に登校されるなんてどういう事ですか?」
「そうだぞ銀河、説明しろ~。うちの円を差し置いて、どういう了見だ~?」
俺に絡んできたのは、大陸系の美少女二人組
片方はおっとりとした見た目の、まるでどこぞの姫君のような美少女―――青島 円
もう片方は昔の映画で、馬賊の女頭領でもしてそうな精悍な顔立ちの美人―――青島 連
馬上で連がピストルを構え、その傍らには縋るように円が抱き着けば、絵になるに違いない
と、現実逃避をしてみた所で、事態は何も好転するはずがなかった
そして俺の隣には、無自覚―――いや、確信犯で火に油を注ぐ奴がいた
「ふっふっふ~。レンレン、まどかっち。実は銀河はね、一昨日からうちに泊まっているのだ」
「えっ……ど、どういう事ですか!?」
「銀河ぁ、流石にそれは見過ごせないなぁ~」
咲の言葉に、円の声のトーンが一段階上がる。からかい半分だった連の視線も、瞬時に胡乱なものへと変わる
俺は慌てて、昨日にロンメルさんと事前に取り決めておいた言い訳の言葉を口にした
「一昨日急に、親父達の出張が決まってな。
どうもその出張が長くなりそうだから、俺だけ咲の家で厄介になる事にしたんだよ。
その段取りと挨拶とかで、昨日はコイツの家でバタバタしてたって訳だ」
「なるほど、そうだったんですね」
「そっか、そいつは大変だな。
じゃあその腕の痣は、その時についたのか?」
「あぁ、荷物運んでる時にぶつけたんだよ」
俺の言葉に安心したように微笑む円に対し、連は目敏く俺の腕についた痣を見つける
それに俺が無難な説明を返すと、連はニヤリと邪悪な笑みを浮かべた
「へぇ~。私はまた、そういう事をして"鬱血"したのかと……」
「れれれ、連ッ!?」
連の言葉に、円はワタワタと慌てたように叫ぶと、恥ずかしそうに顔を真っ赤に染める
それに俺の横の幼馴染―――咲は連の意図を汲み取り、こちらも邪笑を浮かべた
「ふふん、良いでしょ?」
「良いねぇ。次回があるなら、是非とも円と一緒に参加させて貰えるかな」
「ななな、何を言ってるんですか連ッ!?」
明らかに二人に弄ばれているのだが、円本人はそれには一切気付いていないようだ
あらぬ想像をしてしまったのか、一層顔を真っ赤にしてワタワタしてしまっている
このままだと咲と連、二人の悪女に円は飽きるまで弄られ続けるだろう
流石にそれは可哀想だと俺が助け舟をだそうとすると同時に、背後から聞き馴染みのある声が掛けられた
「お前は、相変わらずモテモテだな。リア充マジで爆発しろ」
「朝一の挨拶が爆発しろとか、お前はどんな教育を受けてきたんだ?」
「欠席した友人の為に、態々ノートのコピーを準備してやった人間の前でいちゃつくような奴は罵倒しろ、かね?」
俺の返答に平凡な風体の男―――咲と同じ幼馴染の井村 健介はそう言って不敵笑う
その手に、ヒラヒラと昨日の授業内用が書かれたと思われる紙束を見せびらかしながら……
「持つべきものは、やっぱり親友だよな」
「ん~、どうしようかなぁ~。俺の心は、お前の心無い言葉に酷く傷つけられたしなぁ」
紙束に伸ばした俺の手から、ヒョイと紙束をそらしながら、健介は清々しい程に下種な笑みを浮かべる
圧倒的な優位から足元を見てくるその態度にイラっとするが、奴の持っている紙束には価値がある
こいつにマウントを取られるのは業腹だが、ここは頭を下げて学食の一つでも奢ってやるか
そう妥協点を模索する俺の思考は、クイクイっと服の裾が引かれた事で中断された
「銀河様、必要なら私のノートをお貸しいたしますが?」
未だ恥ずかしそうに頬を染めながら、遠慮がちに服の裾をつまむ円
その口から発せられた言葉に、先程まで下種な笑みを浮かべていた健介の表情から血の気が引く
まぁ絶賛上昇中だった株が、いきなり大暴落したようなものだからな。ご愁傷様と言わせてもらおう
「……長い付き合いだったな、井村」
「お前な、男の友情をあっさり切り捨てんな」
最早ただの紙屑と化した紙束を握りしめる健介に対して、俺は哀れみの目を向けながらそう言葉を送る
