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黄昏の記憶  作者: リーメン・シュナイダー
第一部 黄昏の記憶
4/12

聖遺物


これまで朝飯と言えば、その辺のコンビニかスーパーで買ってきた総菜パンに牛乳

時々気紛れで母さんの作ったサラダやらインスタントのスープがつくが、その程度のもの

しかし今目の前に並べられているのは、高級ホテルで出てくるかのような品々

カリカリに焼いたベーコンに、ふわふわ半熟に仕上げられたスクランブルエッグ

サラダには瑞々しいフルーツがふんだんにあしらわれ、ヨーグルトドレッシングの程よい酸味が心地良い

トーストは外はカリっと、中はふんわりという極上の仕上がり

コップに並々と注がれた鮮やかな色合いの桃のジュースは、ほのかな甘みにすっきりとした上品な味わい

どれもこれも、普段は絶対に味わえない代物。俺はそれらを無心で口に運び、咀嚼するという行為を只管に繰り返す

そうして目の前の品々を悉く胃の中に収めたところで、俺はようやく一息吐いた


「……お前、今までこんな美味いもんを毎朝食ってたのか?」

「???そうだけど、どして?」


隣で優雅にナイフとフォークを操る幼馴染―――咲へと、俺はジト目で言葉を放る

それに咲は何でそんな当然の事を聞くのだと言わんばかりに、不思議そうにこてんと首を傾げる

こんな些細な事で、こいつが金持ちのお嬢様と再確認させられるとは思わなかった


「お前はこんな美味いもんを食ってるんだから、もう少し反応がねぇのかよ」

「ははは。お嬢様は毎日の事ですので、そのような反応は絶えて久しいですな。

 喜んで頂けたようで、何よりで御座います。料理長には、私からお伝えしておきます」


極上な料理に対する、あまりにも無反応な咲に対する俺の抗議

それを立派な口髭を蓄えた執事服の男性は、そう言って軽やかに笑って受け止めてくれる

そうして俺の前に、芳しい香りを放つ淹れたての紅茶を差し出してくれた


「あっ、どもです。えっと……」


勉強会等、咲の家を訪ねた事は何度かある。その時に、目の前の男性に出迎えられた事もある

しかし、その名前を俺は知らない。というより、名前を知らなければならない程の付き合いがなかった

だがこうやって朝食のサーブまでして貰っては、流石に名前も知らないのは申し訳ない

とはいえ、先述したように全く知らない仲でもない。今更、名前を知らないので教えてくれとは中々に言い辛い

二律背反の状況に、俺はどうすべきかと言いよどむ。すると男性は心得ているとばかりに頷くと、自己紹介の言葉を続けた


「執事長を務めさせて頂いております、セヴァイル・スバス・チャンドウィックと申します。

 お嬢様からは、セヴァスチャンと呼ばれております。天川様も、そのようにお呼び頂ければ幸いで御座います」

「あっ、ご丁寧にどうも。天川銀河です、よろしくお願いします」

「ふふふ。良く、存じ上げておりますよ」


丁寧な自己紹介に思わず畏まってしまう俺に、セヴァスチャンさんはそう言って嫌味のない笑みを浮かべる

俺は気恥ずかしくなりながら、紅茶と共にサーブされた小さいチョコの一つを口に運ぶ

そしてそのあまりにも滑らかで極上の味わいに、思わず『うまッ』と言葉を漏らしてしまった


「ふふふ。それはよう御座いました。本当に、料理人明利に尽きる御反応で嬉しい限りですな」

「……恐縮です」

「それで本日のご予定なのですが、天川様は本日は学園をお休み頂くとの事です。

 既に、学園側の許可は取っているとの事ですので、朝食後はロンメル様をお訪ね下さい」

「え~、今日は銀河と一緒に登校できないの?」


続けられたセヴァスチャンさんの言葉に、隣でマイペースに食事を続けていた咲はぶーたれる

本当にこういう所は、デカいだけの子供だ。まぁ、そんな所も可愛くはあるんだが……

そんな事を考えていると、セヴァスチャンさんが慣れた様子で咲を宥めた


「お嬢様。銀河様は昨日の拉致での傷も、まだ完全には癒えておられぬ様子。

 加えて色々と説明するべき事柄や、これからの警備体制の手配もあります。

 本日はお屋敷に留まって頂き、ロンメル様より色々とご説明頂く事が肝要かと」

