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黄昏の記憶  作者: リーメン・シュナイダー
第一部 黄昏の記憶
2/12

襲撃

昼間は人通りが多いものの、夜となれば人通りが極端に少なくなる商店街

その中をコンビニ袋片手に走り抜けながら、俺は思わず呟く

どうしてこうなった、と……


「おい、そっちに行ったぞ」

「逃がすな、袋小路に追い込め」


背後から聞こえる、物騒な声

振り返ると見えるのは、手に銃を持った黒服の男達

小腹がすいた為、いつものコンビニに夜食を買いに出掛けた

そう、たったそれだけの事。いつもの日常の、いつもの他愛ない行動

それがまさか、今のような状況を招く等と誰が想像出来るだろう


「クソッタレ、なんで俺なんかを……俺なんかよりも、咲を拉致した方が身代金取れるだろうが」


そう毒吐きながら、思い浮かべるのは幼馴染の顔

現代日本で三大財閥と呼ばれるような金持ちの癖に、そんな事はおくびにも出さずに気安く接してくる女性

そんな彼女との何でもない日々の出来事が、走馬灯のように浮かんでは消えていく


「……死ぬのか、俺は」


そう呟き、海に浮かぶ腐乱死体へと変わり果てた自分の姿を想像してゾッとする

と同時に、死んでたまるかという思いがその足を速める

だが、逃走劇は長くは続かない。新たに表れた黒服の男達が、その行く手を遮った


「残念、ここは通行止めだ。大人しく、一緒に来てもらえるかな?」


行く手を遮った黒服の男の一人が、そう言って柔和な笑みを浮かべながら、ゆっくりと近付いてくる

男は柔和な笑みを浮かべてこそいるが、男について行ったら碌な事にならないのは簡単に想像できる

俺は逃走を図り背後を振り返るが、勿論そこには追いついた黒服の男達が道を塞いでいた


「逃げ道なし、か……」


観念するかのようにそう呟きながら、俺は周囲を見回して武器になりそうなものを探す

角材か鉄パイプでもあれば、それを武器に乱戦に持ち込めば光明はある

例えそれが、蜘蛛の糸よりも更に細い、一縷の望みだとしても……

しかしそれらが都合良く道端に落ちている筈もなく、己の不運をただただ呪う事しか出来なかった


―――我が名を呼べ、我が主よ―――


突如響く、深みのある男の声

慌てて周囲を見回すが、黒服の男達が声を発した様子はない

それどころか声に気付いた様子もなく、俺への包囲網をゆっくりと縮めているだけだ

危機的状況にとうとう幻聴が聞こえ出したかと自嘲しそうなるが、幻聴でない事を主張するかのようにその声は再び響いた


―――我が名を呼べ、我が主よ。さすれば、我は主に力を貸そう―――


なんだこれは、気付かないうちに変な薬でも嗅がされたか?

