5 剣星
ヒィボリーヌは大虐殺を使い終わると息を切らしながら「堕天使召喚!ヴィロフィレス」言っている。
堕天使召喚は魔術師の切り札とまで呼ばれる魔術。
堕天使というのは悪魔の部下のようなもの。ソレを召喚するわけだから魔力の消費は馬鹿にならない。
しかし、彼女はソレを使った。
これが意味することは、彼女は僕、というよりこの国自体を滅ぼすレベルの覚悟を決めたということだろう。
僕は一旦思考をやめて現実を見た。
どうやら僕が思ってたほどぬるい考えではなかったようだ。
彼女は自分の身を贄に兆位堕天使を召喚していたのだ。
「フフフッハハハクフフッ!良いざまねシーウォン!どうやら大虐殺は防げたようだけどこれまでよ。兆位堕天使ヴィロフィレスを召喚したからには貴方だけでなく周りも道連れにしましょう!」
ヒィボリーヌは半分以上堕天使の身体になっているのに口を動かし続ける。
話の半分近くが狂気の笑いだ。正気とはとてもじゃないが思えない。
「フフフッ、あと少し…あと少しで…!?」彼女が驚いたのも無理はない。
彼女の腹の辺りを貫いているのは全てを腐らせるとして王宮の最下層にあるとされている、腐剣イグリーヴォだったのだから。
それと同時に彼女は堕天使の身体になった。
しかし、如何に堕天使といえど身体の中を腐らせられればただでは済まない。
そして、さらに追い打ちをかけるかの如く飛んできたのは柔剣ヴィリボリヌ。この剣も先ほどの腐剣と同じ王宮の最下層に眠っているとされている剣。この剣の伝承は確か剣の所有者の所望する形に変化し所有者の所望する効果を付与する。というもの。
確かに目の前に刺さっている剣は柔剣の伝承と全く同じ効果を発現している。
「ふーん、案外弱いね。兆位堕天使って」
そう、サラッと言うのは白銀の髪を持つ少年。
年は十二・三歳くらいか。
「君は?」白銀の髪の少年は僕に聞く。
「僕は、シーウォン=ウォルフェン。貴方は?」
「ああ、名乗り遅れたね。僕はシュヴァリ=フォーデン。剣星を名乗らせてもらってる」と笑顔で言う。
剣星は剣鬼・剣聖に次ぐ称号だ。確か、剣星は数人いるはず。
「そうでしたか。失礼いたしました」
「というか、君の剣の腕もすごいよね」
「…そうでしょうか?」思わぬ言葉にフリーズしてしまった。
「うん。大会で見てたけどさすがだね。まさか僕の教え子を軽々倒すとは思ってもなかったよ」
「教え子?」
「そうだよ。えーとヴォリグノーデ=フォッレンっていうだけど」
「あの一回戦の?」
「そうそう。というか、ウォルフェンって剣鬼様の家柄だよね?」
「ええ。父が剣鬼です」
「なるほど、それなら君のその強さも納得が行く」
と、そんな話をしていると母達が浮遊で飛んできた。
「あの人達は?」
「僕の母と婚約者のミクナレド=ベリウェールです」
「君は何者なんだい?」
笑顔で問いかけてくる。僕はそれがどのような意味を持つか薄々勘づいていた。
そして、僕はその問いに対して「転生者」と一言だけ言う。
「ふーん。案外、似てるね僕たち。僕も転生者なんだよね」
「前世の名前は?僕は菜津智」
「君が奈津くんなんだ。へ~。ああ、そう僕の前世の名前は三石賢二」
ああ、なるほど。納得だ。三石賢二、僕の同級生でありクラスメート。そして、何よりも剣道の達人。確か、二段を持ってるほどの実力者。
その三石がこのフォッレンならなんとなく納得が行く。
あと、性格もかなり三石君らしい。他人に無関心なところとか。
ということは、他のクラスメートもこっちに来てる可能性があるってことか。
「シー君、大丈夫?」
「羨ましいね」一言、フォーデンが言う。それが本心なのか建前なのかは僕には分かりかねる。
「シー、この子は?」
「ああ、この人は」僕が言うより早く「シュヴァリ=フォーデンと申します」という。
「私は」母も自己紹介しようとするがそれよりも早く「シーウォン君の母君ですよね?」
「ええ、ヴォーウェン=ウォルフェン。王国魔女団第零席次漆黒の魔女よ。以後、お見知りおきを」
「なんと!あの伝説の第零席次様でしたか!」
フォーデンはかなり驚いた表情で言う。
ていうか、家の両親はどうなってんだよ。
「母さん、伝説って?」
「あー。うん。色々あるのよ色々」
なんだ色々って。大人の事情ってことか?