この後、彼に待ち受けている運命は分かり切っている。水に落ちた犬は、打たれるのが世の常なのだ
故に健介は慌てて俺に助けを求めてくるが、もはや手遅れだ
新たな獲物を見つけたハイエナ二匹は、既に健介の背後に移動していた
「友情ってのは見返りを求めない、って何かで読んだ気がするけど?」
「ホント、人の弱みに付け込もうとする奴を友人なんて言わないわよねぇ」
「くっ、ぐぅの根も出ねぇ……」
新しい獲物を見つけたハイエナ二匹の巧みな連携口撃に、健介は助けてくれと俺に目で訴えかけてくる
だが最初に殴りつけてきたのは俺ではなく、健介自身だ。それがじゃれ合う程度のつもりであろうと、その事実は覆らない
形勢が有利な時は殴りつけといて、形勢不利となると助けを求める。そんなものが通じるのは、何処ぞの半島だけだろう
まぁ何処ぞの半島では、それで助けてやれば恩を感じるのではなく、助けられたと恨んでくるという負のオマケ付きだが……
何にせよ、助けてやる義理もなければメリットもない。大人しくハイエナどもに弄ばれろと、健介の視線を俺は無視する
しかし、捨てる神あれば拾う神があるのも世の常。健介にとっての救いの神は、唐突に訪れた
「仲が良いのは良い事だがな、場所を考えてやれや。
校門前でやられたら、他の連中の邪魔だろうが」
不機嫌そうな顔でそう言って俺達を睨みつける、アロハシャツに首から掛羅をかけるチンピラ風の男
見た目だけを考えるとその辺のチンピラとしか考えられないが、その正体は学園の宗教科教師―――暁 直人先生だ
「暁先生、スイマセン」
「天川ぁ~。そうやって謝るのは殊勝な態度で良いがよ、てめぇには学習能力がねぇのか?
毎朝飽きもせず騒ぎやがって、少しは自分の女共の手綱を握る努力をしやがれ」
そう言いながらコツンと、暁先生はじゃらじゃらと数珠を巻き付けまくった手で俺の頭を小突く
しかしこの人は確か実家が神社の筈だが、掛羅といい数珠といい、実は仏教徒なのだろうか?
それともアロハシャツと掛羅を掛け合わせたり、数珠を過度に巻き付けたりと、仏教に対する何かしらのアンチテーゼか?
そんな取り留めも無い事を考えていると、暁先生は俺の耳元にそっと顔を寄せてきた
「……今日の放課後、宗教科準備室に顔出せや」
小声でそれだけ言うと、暁先生は校舎へ向かって歩いていく
再び騒ぎ出す幼馴染と友人達を尻目に、俺はその後姿を黙って見送った……
*
「よっ。良く来たな、天川。
コーヒーでも飲むか、ドリップ式の良いやつあるぞ?」
放課後。宗教科準備室に顔を出した俺を、暁先生はそう言って笑顔で出迎える
その手には恐らくコーヒーが入っているであろうコップが握られ、湯気と共に芳しい香りを部屋に充満させている
一瞬、その申し出に心惹かれるが、恐らく呼び出された理由はそんなものを飲みながら呑気に聞くようなモノではない
俺は首を横に振って申し出を断りながら、俺用に用意されたのであろう、暁先生の前に置いてあったパイプ椅子に腰を下ろした
「そうか、美味いんだがなぁ~……で、ラドからは何処まで話を聞いている?」
『ラド』という聞いた事の無い名前に一瞬戸惑うが、すぐさまそれがロンメルさんの事だと理解する
どうやら暁先生は、『コンラッド』を『ラド』と愛称呼び出来るぐらいにロンメルさんと仲が良いらしい
という事は、暁先生は俺を護ってくれる側の存在だ。もしかすると拉致側の関係者かと警戒したが、その必要もなさそうだ
「俺が契約者って存在だという事と、呼び出した聖遺物について簡単に」
「なるほどな。それで、お前はどう思った?ラドの正気を疑わなかったか?」
「いえ。実際に剣を召喚してしまってますし、その力も目の当たりにしましたから」
「……普通はそれでも、そんなにすんなりとは受け入れねぇと思うがね。
まぁ、そういったもんが当たり前にゲームや小説に出てくるしなぁ」
俺の回答に暁先生はそう言って、『時代だねぇ~』と苦笑交じりにしみじみと呟きながらコーヒーをすする
そうしてコップを机に置くと、今までの笑顔を一瞬で引っ込め、まるで親の仇を見るような険しい表情へと変えた
