8 それぞれの戦い
「さてと、どう?」
「まだ、音がします。何かを探してる?」
「ありがと、ミレンドス」
小声で会話を続ける。
ちなみにミレンドスには魔鉄の剣を渡してある。
魔鉄は強度もそこそこあり魔法も封入できるためかなり良い武器だ。
「魔獣の咆哮?」
街のほうから咆哮が聞こえた。咆哮の雰囲気的には魔獣だ。
たぶん、精霊女王班か剣聖班のどちらかだろう。
「シー様、出てきます」
「鬼が出るか蛇が出るか、まっ、どっちも嫌だけど」
「ですね」
ミレンドスも苦笑しながら言う。
足音が近づく。
「ありゃ、これは想定外だわー」
影から出てきたのはヒュラーと呼ばれる蛇のからだに鬼の角を持つ魔獣。
何気にこいつは厄介魔獣だ。
毒を使い獲物を殺したり麻痺吐息を使い麻痺させた上で締め殺したり。
攻撃手段だけはものすごい量ある魔獣だ。
「ミレンドス、下がって」
「分かりました」
「さてと、蛇さんや。面白い遊びをしないか?内容はこういうのだよ!」
僕は喋りながら剣に獄炎を付与させる。
そして、そのままヒュラーを一撃で仕留める。我ながら完璧だ。
「流石です!」
ミレンドスは目をキラキラさせながら言う。
ヒュラーなんて、敵じゃない。だって、この前のゴリンボス・フィッシャー・スネークの進化前の前だし。弱い弱い。
その頃、精霊女王班は……
「大丈夫ですか!」
「ええ、あと数センチずれてたら二分されてましたね。取り巻きを倒しても駄目ですね」
「まさか、十剣のうちの二本を使ってギリギリの敵なんかいるとは……」
「ええ、まさかキラー・ビーストが出てくるとは」
「確か、剣聖が互角に戦えるとかいう化け物でしたっけ?」
「そうですね、こいつは近づくだけで八つ裂きにされかねませんから」
「どうにか爪だけでも折れれば良いんですけど」
「爪だけですか?」
「はい、あの爪がある限り精霊魔法は弾かれる可能性が」
「分かりました。爪を狙います。出来るかは分かりませんが桜吹雪・改!」
この技はシーウォンが使っていた技の多少の改良版。
約五千回/秒を約数千万回/秒に変えただけの至って普通の技。そして、それを爪のみに打ち込む。
「流石、剣星ですね」
「さすがに爪の一つは折れたでしょう」
バキッ、という音が聞こえながら爪が割れる。
「では、精霊魔法を使いましょうか。《全てを斬り伏せる炎の刃を生み出したまえ超轟炎ノ刃》」
キラー・ビーストの足を切り落とす。そして、斬った箇所が燃えていく。
その火は全身へと周りキラー・ビーストは灰になった。
「流石ですね、精霊女王様」
「どうも、あと敬語は無しが良いんだけど」
「努力はします」
「ありがと」
剣聖班はというと……
「くっ、どうにか耐えれていますがいつまで持つかですね」
「ええ、このままだとアレを討伐する前に私たちが倒れる羽目になりそうね」
「まさか、十剣を使っても倒せない相手が出てくるとは」
「十剣というよりこいつの外皮が硬すぎるのよ。外皮鎧とは良く言うわね」
「ええ、先ほどからかなり斬っているはずですが」
「《獄炎》!」
母が唱える。
たちまち魔獣の身体は黒い炎に覆われる。しかし、魔獣はそれをものともせず突っ込んでくる。
「魔断剣で魔獣が斬れないとは想定外にもほどがありますよ」
「十剣って、他には?」
「もう一本、万斬刀フィートというものがありますがあれはどうも扱いが難しい」
「どうして?」
「万斬刀は東邦のものなんです」
「なるほど、慣れないわけね」
「ええ、っと。この外皮はどうにかならないんですかね。こんなに強い個体がこの辺りを彷徨いているなんて情報は入ってませんよ」
「神の御技とかそういう類いのでは?」
「ありえますね。取りあえずはこれを倒さないとですけど」
「まあ、この際ですし使いますか」
「何をですか?」
「魔法です。特大の」
「分かりました。どのくらいかかりますか?」
「一分くらいかと」
「任せてください」
そう言うと、リヴィスは幾千も斬り上げ始めた。
――――集中――――
――――精霊達、私に力を――――
「《超精霊炎武砲撃》」
母が手を前につき出すと手のひらに家を三軒程度を飲み込める炎の渦が出来ていた。
その炎の渦は母の手から魔獣の方へと移っていく。
そして、魔獣を飲み込める大きさになったその時炎の渦は魔獣を取り囲むように周り始めた。
魔獣の体毛が燃えていく。そして、ついに魔獣を炎の渦が飲み込んだ。