「で、シー。何があったの?」
「えーと、ヒィボリーヌが兆位堕天使を身体を贄に召喚してそこにフォーデンが来て兆位堕天使を殺した」
「…………」母は言葉を失っている。まあ、確かに兆位堕天使を殺せるのなんかこの国規模じゃ一人いるかいないかレベルの化け物だからな。
「第零席次様ならご存知なのでは?この腐剣イグリーヴォと柔剣ヴィリボリヌの威力は」
フォーデンは二本の剣を鞘に戻しながら言う。
「……、確かに十剣の威力はお墨付きよ。でも、その二つに限らず十剣は所有者を選ぶわ。つまり、貴方はその二つの剣に選ばれたと言うことよ。その者が強者でなくてどうするの?」
母はフォーデンに向かって真顔で言う。
「まあ、確かにこの剣達に認められはしましたが剣の腕はあまりありません」
フォッレンは真剣な顔で言い返すが、お前が腕がないとか言っちゃダメだろ!
もう少し頑張れば四段も夢じゃないとか言われたお前が!
と心の中でツッコミをかましながら話を聞く。
「そうかしらねぇ?いとも簡単に魔法師を屠る練聖の剣星さん」
「流石、第零席次様。その事までご存知でしたか」
は、話について行けない。
「そうだ、ミク、奴隷の子は?」
「……、イヴィルス卿が連れ去られました」
てことはもとの主人か。
「ちょっと、そこのお二人さん。手伝って欲しいことがあるんだけど」
「なんだい?」
フォーデンが聞く。
僕は「少々助けたい人がいてね」と言う。
「それが誰かは聞かないであげる」母が言う。
「ありがとう」
僕は三人に深々と礼をする。
「……、良い、だって正妃だから…」
「シーが助けたい人なんでしょ。だったら、私は母親として同伴するのは当然よ」
「まっ、僕と君が会えたのも何かの運だからね。協力するよ」
我ながら良い友達に恵まれたものだ。
奴隷紋を取りあえず辿ったけどこれは貴族の家みたいだな。無理やり入るのもどうなんだろう。
「シー、なら私の特権使ってあげるわ」と母が僕の心読んでいたかのごとき答えを出した。まあ、なんだろうと良いことは良い。
「ありがとう、母さん」
「良いわよ。可愛い息子のためだもの」と母はウィンクしながら言う。
「それじゃあ、行こうか」
「そうだな。浮遊は使える?」
「僕、魔法は滅法苦手で」あはは、と照れ隠しの笑いをしながら言う。
「それなら、フォーデンは僕が転移で連れていく」
「分かったわ。じゃあミクちゃん行こう」
「はい、お義母様」
そう言って二人は飛んでいった。ちなみに場所は思念通達で知らせておいた。
そして、僕らは転移で家の前まで行く。
その数分後…
「ごめん、お待たせ」
「別に待ってないから大丈夫」
「なら良かった」
「さてと、じゃあ権力をバリバリ使っていくわよ」
「お願い」
「失礼しますね。王国魔女団第零席次ヴォーウェン=ウォルフェンです。イヴィルス卿、奴隷をお返しください」
「何でしょう?主人が何か?」出てきたのは桃髪の女性だった。
「突然すみません。しかし、貴女のご主人がこの子の奴隷を奪った容疑がかかっています。奪ってないと言うなら奴隷を提示し奴隷紋を見せなさい」母は誰もいないはずの窓際を見ながら言う。
僕らはミクを除いて誰も分かっていなかった。
「流石はウォルフェン殿。しかし、私は奪っていませんぞ」
「そうと言うなら奴隷紋を見せなさい」
母は一切表情を変えることなく言う。
「分かりました。では、御見せしましょう、追い来い!」
イヴィルス卿は後ろにいる先程の奴隷に命令する。
「はい……」
奴隷紋は書き換えたから恐怖によって支配されていると思われる。
「では、その奴隷の奴隷紋を」
「その前に《契約》を」
「分かりました。では、魔女の血判契約をしましょう」
「良いでしょう」
「では、条件提示です。まず、その奴隷の奴隷紋が貴方ではなくここにいるシーウォンのものであればその時点より引き渡しなさい。また、奴隷紋に対する供述は必ず真実のみしか供述出来ない。以上」
「良いでしょう」
魔女の血判契約は破ることが出来ない契約だ。
昨日は投稿できなくてすみません。
良いわけをさせてもらうと昨日漢検がありましてそれの影響です。