「む~、それなら仕方ないか。でも明日は絶対、一緒に学園に行くんだからね」

「分かった分かった、また明日な。それじゃあ朝飯も済みましたし、早速案内して貰っても良いですか?」

「畏まりました」


軽く咲をあしらいながらセヴァスチャンさんにそう言うと、彼は洗練された所作でそう言って恭しく頭を下げる

そこには何十年もの研鑽の跡が窺え、一種の神々しさのようなものを感じさせられる

一部界隈で『老執事カフェ』なんて代物が流行っているらしいが、それも分かるような気がした




     *




「天川様、こちらで御座います」


セヴァスチャンさんに連れられてきた、桁之丞邸の地下。そこには巨大な空間が広がっていた

どうやらそこは巨大な訓練設備のようで、アスレチックのような設備で自らの肉体を鍛える者

昔アメコミで見たヒーローが付けているような、パワードスーツを纏って走り込みをする者

射撃場と思われる場所で、的に向かってごついアサルトライフルから間断なく銃弾を吐き出している者

何処の国の軍隊の訓練だ、と思わず突っ込みそうになるような光景が広がっていた


『……アサルトライフルを使ってるって事は、あのパワードスーツの手からビームは出ないんだろうな』


あまりに現実離れした光景を脳内で処理しきれず、俺はそんな風に現実逃避すると同時に妙な安心感を覚える

そして目の前の光景をなるべく見ないように気を付けながら、俺を呼び出した相手の姿を探した


「天川君、こっちだ」


唐突に呼びかけられた声の方を見ると、そこにはキャンプ等で用いるような簡易的な椅子と机が置いてある

そしてその椅子の一つに座りながらこちらに手を振る、相変わらずの真っ黒なトレンチコート姿のロンメルさんがいた


「ロンメルさん、お待たせしましたか?」

「いやいや、それほど待ってはいないさ。もう少しゆっくり、朝食を取ってもらっても良かったんだよ?」


そう言いながら、ロンメルさんは目の前の椅子に座るように促す。そうして俺が椅子に座ると、真剣な表情で語り始めた


「さてと、まずは昨夜の話の続きをするとしよう。

 君が出したと言っていた剣だが、それは聖遺物といわれる代物でね。

 世界中の神話、伝承、逸話。そこに出てくる、伝説上の武器。

 それらが口伝として伝わるうちに、人々の思いが形になったモノだ。

 強力な能力を持つ反面、皆が気軽に使える訳ではない。

 技量的な問題で使い手を選ぶのではなく、相性的な問題で使い手が聖遺物に選ばれる。

 そして使い手として聖遺物に選定された人間を、私達は"契約者"と呼んでいる」


この人は、いきなり何を言っているのか。普通ならばロンメルさんの正気をそうやって疑う所だが、あの剣を見た後では話が違う

刀身にびっしりと得体の知れない文字が刻まれた、得体のしれない西洋剣……

あれがまともな代物だとは、到底思えない。だとすればロンメルさんが言うような代物だとしても、おかしくはなかった


「……それで、どんな伝承の武器なんですか?」

「おや、案外すんなりと受け入れるんだね。私が言うのもなんだが、相当に荒唐無稽な話をしていると思うんだが?」

「ロンメルさんがここで嘘を吐くメリットがありませんし、少なくとも俺はそれを呼び出してしまってますからね。

 否定して現実から目を背けるのは簡単ですけど、それで面倒事がなくなる訳じゃありませんから」

「良い判断だね、話が早くて助かるよ。それで元となる伝承なんだが、少し特殊でね。

 一般的な神話や伝承ではなく、小説"エルリック・サーガ"に出てくる混沌の魔剣なんだ。

 とはいえ、能力は他の聖遺物に負けない。いや、他の聖遺物を圧倒する程の能力を持つがね……」


そこでロンメルさんは一旦言葉を区切る。そうして、勿体を付けるように言葉を続けた


「大まかな能力は二つ。剣で斬ったあらゆる生物の魂の吸収、そして吸収した魂の契約者への還元。

 つまり生物である限りどんな生き物……神すら殺す能力と、その力を契約者へと齎す事が出来る」

「なんですかそれ、チート過ぎませんか!?」

「いや、そうでもない。先程も言ったが、この剣が吸収するのはあくまで魂の力。

