29 再会
今日はひな祭りです。
だからと言って何もありませんが……
「どうも、レン=メトスさん」
目の前に居る如何にもギルドマスターと言う感じのごっつい男が言う。
「こんにちは、ギルドマスターさん」
「失礼した。私はリメトス=エグゾミル。ここ、王都のギルドマスターをしている」
「エグゾミルさん、此方の自己紹介は必要なさそうですね」
「ギルドカードに書いてありますから」
「ああ、そう言えばそうでしたね」
「あの剣の腕から見るに剣士ですか?」
「いえ、魔法師です。魔女級の」
「ま、魔女……級……!?」
「はい、取りあえず此処居る方々に聞かれて不味い話があるので外していただけますか?」
「分かりました。外せ!」
「ありがとう御座います。さて、これから話すことは口外無用で願います」
「分かった」
ギルドマスターはゴクリと唾を飲む。
「僕は魔王シーウォン=ウォルフェンです。一応、此処ではメトスと名乗っています」
「そ、そうでしたか。では、魔王と言う証拠を見せては頂けませんか?」
「証拠と言うのは?」
「例えば前魔王を此処に呼ぶなど」
「分かりました。ミトリス、この男がお前に会いたそうだ」
「御意。何でしょうか?」
「魔王ミトリス……」
ギルマスは驚きすぎて腰を抜かしている。
「今は魔王ではないこの方が今の魔王だ」
「分かった。それなら、先程の話も理解できる」
「信用していただけたようで安心しました」
「ウォルフェン様、——」
ミトリスが耳元で囁く。
「うん?どうかしましたか?」
「いえ、何でもありません。僕はそろそろ下がらせてもらいます。用事がありまして」
「そうですか。分かりました、ランクはSランクにさせてもらいますね」
「ありがとうございます。では、僕はこれで」
正直言って気が気ではない。
今では関りが無いとは言え一応、半年程度は一緒に暮らした仲間。
それが今、ダンジョンで死にかけてるとなれば。
事の発端は先程のミトリスの報告…ではなくだいぶ前に契約した古龍からの思念伝達。
まあ、大丈夫だろうと思っていたが先のミトリスの報告でいかにあいつらが弱いかが分かった。
そりゃそうだ、魔獣のランクSに勝てるのなんかウチの四天王とミトリス、あと古龍程度なものだ。
それをようやくまともに動けるようになった程度のおこちゃまでは勝機どころか生きてすら帰れないだろう。
とはいえ、ダンジョンのどの階層に居るか分からない以上、一階層ずつ下がっていくしかない。
というか、前提がおかしいのだ。
あのダンジョンは世界規模で見れば大したことないダンジョン。
そこにSランクの化物、災害とまで呼ばれるような存在が現れるわけない。
魔族王国内にあるダンジョンですらA+が稀に出る程度、なのにSが出るわけがない。
魔族王国内にあるどのダンジョンよりも劣るこのダンジョンに。
そして遂に見つけた化物、そう言うに相応しい魔力。
そして、十メートルはあるであろう大剣の様な尻尾を元クラスメートに振りかざしている魔獣。
戦線は崩壊寸前。
良く持ちこたえていると思う。
僕ですら苦戦を強いられる相手に対して。
僕は魔獣に対して一閃する。
ガキン!
鈍い音を立てて僕の魔鉄の剣が折れる。
最大限、魔力を込めて高度を増した魔鉄を折るなど普通の魔獣に不可能なことである。
それも肉が柔らかいはずの腹で。
「菜津君!?」
「何ですか?葵唯さん」
「何ですか、そのそっけない態度は」
「貴女とは縁を切りましたし、一応こちらも一国の王なもので」
「どういうことですか?」
「っと、無駄話が過ぎました。全員を下げてください。巻き添え喰らって死なれたら後味悪いですし」
「分かりました。これが終わったら話を聞かせて下さいね」
「何でもいいですから、早く下げてください!」
全員が下がったことを確認し、僕は自身の魔力を全開する。
魔獣と僕の魔力によって付近の岩やダンジョンの構造物は吹き飛んでいる。
僕は天使を召喚して元クラスメートを守ることを厳命した。
序でに、傷も癒すように指示した。
そして、魔獣の魔力を魔力操作で魔力に回すようにした。
これで、魔獣の魔力は減少する、はずだった。
しかし、僕は失念していたこのダンジョンの大気魔力量は魔獣の魔力よりも上回っている。
要は回復してしまうということだ。
しかし、僕は魔獣と違い大気中の魔力は吸収できない。
つまり、此方が圧倒的に不利なわけだ。
ただ、僕には好魔の加護がある。
しかし、そんな物は気休めにしかならない。
何故ならこの魔獣は魅惑耐性を持っているからだ。
つまりは明らかにこの勝負、僕の方が分が悪い。
そんな時だった。
〔大気魔力の吸収……成功しました。
スキル 魔力吸収の取得条件を満たしました。
スキル 魔力吸収を取得しました。
スキル 大罪の悪魔召喚を取得しました。〕
大罪の悪魔召喚?