「で、お前さんは俺の質問に素直に答えてるがよ。お前さん、状況を甘く見過ぎてねぇか?」
今までの和やかな空気が一瞬にして変わり、周囲の温度が急激に下がったような錯覚に陥る
全身からは嫌な汗が吹き出し、本能が早く逃げろと警告してくる。しかし、指一本として自由に動かす事が出来ない
目の前の暁先生の圧に気圧されて、という訳ではない。物理的に、"何か"によって俺の動きは完璧に封じられていた
「何が起こってるのか、分からないか?まっ、そうだろうなぁ。
だからこそ、そんなに不用心にしてられるんだろうよ」
何も出来ない俺を嘲る様にそう言って、暁先生はゆっくりとこちらに近づいてくる
だがやはり指一本動かすどころか、口を開く事すら出来ない。出来る事は精々、視線で暁先生の動きを追うぐらいだ
「お前よぉ、狙われてるって自覚あんのか?ラドから、契約者だって事は聞いてんだろ?
そりゃあ契約者もピンキリだが、残念ながらお前はキリの方だ。
それも神なんて大層な代物すら殺せる、飛びっきりのなぁ。
お前は、それを理解してるか?いや、理解してねぇよなぁ?
だから俺がラドとの仲を匂わせれば、少しばかりの警戒心すらなくしちまう。
裏社会の人間を舐めるのも、大概にしろよ?
俺達はなぁ、目的の為なら手段を選ばないんだぜ?
お前の目の前にいるのが、どうして味方だと確信出来る?
少し調べれば、お前さんを拉致から救ったのがラドだって情報は得られる。勿論、その愛称もな。
それなのにお前さんは、ラドを愛称で呼んだ事で簡単に俺を信用しやがる?
アホなのか、バカなのか、死にてぇのか?
一度拉致られそうになっておきながら、どうしてそんなに甘っちょろい考えでいられるんだ?」
暁先生はドスのきいた声で俺をそう罵ってくるが、俺はそれに二重の意味で抗弁する事は出来ない
確かに、暁先生の言う事は正しい。拉致されそうになって、自分が貴重な存在だとロンメルさんから教えられた
それにも関わらず、俺はあまりにも危機感が無さ過ぎた。この状況も、そんな俺の危機感の無さがおこした事態だ
だから暁先生の叱責は甘んじて受けよう、そう思っていた時期が俺にもあった
何時の間にか暁先生の手に握られたコーヒースプーンが、俺の右目に添えられるまでは……
「そうか。お前の危機感の無さは、取り返しのつかない失敗ってのを経験してないからだな。
なら、片目でも繰り抜いてやれば少しは現実も見えるか?」
そんな暁先生の言葉と共に、ゆっくりと力を掛けられていく右目に添えられたスプーン
必死に開かない口でやめてくれと訴えようと試みるが、呻き声を上げるのが精一杯
そしてそんなものを暁先生が聞き届けてくれる筈もなく、無慈悲にゆっくりとスプーンが進んでいく……
「止めときな、暁。流石にそれをやれば、ロンメルが黙ってないよ」
「口出しすんな、ダボが。片目ぐらい、てめぇで治せるだろうが」
部屋の入口の方から掛けられた、女性の声。それに暁先生は声の方を振り返りもせず、そう叫び声を返す
どうやら女性の制止にも関わらず、行為を止める気はないようだ。だが女性も、それで諦めたりはしなかった
「無理無理。何故だか彼には、ロンメルの治癒魔術も、私の能力も効かないから。
拉致された彼が運び込まれた時も、表面の擦り傷は治せたけど、打ち身は治せなかった。
だから目なんて繰り抜いた日にゃ、お嬢様とロンメル、二人から一生恨まれる事になるよ。
それでも構わないってんなら、私はこれ以上は止めないけど?」
「……チッ」
女性の言葉に暁先生は手を止めて逡巡するも、最終的には舌打ちをしてスプーンを手放す
それと同時に、俺の体を拘束していた何かも緩まり、ようやく体を動かせるようになった
「……天川、悪かったな。年甲斐もなく、熱くなっちまった。
だがな、俺が言ったことは忘れるな。お前は、狙われる立場だ。
俺の手が届く範囲なら、守ってやれる。だがな、俺も万能じゃねぇ。
必ず、守ってやれない時が来る。そん時にどうするか、それだけは頭に入れとけ」
