7 色相
「言ったでしょう。処罰が決まっている、と」
「逃げることはできないってことか。だとしても、これを計画したのは軍神イヴィルカーヌ様。なのにどうして処罰されないの!?」憤慨したようにビフロフトが言う。
「馬鹿ね、この子。やっぱり、拾うべきじゃなかった。オーディンとロキの言うこと聞いとくべきだったわぁ」甘い声でビフロフトに声をかけるのは銀髪の美女だった。
「な…何故、あ…あなた様が…」ビフロフトは緊張と恐怖の混じった声でその“女性”に聞く。
「セクにとられるのは嫌だったからよ。色番神ビフロフト。いや、堕神ビフロフト」
「堕…神?」
「ええ、あなたはもう神を名乗れないわ。しかし、他の種族に迷惑がかかるのは避けないといけない。となれば、地獄で働かせるのが一番良いってこと。お分かり?」
背筋が凍るような声でビフロフトに声をかける“女性”はきらびやかなドレス姿の女性に深く一礼して、どこかに消えていった。
「何だったのでしょう?」
僕はきらびやかなドレス姿の女性に聞く。
「あの方はタルタロイ様、奈落の神よ。あと、名乗り忘れてたわね。私はウィル。ウィル・イグ・オソプイ。現精霊女王よ」
「精霊女王様!?」
「ええ、エアリアルが消えてしまったから見に来たのよ。そしたらベヒモスが襲われてたから助けに来たってところね。まあ、あなたのことは見とくようオーディン様達から言われてるしね」
「そうでしたか。あと、名乗り遅れました。僕は――」
「シーウォン=ウォルフェン。そして、菜津智君」
ウィルは僕が名乗るよりも早く僕の名前、そして、前世の名前を口にした。
「あなたは知っているということですか」
ウィルは静かに首を縦に振った。
「さて、シーウォン。ちょっと、君には来てもらいたいからよろしく。私は現剣聖リヴィス=フォン=アレース。君の父上の友人であり弟子だ。よろしく頼む」
赤髪のショートカットの女性は僕に名乗ると命令を、と何故か僕に跪く。
「えーと、どういうことか説明してもらって良い?」
「はっ、了解いたしました、シーウォン様」
どうしよう、いきなり剣聖を命令する立場におかれてしまった……。
「シーウォン様、説明してもよろしいですか?」
「あっ、うん。お願いします」
「では、始めます。まず、先ほど色番神ビフロフトがこの国の民全てに【色相符】を発動いたしました。この【色相符】は脳内にその者が一番見ている色を脳内で呟き続けると言うものです。しかし、私は声を斬ることに成功いたしました。よって、ギリギリ意識の残っていたあなたの父上、剣鬼殿よりあなたを守るようご指示を頂きました故にここに参上した次第でございます」
「ものすごい長文ありがとう」
「いえ、この程度造作もありません」
「じゃあ、今動けるのはここの四人だけ?」
「まあ、大体そうでしょうね」
「大体?」
「予測にはなりますが魔獣の類いはこの【色相符】は効かないと思われます」
「なるほど、さて、どうするか」
「本当はここに倒れている方も解放したいのですが魔力が足りないのです」
「それって、僕でも扱える?」
「難しいかと」
「じゃあ、僕の魔力を分け与えたら?」
「可能かと」
「じゃあ、そうしようか」
「よろしいのでしょうか?」
「良いんじゃない。解放して困ることはないでしょ」
「了解しました。では、よろしくお願い致します」
「んじゃ、魔力分配」
「では、始めます」
「お願い」
僕がそう言うと同時にリヴィスは剣を振るった。
すると、二人の意識が戻った。
「ん?僕は何をしてたんだろ?」
「久しぶりに寝たわ~」
母は先ほど殴られた痕があったが、しかし神達が出てきてからというもの殴られた痕は無くなっている。ということは、神が幻影か何かを使って偽装してたか。
「解放は致しましたが……どうも厄介なことになっているようです」
「というと?」
「確かに先ほど私は【色相符】のみを切り裂きました、が、どうやら洗脳されていたようです」
「洗脳!?」
「はっ、洗脳かまたはそれに準ずる魔法の類いかと」
「それは厄介と言うか。というか、洗脳も一種の魔法だよね」
「そうですけど?」
「てことは、母さんなら簡単に防げたはずなんだけど」
「それに関してですが、見たところ【色相符】の後にかけられたもののようです」
「つまり、無抵抗の状態でやられたってことか」
「そういうことになりますね」
「敵、発見。殺す」
母が言う。
「下がってください。第零席次様は私と互角以上で戦える方です。庇いながらではあなたを守れるかどうか……」
「分かった。じゃあ僕は街に逃げる」
「分かりました。お気を付けて」
「あ、あの、シー様。私になにか手伝えることは?」
ミレンドスは一言言いながら心配そうに僕を見る。
「僕とついてきてくれる?」
「分かりました」
「その子は奴隷ですか?」
ウィルは僕に聞く。
「ええ、僕からすると奴隷と言うよりメイドみたいなものとして扱いたいんですが」
「ということは、奴隷にしたくてしたわけではない、と言うことですか」
「ええ、この子はある貴族の男から奪ったようなものです」
「なるほど、良ければ奴隷魔法を解除しましょうか?」
「出来るんですか?」
「私ではなくこの子ですけれど」
ウィルがそう言うと声が聞こえてきた。かわいらしい声だ。
「こんにちは、あなたが私を必要としてる人?」
はい
「分かった、で、どの子を助ければ良い?」
そこの奴隷の子
「じゃあ、解除」
「終わったよー、他に助けて欲しい子はいる?そこの二人も助けれるの~」
助けれるの?