そんな風に思いながらも、俺は最早どうにでもなれという気持ちで、声の主へと問いかけた


「本当に、力を貸してくれるんだな?」


―――無論だ、我が主よ。我が名を呼べ、我が主よ。さすれば、我は主に力を貸そう。我が名は……―――


「ストーム、ブリンガァァァァァァァッ!!」


どうせなら気が触れたと、拉致するのを諦めさせるつもりで、教えられた名前をのども張り裂けよとばかりに叫ぶ

すると眩い閃光が辺りを包みこみ、光が薄れると同時に、右手には見慣れぬ西洋剣が収まっていた


「……」


突然の事に、思考が停止する。人は本当に驚きすぎた時には、言葉が出ないらしい

絶句という言葉があるが、まさかそんなものを体験する等とは思ってもみなかった

そしてそれは俺だけでは無く、どうやら周囲の黒服の男達もそうだったらしい

唖然とした様子で、俺の手に収まる西洋剣―——刀身にびっしりと得体の知れない文字が刻まれた、怪しいそれを凝視していた


「なっ、なんだ!?」

「こいつ、一体何処にそんなモノを!?」


ようやく衝撃から立ち直り思考が動き出した黒服達は、各々にそう叫ぶと慌てた様子で銃を構える

俺に多少抵抗される事は想定していただろうが、まさか得体の知れない西洋剣を取り出すとは完全に予想外だったのだろう

銃を構える手は小刻みに震えており、その動揺が手に取るように分かる

しかし西洋剣を出したであろう張本人の俺が、一番動揺していたのは皮肉でしかない


『何だよこれ、一体何がどうなってるんだよッ!?』


心の中で思わず叫びながら、内心の動揺をおくびにも出さないように注意しつつ、俺は西洋剣を正眼に構える

そうしてゆっくりと、深く深く息を吸い込む。いつも親父から、剣の手解きを受けている時のように……


『……よし、落ち着いた。というか、もう考えるだけ無駄だな。こうなったら、後は出来る事をやるだけだ』


色々な事がこの短時間で起きすぎて、最早理解が追い付かない

下手の考え休むに似たり、ともいう。理解出来ない事を悩んだところで、答えなど出るはずもない

なら、後は開き直って盛大に抵抗してやるだけだ

俺はそう腹を括くると、一番手近にいる黒服の男へと足を踏み出した


「……ふッ!!」


呼気と共に、黒服が構える銃へと剣を振りぬく

木刀と西洋剣の違いはあるものの、毎日積み重ねた修練の成果は見事に結実し、剣先は黒服の銃を正確に捉える

そしてそれを遠くへと弾き飛ばす、筈だった。しかし剣先で捉えた銃は、忽然とその姿を消す

まるで最初から、そこに存在しなかったかのように……


「えっ……なっ、えっ……!?」


目の前で起きた光景が信じられず、黒服の男は銃を構えた格好で固定されたままの自分の手と、俺の西洋剣を交互に見比べる

しかしそんな事をしてみても、姿を消した銃が再び出現するはずもなく、混乱に拍車がかかるだけ

そして西洋剣を振るった俺自身も、その例に漏れず混乱していた


『なんで、どうして銃が消えるんだ!?まさか、こいつの力……?』


有り得ないと思いながらも、俺は実際に目の前で起きた出来事の原因がそれ以外に思い付かず、手に収まる西洋剣を凝視する

するとそうだと主張するかのように、西洋剣の刀身に刻まれた怪しい文字が鈍く光った


「なんだよ、これ……危ない、なんて可愛いもんじゃないだろ。絶対に、関わったらダメな奴じゃねぇかッ!?」


どうにでもなれと、腹を括ったつもりだった。しかしあまりにあまりな現実に、俺は思わず叫ぶ

するとその声に正気を取り戻したのか、黒服の男の一人が仲間達へと檄を飛ばした


「お前等、何を呆けてる!!構えてるもんは玩具じゃねぇだろうが、早く無力化しろ!!」


男の檄で、一斉に向けられる何十もの銃口。そしてそこから放たれる銃弾を避ける術は、俺にはない

複数の注射針が刺さったような感覚の後、全身に痺れるような衝撃が駆け巡る。そして俺は、意識を手放した







―――SIDE 魯 仲連―――


俺の名は、() 仲連(ちゅうれん)。しがない、中国マフィアの一員だ

とはいえ、そこいらの一般兵達とは違う。こう見えても、一隊を任される下級幹部だ

そんな俺が今日指示されたのは、とある学生の拉致。名前は確か、天川(あまかわ) 銀河(ぎんが)