「終わったんですかね?」
「分からないわ。アレを凌げるようならもう手はないわ」
「でしょうね」
炎が消える。
そこに居たのは燃えたはずの魔獣だった。
そして、その魔獣は進化していた。
「うそ…」
二人は絶句する。
「ウリィデルムじゃない?」
「あれは……ウルガルト……ウルガルム種の最終進化系よ」
「魔力量が先ほどの倍以上に膨れ上がっている!」
「流石、魔獣の中でも高位なウルガルム種の最終進化系ね」
「ええ、こいつは剣鬼殿と私の二人がかりで勝てるどうかですね」
「みたいね。それはそうとあいつ、何してるのかしら?」
「あれは、魔法?」
「なるほど。あいつも殺しに来てるってことね」
「なら、こちらも本気で行きましょう。来なさい、我が対の剣、万斬刀フィート」
そう言うと、鞘に入った独特な剣が飛んできた。
そして、それを取ると同時に一気に魔獣の間合いへと入り斬った。
しかし、魔獣はものともせず爪で弾き飛ばす。
「十剣の二本使いで勝てぬ相手など一人しか知らなかったんですけど」
「まあ、私も本領発揮しましょうか。我が杖ウィートクィーン、愚か者に鉄槌を。《漆黒の空間》」
杖から出た黒い煙はやがて魔獣を吸い込み始める。
しかし、魔獣はその煙を払いそのまま母に突撃した。
「なんで効かないの…」
母は理解出来ていない。
「どうされました?第零席次様?」
「いや、少し考え事を」
「まあ、それはこの戦いが終わってからですね」
「って、その傷!」
「ああ、実は先ほど爪で弾き飛ばされた時に爪が当たりまして」
「早く言いなさい。そう言うの。《超回復》」
「すみません」
「少し、援護を」
「助かります」
「《深淵》」
母の杖の先に黒い球体が生成されていく。そして、その球体は魔獣を吸い寄せ始める。
魔獣は抵抗をする。しかし、少しずつ吸い込まれる。
「これで、おしまいよ!」
母が言うのと同時に魔獣は深淵に完全に吸い込まれる。
このままおしまい。何てこともなく。
魔獣はさのその鋭利な爪はその球体を破壊し始める。
そして、そこから出てくる。
その瞬間、魔獣は細切れ肉に変貌していた。
「何も考えず出てくるとは所詮、獣ですね」
「これ、復活したりしないですよね」
「縁起でもないことを言わないでくださいよ」
そんなことを話しているまさにその時だった。
魔獣が唸り声を上げる。
「これ、どうしようもないわね」
「そうですね、まあ剣鬼殿であれば先ほどの斬撃で仕留めていらっしゃるでしょう」
「呼んだか?」
「剣鬼殿!」
「あなた、良かった」
二人とも安堵の顔を見せる。
「さて、あいつを倒すか」
「はっ、了解致しました」
「で、あいつはなんだ?」
「えーと、あれはウルガルト、ウルガルム種の最終進化系だったんだけど、リヴィスさんが斬ってから復活して見たこと無い個体になってるわ」
「つまりは?」
「詳細不明」
「分かった。任せろ」
「お願いね」
「来い、俺の剣、自在剣ティティス。神撃刀エレメスティール」
そこに飛んできたのは球体の水と金色の剣だった。
「水?」
「この剣は自在剣だ。よって、所有者のイメージ次第でどんな形にもなる。イメージ無しの状態がこの球体な訳だ」
そう言うと父はおもむろに自在剣ティティスに中にてを突っ込む。そして、中で手を握る。すると、そこに剣が形成されていく。真っ黒い剣だ。
「なるほどね~」
母はそう言うことか、というかのように見ている。
「さてと、リヴィス、用意は?」
「出来てますよ」
「じゃあ、行くか」
「はい!」
リヴィスがそう言うと同時に魔獣の方へと走っていく。
そして、目にも見えぬ早さで魔獣の首を的確に斬りつけていく。
しかし、魔獣の首をはねることはできない。
二人あわせて少なくとも二千万回ほど斬りつけた。
「剣が入らないとかそう言う以前の問題だな」
「ええ、あいつにダメージを入れれてるのかどうか」
「ああ、これは本気でやらないといけなさそうだな」
「あれを?」
「そうだな」
そういうと、父は上着を脱ぎ、腕をまくる。
そして、剣を構える。
「魔獣さんや、待っててくれたありがとうな。まあ、あの世で後悔しな」
そういうと同時に魔獣の首は無くなっていた。
「流石!」
「いやいや、大したこと無い」
「燃やして良い?」
「頼む」
「獄炎」
「終わったようですね」
「良かったわ」
「全員、精魂尽き果てたな」