「簡単だよー、解除の精霊だもん」
お願いします
「はーい、じゃあ解除」
終わった?
「うん、じゃあね。また助けて欲しかったら呼んで~待ってるよー」
「どうやら、うまく言ったようですね」
「ええ、ありがとうございます」
「シー様?」
「もう、奴隷魔法は外したから安心して」
「じゃあ、私はどうしましょう?」
「僕のメイドになるってのは?」
「それが良いです!」
ミレンドスが目を輝かせながら言う。
「じゃあ、その方向で」
「うん?私何してたの?」
「母さん!」
「シー?どうしたの?」
「戻ったか」
リヴィスが言う。
「さてと、行くか。あいつも解放される頃だ」
「あいつ?」
「ああ、剣鬼殿です」
「ドクトフィジー様が?」
「ええ、あの方であれば【色相符】の解除など造作もないでしょう」
「オッケー、じゃあ行こうか。ミクを解放するために」
「はっ」リヴィスが僕に跪きながら言う。
「私も微力ながらお手伝いさせてもらいます」
ウィルも頷きがら言う。
「じゃあ、僕らも手伝おうかな」
「あら、勝手に決められるのは困るんだけど?」
「でも、行くんでしょう」
「良く分かってるわね」
「じゃあ、行くか」
僕は言う。
街に出るとそこはいつもとは全然ちがった。
街全体が静寂に包まれている。
「どこにいるんだろ?」
「私の読みでは次元牢獄かと」
「エアリアルが言ってたな」
「ああ、あの子が言ってたのね」
「取りあえずは王宮に行きましょう」
「王宮?」
「ええ、剣鬼殿が待っているかと」
「父が?」
「ええ」
「では、まずは剣鬼に会いましょう」
ウィルが言う。
全員がそれに同意したので分担を決めた。
まず、母と剣聖リヴィスが剣鬼班、その他はこの街の偵察。
偵察班は二人構成。まず、精霊女王とフォーデン班、そして僕の班は残った僕とミレンドスだ。
完全に僕が外れ枠であること以外は良い。
ここで、神なんか出てみろ。確定で死んじゃいますよー。アハハ
まあ、そんなこともありますよね。
と言うことでいざ出陣!
といっても街中を散策するだけもとい、偵察するだけなんだけど。
「シー様、中から音がします」
ミレンドスがある家の前で立ち止まって言う。
「敵?」
「たぶん敵だと思います」
「なかに入らないと分からないってことか。嫌な賭けだわ」
「どうします?鍵はしまってますし」
「ミレンドス、どういう時のための魔法だい?」
「なるほど」
「では、解除」
「開きました」
「じゃあ、気を付けて行こう」
僕らは忍び足で家の中を進む。
僅かに奥のキッチンから音がする。
「ミレンドス、渡しといたアレ抜いといて。たぶん、戦闘になるから」
僕は小声でミレンドスに指示する
「分かりました。シー様もお気を付けて」
「別れる訳じゃないんだから大丈夫」
「分かりました」
その頃、精霊女王班は……
「何の気配でしょうか?精霊女王様」
「大丈夫よ、そんなに堅苦しくなくて」
ウィルは笑顔で言う。
「いえ、身分の上の者に対して敬語を使わないのは失礼に当たります」
「そう?私はそうは思わないけど?」
「私はただそう言うのを気にする質なだけですよ」
フォーデンは茂みから飛び出してきた魔獣を一撃で仕留めつつ言う。
それとほぼ同時に横の茂みから出てきた魔獣もウィルが魔法で心臓を貫く。
「で、この強い気配は何?」
「分かりません。精霊女王様もお気を付けてください。この気配、尋常ではありません」
「そんなの分かってるわよ。この気配は神にも劣らぬ気配よ」
「神…ですか?」
「いや、違うでしょうね。ただ、神に近しい存在だとは思うわ。どちらかと言うと魔獣よりの」
「なるほど、魔獣の長ですかね」
「多分ね」
街の静寂を破るようにその魔獣達は咆哮をあげる。
「死んだら、骨は拾ってくださいますか?」
「それは、あなたの友人に頼んだら?」
「そうですね」
その頃、剣聖班は……
「魔獣の咆哮…ですかね?」
「ええ、たぶんそうね」
「では、急いで剣鬼殿を迎えに行きましょう」
「ええ、あの人はいつ何をしでかすか分からないから恐いのよね」
リヴィスは話を聞きながら苦笑する。
「魔獣は居ませんね。私たちのところにも来ているものだと……。これは…不味いかもですね」
「ええ、ドクトレベルの猛者よ。あのウリィデルムは」
二人の額に汗が浮かぶ。
「向かってきましたね」
「迎撃用意しましょう」
そう言いながら母は超圧破壊を発動させる。
「そうですね。装備もこれでは弱いでしょうし。来なさい、我が剣デフィルトス!」
リヴィスが腕を空にあげて叫ぶと空から真っ白い剣身の剣が降り立った。その様子はまるで女神の降臨のようだった。
「それは…」
「はい、十剣が一本魔断剣デフィルトスです」
「これがね、私もこの前初めて十剣見たのよ」
「そうでしたか。では、行きましょう!」
どうにか第7話、今週中に間に合いました!
出来れば、今週中に8話も投稿したいと思っています。
読者の皆様、これからもよろしくお願い致します。




