3 戦闘
「母さん、僕はミクの方に」
「行ってらっしゃい、シー」
終始、貴族の目はこちらを見ていた。
何かマズイことしたかな?
貴族の一人が立ち上がり僕の方へ近づく。そして一言「娘と婚約してくれ」と言った。
まあ、元々婚約とか興味ない系の人種だったもので。対応が分からない。
そこに母が乱入する。
「貴方は確かエヴィリン卿ですね?今すぐその子から離れてください」
「漆黒の魔女、王国魔女団第零席次」
「それを言うと言うことは殺されたいということの意思表示かしら」
「仕方ない、アレをーー」男の言葉はそこで途切れた。
尤も、僕が隠し持ってた短刀の柄で鳩尾を殴ったからなのだが。
まっ、そこに身体能力向上をかけたから死ななかっただけマシだろう。
母は、その男の隅々を念入りにチャックしているようだった。
「シー、控室に戻ってて」
やや強めの口調で母が言う。
もとより、戻る予定だったのでおとなしく控室に戻った。
「…ん、お帰り…」
「ただいま」
「そこ、気を付けて」彼女は僕の足元を指差す。
足元には男が数名転がっていた。
「これ、どした?」
「襲って来た。だから、返り討ち」
あー、なるほど。というか、僕の可愛い婚約者に手を出すとは。命知らずが。
「顔怖いよ?」
「ごめんごめん、ちょっと考え事」
考え事というのもあながち間違っていないはず。
「あ」彼女は思い出したようにポケットから封筒を出した。
「これ」彼女はその封筒を僕に渡す。
「開けても?」
彼女は首を縦に振った。肯定の意味だろう。
僕は封筒を閉じてる糸を外して中を見る。そこには一枚の紙が入ってた。
紙にはこう記されていた。『貴様の婚約者は捕まえた。返して欲しくばこの闘技場の地下倉庫に来い』と。
まあ、こんなこと言われたら行かないとだよな。というか、さっきのミクは?
「シー、大変よ。ミクちゃんが!」
「今、見たところ」
「その紙貸して頂戴」
「良いけど?」
母は僕から紙を受け取るとリリースアイテムと唱える。
「相手の本陣が分かったわ」
「じゃあ、そこに」母は僕が続きを言う前にいう。
「シー、落ち着いて。まずはミクちゃんを」
「そ、そうだね」
僕は念のため、『神刀』を装備して行った。
母は魔樹で作られた杖を装備している。それと普段は見ないようなローブを被っていた。あとは、《思念伝達》で連絡が取れる状態を確立した。
思念伝達が切れたら緊急事態というわけだ。
「じゃあ、行くよ」
「分かった」
母と思念伝達で会話をする。
僕は鍵を短刀で切り落とし、ドアを開けた。
「分かれ道ね。私は右側に行くわ」
母が思念伝達で言う。
僕も了解、と一言言って左側通路に行った。
真っ暗な通路を《視覚強化II》のみで進む。
流石にIIでは見えにくい。
「シー、こっちハズレ」
思念伝達が来る。
「分かった、僕の方はまだ通路がある」
こちらも思念伝達を送る。
「分かったわ。今からそっち行く」
母が思念伝達で言う。
ちなみに母いわく暗視のスキルの方が楽らしい。
おっ、ドア発見。いかにもだな。とはいえ一人で突っ込んだらどうなるか分からない。ということで母待ち。
「ごめん、遅くなった」
「良いよ。じゃあ、準備を」
「もう出来てるわ」
「じゃあ、行くよ」
僕はドアを蹴飛ばして開けた。
「いないわね」
「あっちにドア、あるからあっちじゃ?」
「そうねぇ、シー。よ・ろ・し・く」
ふざけんじゃないよ。とはいえミクの方が大事だし。《火球》。
「シー、そんなのも使えるようになってたのね流石」
火球は火属性魔法最底辺。普通なら対策をお忘れず。と言うレベルの魔法だが、こっちはガスバーナーのイメージだからな。火力が段違い。というか、母全然驚いてないな。
「開いたわよ」開いたもとい焼け落ちたドアの向こうにはシーの姿が見えた。
「行こう母さん」
「ええ、私は援護に回るわ」
「ありがと」
「いえいえ」
僕は短刀を構えて室内に入る。
ミクは牢?の中に閉じ込められていた。
「…シー君?」
「ちょっと待ってろミク。今開ける」僕は牢の鍵を短刀で切った。
「シー君、シー君。怖かったよ〜」とミクが泣き出す。
まあ、十歳だもんな。子供だし。対する僕は高校生。この程度ではビビらないのですよ。
「シー、ちょっとマズイかも」
母が一言言う。というか母が言うといことは結構やばい相手なのでは?