恐怖やら何やらで、俺は目鼻から液体を垂れ流しながら咽る
そんな俺に、暁先生はそう言って気まずそうにハンカチを差し出す
それを咽返り礼も言えない状態で受け取りながら、落ち着こうと頭の中で素数を数える
2, 3, 5, 7, 11, 13, 17, 19……97ぐらいまで数えて、俺はようやく落ち着きを取り戻す
そうして、俺を救ってくれた相手―――部屋の入り口で、壁に背を預ける女性の姿を見付けた
「アンタは、ロンメルが関わると熱くなり過ぎるのよ。
どうせロンメルが説明したのに、この餓鬼は何も理解してないとか勝手に憤ったんでしょ?
初恋相手だからって、執着し過ぎじゃない?ってか、男相手に初恋とかキモイんだけど」
「うるせぇよ、お前には分かんねぇだろうな。
フランス人形みたいに端正な顔に、ゴスロリ衣装。
手にはクマの縫いぐるみを持ちながら、感情の乏しい表情で俺を見つめるあの姿……
後で俺があいつを男だと知った時の衝撃が、どれだけ大きかったか分かるか!?」
「それは、ご愁傷様」
壁に背を預ける女性―――保険医のシモネ・ヴァイユ先生は、馬鹿にするようにそう言って鼻で笑う
どうやらこの二人は協力関係にはあるようだが、本当の意味での仲間ではなさそうだ
何せここまでの短いやりとりだけみても、決定的に仲が悪い
そしてそこへの、暁先生の初恋がロンメルさんという爆弾発言である
色々と処理が追い付かない俺の目の前で、二人の口論以上喧嘩未満のやり取りは続く
「で、お前はいつまでそこにいるんだ?話があるなら、中に入って来いよ」
「アンタの糸だらけの死地に足を踏み込めってんなら、御免被るわ。
そっちの彼程、神経図太く出来てないから。
だいたい、私は学園内で結界が張られたから様子を見に来ただけだし。
後は、そっちで勝手にやっといて」
シモネ先生はそう言い捨てると、ひらひらと手を振りながら部屋を去る
後に残されたのは、加害者の暁先生と被害者の俺。気まずい雰囲気が部屋を支配するのは、ある意味仕方なかった
「あ~、なんだ……俺が原因なんだが、何か気が削がれたな。
話の続きは、明日の放課後にするか」
「……えぇ、そうですね」
このままお互い気まずい中で話をしても、互いにあまりいい結果を生み出さない可能性は高い
暁先生の頬をポリポリとかきながらの提案を、俺は仕方なく受け入れた……
―――SIDE ???―――
ドイツ某所。十数人は座れるであろう、大きな円卓が置かれた部屋
壁には大きな鉤十字の紋章が描かれており、第二次世界大戦のとある国家を想起させる
ドイツ第三帝国。魔王とまで呼ばれたアドルフ・ヒトラーが率いた、ナチス・ドイツを……
しかしその部屋は、現代に蘇ったナチス―――ネオナチなどと僭称する連中に関連するものではない
ナチスよりも古くから、鉤十字を掲げていた秘密結社。ヒトラーを操り、彼に鉤十字を与えたとされる組織
宗教的秘密結社、トゥーレ教会。それが、この部屋を所有する組織の名前であった
「代行殿。十英傑全員を一つ所に招集するなど、只事ではないと思われますが……本日は、どのような要件で?」
円卓に座る、11人の影。その中の1人の言葉に、10人の視線が一斉に動く
恐らく一番上位の者が座るであろう、一際豪奢な椅子。そこに座する、謎の男に……
「『観測者』殿から、報告がありました。我々が待ち焦がれた王が、遂に覚醒されたと……」
「……それで、王は何処に?」
「極東の地、日本。王は今、そこに居られます」
「それでは、早速御迎えに……」
「いえ、それは不要でしょう。今はただ、その動向を見守るだけで十分です」
男は提案を遮ってそう言うと、背後へとその視線を移す
そうして誰もいない筈の虚空へと、誰かに呼びかけるように言葉を放った
「そういう訳でお願いできますか、『観測者』殿?」
男の言葉に、答える声はない
代わりに空間が歪んだように見えたかと思うと、次の瞬間にはピエロの面を付けた人物が立っていた
「御呼び頂き、恐悦至極。それでは皆様、演劇を始めましょう!!