 つまり無機物や魂を持たないモノには、その力は一切意味がない。

 実際に作中では、グール相手に苦戦する姿が描かれているしね」


あまりに反則級の能力に、俺は思わず椅子から立ち上がりながら叫ぶ

しかしロンメルさんは落ち着いた様子で首を左右に振ると、俺の言葉をそう言って否定した

なるほど、そんな弱点があるのか。そう納得しかけて、俺はふと昨夜の事を思い出す

そして、気付いてしまった。あの剣で、"銃を斬って消してしまった"という事実を……


「えっと……でも、銃を斬ったら消えましたよ?」

「なるほど……元より強力になっているパターン。それも、弱点を克服しているタイプか」

「伝承と能力が変わるって、そんな事があるんですか?」


聞く限り伝承通りでも、十分に強力―――いや、反則級の代物だ

それがそうも簡単に能力が変わる、しかも更に反則的な方向に……

信じられない、というのは簡単だ。しかし既に、聖遺物等という眉唾な代物を受け入れてしまっている

今更、ロンメルさんの話が嘘だとは思わない。しかし、何事も確認は必要だ

俺の問いかけに、ロンメルさんは小さく頷く事で肯定する


「先程言ったように、聖遺物は人の思いが形になった代物だ。

 つまり人々が"そうあれかし"と思えば、その能力は変容する。

 例えばエクスカリバーの鞘には、契約者の血を失わせず、不死身にするというモノがあるが……」

「不死身、ですか?でも、血を失わないだけなら……」


血を失わなくする。その能力は、確かに強力だろう

少々の傷を受けても、失血死するという事がないのだから

ガチガチに防御を固めて突撃したら、相手の武器によっては完勝出来るだろう

だがそれは、文字通り"相手の武器によっては"だ

ロケットランチャーや手榴弾のような面制圧武器で、肉体丸ごと吹き飛ばされれば何の意味もない能力となってしまう


「天川君の言いたい事は分かる。現代ならば、血を失わないだけでは不死身とは言い難い。

 だが、考えてもみてくれ。アーサー王の時代は、剣と槍と弓しか出てこないような時代だ。

 しかも剣は斬るというよりもその重量で叩くといった用途が主で、斬られたとしても鎧の隙間が殆どだ。

 そんな中で血を失わないという力は、殆ど不死身と言っても過言ではない能力だろう?」

「なるほど。殺傷能力が低い武器でいくら傷を負ったとしても、血を失わないならかなり死に難いですね」

「そういう事だ。そしてその能力が、鞘を持つ者は不死身となるという伝承を生む土台となった。

 エクスカリバーは、聖遺物として顕現する際にその不死身という伝承が色濃く反映された。

 その鞘を持つ者が負った傷はたちどころに癒され、それこそ本当に不死身の化物のようになってしまう

 ……あれには、随分と苦労させられた。教義狂いの、教会の犬が」


最後の方は聞こえるか聞こえないかの声量で不穏な言葉を呟きながら、ロンメルさんは苦渋の表情を浮かべる

"教義狂いの教会の犬"。それが一体どんな人物なのか物凄く興味を惹かれるが、ここは突っ込まない方が賢明だろう

好奇心は猫を殺す、不必要な事に興味本位でクビを突っ込み過ぎると長生き出来ない

ただでさえ、普通とは掛け離れた事態に巻き込まれているのだ。これ以上のリスクを背負い込むのは、今後の為にも回避一択だ


「そういえば、ロンメルさん。俺が呼び出した剣なんですが、何処かに仕舞ってくれたんですか?」

「私が駆け付けた時には、既に天川君は剣を持ってはいなかったよ。

 恐らくは、君が気を失うと同時に自動的に送還されたのだろうね」

「送還、ですか?」


話題転換にと、昨晩寝る前に気になっていた剣―――"ストームブリンガー"の現在の所在を尋ねる

それに返ってきたロンメルさんの言葉に、俺は首を傾げるしかない

言葉そのままに受け取れば、元あった場所に戻ったという事になるが、そんな事をした覚えはなかった


「正確に言うならば、召喚と送還だな。ほぼ全ての聖遺物に備わっている、基本的な能力だ。

 先程も説明したが、聖遺物の能力は"そうあれかし"と望まれた能力を持つ。

 伝説や伝承に出てくるようなモノを、腰に下げて歩く度にガチャガチャと音を鳴らすという光景は違和感があるだろう?

