6 精霊と番神
母は奴隷紋を鑑定する。それを水晶画面に映す。
「見ての通りです。この奴隷はこのシーウォン=ウォルフェンのものです。今すぐ返還を」やや強めの口調で言う。
「クソー!こうなれば、契約破棄。魔女の血判契約を破棄する!」
イヴィルス卿もかなり強い口調で言う。
「はぁ、これだからド素人は」母が呆れたように言う。
そりゃそうだ。魔女の血判契約は契約破棄が一切出来ない契約。
違反した瞬間罰が下されるものだ。まあ、魔女以外は使えないため王国でも知っている人は少ない。
「うわああああぁぁぁぁ、腕がー!」予想通り、罰を下された。代償は両腕。
「じゃあ、もらっていくわね。あとその傷は癒えることがないからね」母が笑顔で言う。流石魔女。恐ろしい。
「…拾ってきたけどどうする?」
ミクが聞く。
「とりあえず名前を聞きましょうか」
「それが良いと思う」
「じゃあ、名前聞くけど良い?」
全員、奴隷なんか扱ったことがないせいで謎の緊張感がある。
「君、名前は?」
僕は中腰になって奴隷の子に声をかけた。
獣人の子は口を開かない。
「どうしたのかしら?」
母が言う。
「奴隷ってもうちょっと話すものだと思うよ?」
フォーデンが言う。
というか、だんだん奴隷の子が悪いみたいな雰囲気が出てきてるけど大丈夫!?
「…違うと思う、多分教えてもらってない…」
ミクが一言。
やっとフォロー来たよー。
「なるほどね。ちょっと奴隷商人に聞いとくわねー」
母が軽いノリそう言う。
「…わ…し…は…ミレン…ドス」奴隷の子は必死に言う。
「ミレンドスちゃんっていうの?」母が聞く。
奴隷の子は首を縦に振る。
「ミレンドス、良い名前だね」
「うん、良い名前」
ミクとフォーデンが笑いながら言う。
「で、この子誰がもらうの?」
「…シー君」
「ウォルフォン君じゃない?」
「シーでいいと思うわ」
満場一致で僕かよ!
「分かったからそんな目で見ないでくれ」
「良かったわー」
「さて、ミレンドス。君は今日から僕が主人になるからよろしく」
「はい」はっきりとミレンドスが言う。
「んじゃ、まず第一の命令。自由にして」
「?」
僕の命令に戸惑っている。
「シー、奴隷に出す一番最初の命令がそれってどうなの?」
母が一言。
まあ、確かにその通りだ。
「でも、いちいち命令出すの面倒じゃん」
「確かにそうね。ということで一番最初のミレンドスちゃんに課す命令は自由に行動するってことで」
「母さんがなぜ仕切っているのかは分からないがそういうことでよろしく」
「はい、分かりましたご主人様」
「あと、そのご主人様っていうのなしで」
「はい、分かりましたーー」
ミレンドスは言葉に詰まっている。
名前を教えてないのが原因だと思うが。
「僕の名前はシーウォン=ウォルフェン。よろしく」
「シー、それ先に言うものよ」
「アハハ、忘れてた」
母は呆れたようにため息をする。
「分かりました、ウォルフェン様」
「出来れば、シーって呼んでくれるとありがたいかな」
「分かりました、シー様」
「よーし、じゃあ家に帰ろー!」
「うん、疲れた」
家に帰って来ましたー!イェーイ!
うん、急にどした自分。
「さてと、今日はパーティーね」
なぜか母までついてきている件。
「お邪魔するね」
フォーデン、お前に関しては何勝手についてきてる!としか言いようがないのだが?
いや、普通に一時間前にあった人の家についてくるか!?
まあ、確かに昔の知り合いだけどさ。こっちでは知らない人だからね。
「じゃあ、待ってて。シー君」
ミクがいつの間にやら家着になって言う。
僕はとりあえず自室に戻って着替える。
というか、十歳の子供二人のためだけに白堊の豪邸が買える両親とは!?
まあ、そんなことを考えつつ普段着に着替える。
そして、卓上の蝋燭に《小炎》で火を着ける。
そして、本を一冊手に取り読む。
大体が魔導書だ。
魔導書というのは魔法の百科事典のようなもので魔法式などの構成に必要なものの情報が書いてある
この巻は炎魔法の魔導書だ。
中に書いているのは爆炎の水晶・炎熱・超炎下。
これだけで約百ページちょい。
一冊当たり約百ページ。それを炎魔法だけで十冊。
読む気、失せるわー。
「失礼します、シー様。ミクナレド様がお呼びです」
ノックをしてミレンドスがドアの近くで言う。
「ん、分かった。ミレンドスは先に下、行っといて」
「はい、分かりましたシー様」
階段を降りる音がすると同時に屋敷が揺れるような轟音が鳴り響く。
僕は急いで下に降りる。
そこには階段から落ちて気絶したミレンドスと何者かに殴られた痕のある母さん、フォーデンが居た。
ミクは周りを見渡す限りいない。
先程、ミレンドスが来てミクのことを伝えたところを見る限りミクのいなくなった原因はあの轟音だろう。
さて、これからどうするか。
ミクを探すには母がいる。少なくとも僕一人では無理だ。
この貴族社会では権力が大事。しかし、僕には何の貴族位もない。
そんなことを考えている僕に声が聞こえた。
「困ってるの?助けてあげる」
子供?