「ご機嫌よう、漆黒の魔女いや王国魔女団第零席次グリンヴォーゲン=メドフィエスタ=イゲクリート様」奥から出てきた何とも際どい服装の銀髪の女性は言う。そして、それと同時に気付く。彼女は化け物だ。僕より魔力は劣っていてもレベルが全然違う。
「ひさしぶり、の方が良いんじゃなくって?王国魔術師団第一席次ジョベリト=ガァン=ヒィボリーヌさん」母が澄まし顔で言う。
さて、どうするか。
一.転移で逃げる。
ニ.母と一緒に戦う。
三.母だけ置いて逃げる。
個人的には三は無い。ここで死なれますと色々厄介そうなので。
となると、逃げるか、戦うか、になるが現実的に転移で逃げるのはよろしく無い。
ということで戦うのが最善なわけだが流石に今神刀でぶった斬るのは無理だと思う。
「シー君、これ何?」やや怯えた声でミクが僕に聞く。
一旦考えることをやめて現実を見る。
僕は、死ぬかもしれないそう思った。これは、生まれたての僕にできる所業では無い。このゴリンボス・フィッシャー・スネークはを殺すなんてのは。
とはいえ、これを殺さなければ自分とミクが死ぬ。それはごめんだ。
ならば、役目をまっとうするまで。
神刀を鞘から抜き、居合で桜吹雪を発動させる。
これならばどんな相手だろうと傷の一つは付けれる。
動きが止まった蛇に《爆炎》を打ち込む。
そこに追い打ちをかける。神仙刀だ。この技、絶妙に隙ができるため相手の隙に打ち込まな
い限り自分が死にかねない。
まあ、見事脳天に直撃。となるはずだった。
相手は神仙刀が当たったはずなのに鱗が数枚剥がれる程度の被害で済んでる。こいつ化け物すぎだろ。
と、そこに母から助言「シー、お腹の白いとこを狙いなさい」との事だ。
という事で、鎌首を上げた瞬間白いとこを付与抜刀する。
付与は《獄炎》・《神器化》だ。
百回以上切り上げたのにも関わらず結構ピンピンしてる。とはいえ、斬りやすい場所を見つ
けたら相手の隙を狙ってそこに打ち込むのみ。
この辺だな。桜吹雪。
相手の攻撃を避けてばっかりじゃダメだな。
僕はそう思い斬撃を発動する。
斬れない!?
嘘だろ、弱点なはずだろ!
そう、僕の斬撃を蛇は弱点であるはずの白いところで受け止めたのだ。
魔法も効かない、斬撃も効かない。こいつに効くのは?
蛇の弱点に刃が通らない、となると他の手段を探すしかないが…
ここは地下、ここで暴れられたら…上が。
「シー君、どうするの?」
「どうしようか?」
「フフフッ、これでも私の従魔なだけはあるわ。弱点を克服するなんて」ヒィボリーヌが言う。お前の従魔か!
従魔、確か魔術師が服従させた魔物の事。また、魔法を行使するための悪魔などを指すこともあったはず。
先ほど、爆炎を使った影響で地盤が壊れかけなはず。
あまり危険は冒せないな。
「シー君、口の中」
思念伝達でミクが言う。
なるほど、口の中。つまり、体内に魔法を撃ち、体内から爆散させる。ということか。
てことは、爆炎破。
僕は口の中にぶち込んだ。
蛇は体内から爆散した。その姿はスイカ割りでうまく割れた時のよう。
「ちっ、厄介な」ヒィボリーヌが悔しそうに言う。
「流石、シー」誇らしげに母が言う。
「母さん、一人でいける?」
「微妙だけど逃げる時間だけは稼ぐわ」
こう言うの言う人って大体死ぬフラグだしなぁ。まあ、死なれても困るしヒィボリーヌを倒してから行くか。
「母さん、加勢する」
何で生後二年とちょっとでこんな死線を潜ってるんだろ?
まあ、目の前のを倒してから考えるとしよう。
「シー君、回復は?」
出来るにはできるがどうせならミクに任せよう。
「ミク、頼む」
「分かった」
心なしか、彼女の顔に笑顔が浮かんだ。
「母さん、どうする?」
「魔術と魔法って微妙に違うからそこを狙うとか?」
まあ、確かに魔術は自身の魔力を従魔に与える事で発現させるのに対して魔法は自身の技量のみで発現させる、という違いがあるが現状魔法は不利。
魔術は構成スピードが早い、それに対してこっちは王国一の魔女サティーバリュー様がそれと同等、もしくは魔術にやや劣る程度の構成スピード。
となれば現実的なのは発現してる本人に当てる事か。
「母さん、ヒィボリーヌを狙う」
僕は思念伝達で母に言う。
「分かったわ、じゃあ本体攻撃はシーに任せるわ。こっちは隙を作るわ」
思念伝達で母が言う。
「お願い」僕も一言そう言ってヒィボリーヌを狙いに行った。
まず、桜吹雪・改。さっきの戦いは全く生かされていないが目標を取り囲むように空間斬撃を繰り出す。ついでに、効果時間も延びた。
「なっ!結界?いや、空間斬撃の連射ってとこ?」
流石だな。しかし、今までの斬撃とは違うのだよ。
「シー、お願い」
「はーい」
「やられてたまるものか!こうなればアレを先ほどは奴がしくじった様だけど貴方たちには止められない」
さっき倒したやつが使おうとしてたやつか。
「シー、離れて。ミクちゃんを守って」
とりあえずやばそうだな。結界と障壁の二重で防げると良いけど。
というか崩落は必至か。
「ミク、上で避難誘導しよう」
「…どういうことですか?」
「ここが崩れたら良い事ないでしょ?」
「…確かにそうですね」
「母さん、ということで上に行ってくる」
「気をつけてね」
「母さんこそ」
《転移》
「…ほんとに転移できた」
さて、まずは王家の方々にってとこ?
確か、王家は来賓室じゃなくてあっちの王家専用の間にいるはず。
「シー君…行こう」
「うん」
ちょっと揺れてる?
ヤバイな、崩れるのも時間の問題。しかもこっちは崩落に対しての耐性が無いに等しい。一時的に崩落が止められても…
「シー君、ここ」
流石王家。僕はかなり緊張しながらノックをした。
「誰だ?」
あーやべ〜、前世ではリン以外にまともに話したことねーのにいきなり王様は流石にレベルあがりすぎじゃないでしょうか?