 つまり"そうあれかし"と願われて、必要な時だけ召喚して扱え、不必要になれば元あった場所へと送還する能力が備わった。

 しかもこの送還という能力は、契約者が気を失った際には自動的に送還されるというオマケ付きだ。

 そのせいで聖遺物の契約者を倒しても、聖遺物を奪う事は出来ない訳だ」

「……完璧な防犯対策、ですね」


なんだその契約者に都合が良すぎる能力は、あまりにも無茶苦茶過ぎる

だが、既に聖遺物という存在自体がおかしいのだ。だからこそ、そういうものかと納得してしまっている自分もいる

だからこそ、俺はそれ以外に返す言葉がなかった


「さて、聖遺物の説明は大体出来たかな。本来なら、このまま実戦訓練と行きたいが……

 情報と気持ちを整理する時間も必要だろうし、君の体はまだ完治していないようだ。

 傷が完治するまでは、無理はしないようにしよう。セヴァス、天川君を寝室に連れて行ってあげてくれ」

「畏まりました」


俺の体に残る打ち身による痣。それを確認しながらのロンメルさんの言葉に、セヴァスチャンさんは恭しく頭を下げる

俺をここに案内してから、セヴァスチャンさんはずっと入口で待機していた筈だ

それなのに、何の気配もなく今は俺の背後でロンメルさんへと頭を下げている

一体、この人は何者なのだろう。そんな疑問が浮かぶか、あえて尋ねる事はしなかった

どうせ、これから徐々に分かっていく事だ

"契約者"なんてモノになった俺が、これから今まで通りの日常を過ごせる筈がない

昨夜の拉致事件のようなものに、どんどんと巻き込まれる事になるだろう

ならばその過程で、セヴァスチャンさんの正体を知る機会も得られる筈だ

それなら、今それを知る必要はない。今必要な事は、ロンメルさんから聞いた内容を整理する事なのだから……







―――SIDE 孔 瑛燵―――


私の名は、() 瑛燵(えいたつ)。組織管理能力と経営手腕を評価され、組織の極東における拠点を任された者だ

そして今までは無難に拠点運営をこなし、本部からの評価も上々であった

そんな中で齎された、組織最高幹部『五行』からの直接依頼任務

その内容は、ある学生の拉致。しかも何の特異な能力も持たない、ちょっと優秀な程度の人物の……

あまりにも簡単な任務内容に少し疑いを持ったが、どうやら学生本人ではなくその親がかなり優秀な人材らしい

拉致して人質とすれば、その優秀な人材を自在に動かせる。どうやら狙いは、そこにあるようだった

とすれば、これは本部への栄転のチャンスだ。私は二つ返事で、その任務を了承した

そして万難を排する為、信頼する子飼いの部下に任せた訳なのだが……

目の前で頭を垂れる子飼いの部下、仲連へとチラリと視線を送る

そして手元にある信じられない内容の報告書へと視線を移し、堪らず大きな溜息を吐いた


「……これは、本当の事か?」

「残念ですが、全部本当の事ですぜ?」

「そうか、本当の事か……」


『嘘を吐くな』と、目の前の部下を怒鳴れればどれほど楽だろう

しかし、現実から目を逸らすだけの最底の愚策だ

まして目の前にいるのは、自分が仕事のイロハを仕込んだ子飼いの部下だ

その報告を信じられず、なじるようになってはお終いだ

だが、気持ちの整理は必要だ。私はもう一度大きな溜息を吐いてから、仲連へと労いの言葉を口にした


「分かった、下がって良いぞ。ご苦労だったな、仲連」

「……良いんですか?」

「ここでお前の失敗を責めるのは簡単だが、それで何かが解決する訳でもない。

 それに、お前はある程度の想定外には対応できるように仕込んだつもりだ。

 そのお前が無理だと思って引いたんだ、私はその判断を尊重する。

 そしてまた、力を借りる時もあるだろう。それに備えろ、と私は言っているんだ。

 報告書を見るに死者はいないようだが、それなりに負傷者が出たのだろう?