「子供じゃないよ、私は風の精霊エアリアル。困ってそうだったから声かけたの」
なんで、僕の考えが伝わってんの?
「精霊だからだよ」
精霊って流石異世界
「へへへっ、そうでしょ」
さて、手伝ってくれるとか言ってたが具体的にどう助けてくれるわけよ?
「えーとね、精霊女王様が~君のことを助けて~って言ってたからどの精霊も君の言うことを聞くよ~」
精霊女王?
「うん、私達のお母さんなの~」
てことは、精霊のトップってことか。なるほど。
まあ、ミクナレドって子を探してるんだけど。
「分かった~じゃあ、探してくるね~」
ちょっ、探すってどうやって?
「え~と、風たちに聞くの」
風に聞く?
「そうなの~、私達は風とつながってるの~あと、他の子も手伝ってくれてるし~」
そうか、ならいいんだけど。で、僕はどうしたらいい?
「ここで待っててねー」
分かった。
数時間後……
「見つからなかったの~」
見つからない?風に聞いたんじゃ?
「あのね~、この世界ぜーんぶ見てきたの~」
この世界?
「そーなの、でもね、見つからなかったの」
この二人も全然起きないし、どうなってのやら。
「今、精霊女王様が探してるの~」
精霊女王が?
「うん、今ね~確か~番神様に~聞いてるの~」
番神様?
「そー、今ね~空の番神様に聞いてるの」
空の番神様ってことは空間を操る番神か。
「うん、そだよ~」
ということは、次元牢獄の類いか。
「精霊女王様はそう狙ってるみたいね」
口調がちがう?
「なんで、色の番神ビフロフト…が…」
エアリアル!
「これで、邪魔は居なくなったわ。精霊女王はあいつが殺ってるだろうし」
なんで、番神が出張ってる?
「さーね、私は御神様に言われただけだし」
御神?
「これ以上は私の口からは言えないかな」
ビフロフト?ビフロフト!?ビフロフト!どこに行った!
これ以上、ややこしいことに巻き込まれたくはない。しかし、僕は今、神という理不尽な存在に四人の人質を取られている。よって、僕は神を相手に戦争を知恵比べをしなくてはならないということか。
まずは神に会う方法を考えないと。
「シー…様?」
エッ!?なんでミレンドスが起きてる?
「なっ!なぜ?私の【色相符】が効かなかったの!?」
ビフロフトが驚いている。つまり、起きることは想定していなかった。
「【色相符】を破れるのなんか初代剣鬼と今代の剣聖だけ……馬鹿な……何故、貴様がここに……」ビフロフトが怯えるように言う。
「ほう、覚えてるとは光栄だな。色番神ビフロフト」
横から女性の声が聞こえる。
「貴様は……現剣聖リヴィス……」
「そうだぜ、とっ、こんなことしてたらあいつに怒られちまうか。大丈夫か、シーウォン」
ビフロフトにリヴィスと呼ばれる女性は僕に尋ねる。
「ええ、僕は大丈夫ですが、なぜ僕の名前を?」
「ん、それは後で言う。それより、今はここにいるビフロフトが先だからな」
そう言いながらリヴィスは何もないところを斬る。
「何故だ…何故、見える?」
「その気配に気づけない程、気配音痴じゃないんでな」
そんなことを言いながらリヴィスはもう一度同じところを斬る。
すると、虹色の髪をしている子供?が現れた。
「こうなれば、私の手には負えないわ。精霊召喚キングベヒモス。キングベヒモス、こいつらを殺しなさい」
ビフロフトがそう命令するとその場に象のような怪物を召喚した。
「これが、精霊?」
「そうよ、これが地の大精霊キングベヒモスよ」
「ビフロフトに従わない」
ベヒモスが一言かなりの低音で言う。
「はぁ?何言ってるの?私は召喚主、貴方は召喚獣。分かるわね?」
ビフロフトが怒って言う。
「殺した。エアリアル」
ベヒモスはまた一言言う。
「それが?どうかした?」
ビフロフトは先程より声を高くして言う。
「我ら精霊は同族を殺されればその執念はどこまでも続く。ビフロフトも分かっているはずだ」ベヒモスは反論するように言う。
「もう良いわ。まずはあなたを殺す!」
ビフロフトが声を荒げる。
「そうはさせませんよ。色番神ビフロフト。あなた方の行いは既に神界で越権行為として処罰が決定しています。今すぐ神界まで戻りなさい!」
ビフロフトがベヒモスを殺そうとした瞬間目の前にきらびやかなドレス姿の女性が現れた。
「空番神は?」
「ああ、彼なら神界に戻りました。熾天使に連れられて、ですが」
「なぜ、熾天使が?」
「さぁ?ですが、そろそろ来ますよ主天使キュリオテテスが」
「主天使キュリオテテス、私たちよりも強いセクメト様の使い天使がなぜ!」
「言ったでしょう。処罰が決まっている、と」
毎日投稿ができなくてすみません。
リアルがかなり忙しいので来週くらいまでは毎日投稿が厳しいかもです。
すいません。