母親がノーベル賞を受賞した科学者、父親が達人と言われる剣豪

そんなスーパーサラブレッドのようなガキらしいが、本人の資質はそこまで高くはないらしい

どちらの能力も中途半端に受け継いだ、いわゆる器用貧乏って奴らしい

そんな奴を態々拉致する必要があるのかと疑問に思うが、そこは俺みたいな下級幹部が考える事ではない

俺がやるべきことは、ただ一つ。指示された内容を、完璧にこなして昇進への足掛かりにする事だけだ


「魯様、結界の展開完了しました」

「おう、ご苦労さん。そんじゃあ、始めるとするか」


人気の少ない商店街に追い込み、穏便に事を進めるつもりではあるが、物事にトラブルはつきものだ

そういう時の為に認識阻害の結界を展開しておくよう部下に指示していたのが、ようやく完了したらしい

俺は報告してきた部下に労いの言葉を返すと共に、周囲を固める部下達に作戦開始を告げた




     *




「おいおい、なんの冗談だよこれは……」


俺は目の前で起こった出来事が信じられず、思わずそう言葉を漏らす

ターゲットは、親は確かに凄いかもしれねぇが、本人はただの学生と聞いていた

それが得体の知れない西洋剣を取り出したかと思えば、部下の持っていた銃を消し去っちまいやがった

これの何処がただの学生がと上司を問い詰めてやりたい所だが、悲しいかなそんな事は出来るはずがない

俺に出来るのは、この異常事態に対処して何としてでもターゲットを拉致する事だけ

そしてどうやら、ターゲット自身もこの事態は想定外らしい。その証拠に、何やら狼狽えた様に叫び声を上げている

なら、対処は簡単だ。こっちは、銃っていう立派な遠距離攻撃手段を持っている

得体のしれないあの西洋剣は近づけば危ないかもしれねぇが、遠距離から一斉射撃すればそれで終いだ


「お前等、何を呆けてる!!構えてるもんは玩具じゃねぇだろうが、早く無力化しろ!!」


俺の声に、呆けた様に立ち尽くして部下たちはようやく正気を取り戻したらしく、慌てて銃口をターゲットへと向ける

そうして部下達が一斉射撃を加えると、ターゲットは呆気なく気絶し、その場に倒れ伏した


「ったく、手間取らせやがって……変な所ぶつけたりしてねぇだろうな?」


俺は思ったよりも手古摺らされた事をボヤキながら、ターゲットの体を確認する

倒れた時に下手に頭を地面にぶつけたりしていたら、命に関わることもある

指示はあくまで拉致で、拉致ということは死なれたりしたら問題だ

入念に体を調べ、擦り傷や打撲痕が頭部よりも下にしかない事を確認して、俺はホッと溜息を吐いた


「どうやら、大丈夫そうだな。それじゃあ、とっとと撤収するぞ」

「彼を連れて行かれると、非常に困る。申し訳ないが、こちらに引き渡して貰えるかな?」


部下への撤収の指示を飛ばす俺の声に、何者かが声を被せてくる

自分の部下達以外に、全く気配がなかった所へ掛けられた声に、俺は慌ててその声の主を探す

するとその声の主は、すぐに見つかる。真っ黒なトレンチコートに身を包んだ茶髪碧眼の西洋人が、微笑を浮かべながら佇んでいた


「誰だ、お前はッ!?」

「これは失礼。私は桁之丞コンツェルン警備部の主任を務める、コンラッド・ロンメルと言う者だ。

 そこで倒れている彼の幼馴染が、大事な雇用者の娘でね。君達には大変申し訳ないが、見て見ぬ振りが出来なかったという訳だ」


部下達から一斉に銃口を向けられているにも関わらず、落ち着いた様子で男―——ロンメルはそう言って微笑を崩さない

まるで散歩中に出会った知人に声をかけるかのような気軽さが、一触即発の状況とあまりに不釣り合いだ

それだけ、自分の実力に自信があるのか……

知らず知らずに汗が背を伝うが、ここで引き下がる訳にはいかなかった


「それで、引き渡して貰えるかな?」

「出来る訳がない、に決まっているだろう?」

「そうか、それは非常に残念だ。なら、強硬手段だ」


俺の言葉にロンメルはそう言葉を返すと、パチンと指を鳴らす

するとその直後、物陰から無数の狐が飛び出してきたかと思うと、部下達へと襲い掛かった


「ぎゃっ」

「うげっ」


狐に襲い掛かられた部下達は、次々と苦痛の呻き声をあげる

襲い掛かってきた狐達の前足には、凶悪な鉄製の鈎爪が装着されていたのだ

その鈎爪に引き裂かれ、部下達はその手足、あるいは胴体部に深い裂傷を負っていく

咄嗟に顔を守ったのだろう、頭部への致命傷を受けた者は居ないのが救いではあるが、完全に先手を取られた


「クソが、なめた真似をしやがって!!お前等、奴を仕留めろッ!!」


俺の言葉に従い、狐の襲撃から逃れた部下達がロンメル目掛けて一斉に発砲する

しかし放たれた銃弾が、ロンメルに届く事はなかった

突如ロンメルの前に茶色い膜の様なものが展開し、放たれた銃弾全てを包み込んで受け止めたのだ


「まさか、異能者かッ!?」


異能者―——その名が示す通り、異能という名の超常の力を操る者達

同じような超常の力を操る者に陰陽師や魔術師等がいるが、異能者の力は彼等と一線を画す能力を持っている

なんせ陰陽師や魔術師が陰陽道や魔術という技術を扱う者であるのに対し、異能者は先天的あるいは後天的に能力を身に付けた者である

その能力行使には祝詞や呪文といった詠唱も必要なければ、術を補助する媒介も必要がない

そのくせ威力は大規模な儀式等が必要な魔術をあっさりと超えてしまう、歩く災厄の様な存在だ

とはいえ、異能者なんてそうそう出くわすような相手ではない。銃弾を防いだ程度なら、何かしらの媒介を用いて詠唱破棄した魔術の可能性も捨て切れない

しかしただの学生である筈のターゲットが、得体の知れない西洋剣を取り出し、銃を消し去ったのだ

そんなターゲットを助けに来た男が超常の力を行使したとすれば、それが異能ではないかと疑うのは当然だ

そして異能者に出くわしたとき、同じ異能者あるいは一握りの実力者を除けば、打てる手はただ一つ

一目散に、その目の前から逃げ去る事だけだ


「撤収だ、撤収!!異能者なんか相手に出来るか!!」


そう部下達に向けて叫ぶと、俺は踵を返して一目散に逃げ出す

上からの指示だろうが何だろうが、命あっての物種。ここで意地を張ったところで、そんなものに意味はない

失敗に対する叱責を受けるだろうなどという事は一旦隅に置いて、ただ生き残る為に一心不乱に走る

そして何とか、自分の命を守る事にだけは成功したのだった

だいぶ前に設定を描いた駄文を1人称視点で書き直しました

書き直しても駄文ですので、温かい目でご覧ください

一週間に1話アップしたいなー

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