 特別手当の支給も許す、下がって部下を労ってやれ」


許されるとは思っていても、多少の叱責は覚悟していたのだろう

私の言葉に仲連は驚いたようにこちらを見ると、慌てて恐縮したように再び頭を垂れる

そうして短く礼を述べると、踵を返して部屋を後にする

そんな彼の後姿を見送り、足音が十分に遠ざかったのを確認してから、三度目となる大きな溜息を吐いた


「さてと、私も私の仕事を果たすとするか」


そう言って仲連の報告書を端に寄せると、私は執務机の引き出しから紅い小さなボタンを取り出して机の上に置く

そうして深呼吸を繰り返して気持ちを整えてから、ゆっくりとボタンを押す

すると先程まで仲連が立っていた床が横にずれ、そこからモニターが出現し、黒猫の仮面を被った人物を映し出した


「おいっす瑛ちゃん、久しぶりっすね~。拉致任務失敗、ドンマイっすよ」


どうやら、モニターに映し出された胡散臭い人物―――『五行』の一人である『博士』は、既に全て把握しているらしい

思いがけない第一声に面食らったが、私は慇懃に頭を下げると、皮肉交じりの言葉を放った


「流石は『博士』。どうやら私も知らない、優秀な"耳"を御持ちのようで……

 それで『博士』は、一体"何処まで"をご存知でしょうか?」

「分かっててそう聞いてくるとは、瑛ちゃんも相当性格悪いっすねぇ~」

「申し訳ありません。私も、大切な部下が危険に曝されたもので……」

「大事の前の小事、って言葉知ってるっすかぁ~?」

「"大事をなすには、小事にも気をつけ油断してはならない"でしょうか?」


『博士』が何を言いたいかを理解しながら、私は『博士』の言葉にそう惚けてみせる

対して『博士』は、そんな私の態度が面白かったのか、ケラケラと笑い声を上げる

最も、その表情は仮面で隠れているので、本当に笑っているかは分からないが……


「……いやぁ~、本当に良い性格してるっすね。まぁ、嫌いじゃないっすけど。

 それぐらいの胆力がないと、うちで上を目指すなんて不可能っすから」


一頻り笑ってから、『博士』は笑いを収めるとそう言って仮面越しに私を見つめる

声色に、不快感はない。むしろ、私の態度を面白がっているような感じだ

しかし、それをそのまま受け止めるのは危険だ

捨て駒のような扱いに、不快感から不遜な態度を取ってしまったが、相手は組織内でも最上位の存在

本来であれば、咎められて処分されても文句は言えない。ここが、引き際だろう


「……失礼致しました。それで、今後の方針は如何致しましょう。

 再度挑めと言われるのであれば、増援の要請も検討させて頂きたい所ですが」

「その事なら、問題ないっすよ~。既に、増援を手配しておいたっす。

 それも奮発して、『天部衆』から四人もっすよ」


組織の上級幹部、『天部衆』

それぞれが天部―――仏の名を二つ名として名乗る事を許された、組織が誇る最高戦力である

それが、四人も……それだけ、この任務の重要性が分かるというものだ


「……分かりました、万難を排して受け入れ準備を進めます」

「話が早くて助かるっす。こんな極東の支部を任せるには、もったいない人材っすね。

 私が引き取っても良いっすけど、それは心情的には嫌っしょ?」

「いえ、そのような事は……」

「今更、取り繕わなくても良いっすよ。私も、好かれようなんてこれっぽっちも思ってないっすし。

 今回の件が無事成功したら、本部に栄転出来るように取り図っておくっす。じゃあ、健闘を祈ってるっすよ」


そう言うと、モニターから『博士』の姿は忽然と消える


「……さて、準備を進めるとするか」


『博士』の姿が消えたモニターをしばし見詰めてから、私はそう言って席を立つ

これから始まる、重大な任務。その入念な下準備を進める為……


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