此度演じられます題目は、"王の帰還"。
我が組織の悲願たる、ストームブリンガーの使い手を巡る物語。
主演を務めますは組織が誇る十英傑の皆々様。
生命の創造主にして冒涜者、『死霊使い』クリメント・ギリアム様。
魂の狩人にして収集家、『死神』ガブリエル・マルティネ様。
無邪気で自由なる守り人、『守護者』ファン・アイク様。
あらゆる芸術を具現化なされる、『創造者』最上 雪舟様。
何者にも縛られない無音の暗殺者『無形』李 趙氏様。
自在にして強固な結界師、『空律』ゲオルグ・カイザー様。
夜の支配者にして不死者の憧れ、『吸血鬼』ベルモンド・リーブス様。
十英傑の紅一点にして可憐な戦乙女、『女神』ルチャード・ポクルル様。
戦乙女の騎士にして鉄壁の守護者、『聖騎士』ハリス・フォード様。
二ノ太刀要らずの大剣豪、『必殺』鉄 幻魔様。
そしてそれ等十名を束ねるは、盟主代行。『大司教』ルイ・フィリップ猊下。
さぁ皆様、名だたる演者へと万雷の拍手をッ!!」
ピエロの面の人物は、大袈裟な身振り手振りでそう一人語り、最後には勢い良く拍手をする
だがそこにいる誰一人として、ピエロの面の人物に迎合しない。パチパチと、一人だけの拍手音が虚しく響いた
「おやおや、皆様存外ノリがお悪い?」
「貴方の声は、なんだか癇に障るんですよね~」
「これ以上喋れぬように、刈り取ってしまうか?」
「え~、僕は面白いと思うのにな~」
「それは思春期特有の感情だ、溝にでも捨てる事を推奨する」
「……然り」
「お前のまどろっこしい口上が気に入らないだけだ、気狂いピエロ」
「僕、夜の支配者でもなけりゃ、不死者なんていう化物でもないんだけどなぁ」
「んむ~、難しいことは分からないのです~」
「ルチはそれで良い、あれの言葉は理解する必要などない」
「……」
ピエロの面の人物の言葉に、返ってくるのは十人十色の回答
しかしそのどれ一つとして、面白がるような事はあっても、肯定的な意見はない
そんな無残な結果にもめげず。ピエロの面の人物はお道化て見せる
「おやおや、これは手厳しい」
「それで王の監視は引き受けてもらえるのかな、『観測者』殿?」
言外に、あまり遊ぶなという圧力を込められた盟主代行の言葉
それにピエロの面の人物は、恭しく頭を下げる
「勿論です。私の存在意義は、まさにそこにあるのですから……
不詳この『観測者』ロイ・アーギュストが、此度の演目のストーリーテラーを務めさせて頂きます。
それでは皆様方。次の"幕間"にて、またお会い致しましょう」
現れた時と同じように、歪み始める空間。そしてその歪みが収まった時には、既にピエロの面の人物の姿はなかった
それと同時に、先程までいた筈の11人の姿も部屋から消える。彼等が望んだ作戦―――演劇は、幕を開けたのだ
壁に描かれた、大きな鉤十字。それを挟むように飾られた、二本の剣
その一本、刀身にびっしりと得体の知れない文字が刻まれた怪しい剣が見守る前で……
あかん、自分の文才のなさに泣きそうになる
しかし折角設定考えたし、とりあえずこのまま走っていく
そのうち、文章力あがるやろ(楽観と願望)