〔使用しますか?〕
取りあえず、イエス!
〔傲慢、憤怒、嫉妬、怠惰、強欲、暴食、邪淫を召喚しました。〕
その瞬間、僕は見知らぬ場所に転移していた。
そして、僕の前には七人の悪魔がいた。
『我らの主よ、我らにご命令を!』
七人は僕に跪きそう言う。
「まずは、名前を聞こう」
「はっ、私はルシファー。傲慢、第一の大罪悪魔です。今は奈落でタルタロイ様の下で奈落を納めさていただいております」
漆黒の翼に人間の体、それに金髪の角の生えた女性がそう言う。
「では、次」
「はっ、我はサタン、憤怒の罪、第三の罪を冠する大罪悪魔であります。奈落にて悪魔長をしております」
人間の体に立派な角の生えた如何にも悪魔っぽいのがそう答える。
「次はお前か?」
「そうよ、妾はレヴィアタン、嫉妬と言う第二の罪を冠する大罪悪魔。悪魔で唯一、どんな攻撃も無効化できるわ」
赤髪の女性が言う。
「我か?」
「ああ、お前は?」
「我はベルフェゴール~、怠惰の罪、第四の罪を冠している~」
めんどくさそうに白銀の二本の角を持つ女性が言う。
「我は強欲、第五の罪を冠している。名をマモンと言う」
おさげの少女がそう言う。
奈落は女が多いのか?
「私は暴食、第六の罪で名はベルゼブブって言います」
そんなことを考えていると首に鎖がつけられた幼女が言う。
「最後は妾ですね。第七の罪、邪淫、アスモデウスです」
ビキニの紫髪の女性が言う。
「分かった。では、お前らに命ず我に仇成す存在を滅ぼせ。しかし、人間や魔族などを滅ぼす時は我の許可をとれ」
『御意!』
その時、空間にひびが入る。
「無礼者め、我らと主の対話を邪魔するとはいい度胸だ。その度胸に免じて一撃で滅ぼしてやろう」
ルシファーがひびの入った方向へ向かい自身の背中にかけていた黄金の弓を取り出し一撃放つ。
その瞬間、Sランクの魔獣の脳天に穴が開く。
人が一人は入れる程度の。
「ルシファー、今のは?」
「この弓はブラフマッダ。鍛治神ヴィシュカルマ様に創っていただいた至高の弓であります」
「なるほど。他の者も持っているのか?」
「はい、我ら大罪悪魔はタルタロイ様により一人一つの武器を持たされています」
「見せてくれるか?」
「見せることは出来ませんが武器の種類であれば伝えることはできます」
結局、武器の種類と名前だけ聞いた。
まず、リヴァイアタンは軍刀。銘はベトフィスト。
サタンはバスターソード。銘はエレトニクス。
ベルフェゴールはクロスボウ。銘はテリトーリス。
マモンはモーニングスター。銘はベルファルト。
ベルゼブブはハルバード。銘はペリト。
アスモデウスは双剣。銘はペドロ&カプリシャス。
と言う感じだった。
そんな時、外が騒がしくなる。
僕はすかさず外に出る。
悪魔達には透明化して付いてくるように命令した。
「奈津君、あれは何でしょうか?」
葵唯が指差している方を見ると古龍が一匹いた。
僕が契約した古龍だ。
「何をしに来た?」
「すまない、想定外があった」
「どう言うことだ?」
「まさか、殺されるとは……」
「どう言うことだ!」
「貴公の母を守りきれなかった」
「?」
理解が出来ない。母を殺せる相手などこの国ではいない。
ではなぜ?簡単だ。全力を出せなかったから、だ。
「その者達を庇った末に……」
「分かった。もう良い。遺体は?」
「我の部屋に」
「では、それは厳重に保管しろ」
「御意」
僕は特に何とも思っていなかった。
というより、最近自身の精神状態が変化している。
まず、死体を見ても何も思わないし人を殺しても何も思わない。
序でに自分の大事な人を殺されても大して怒りも悲しみも起きない。
これも転生した影響なのか。
「智?」
「リン、どうかした?」
「何で此処にこれたの?」
「どういう意味?」
「そのままの意味。何で此処が分かったのか」
「一階層ずつ探したから」
「そんな方法で此処に来れたって言うのか?」
後ろから脳キンもとい、桐ケ谷が言う。
「ああ、これでもダンジョンを踏破している身なので」
『えっ?』
その場の空気が凍りつく。




