21 結界
僕はメーベに言われて病室に来ていた。
目の前にはピンク髪もとい桃色髪の女性がベッドに寝ている。
どうやら半魔族のようだ。
片方の血は吸血鬼で戦闘力だけで言うと魔族の上位魔人クラスと殺りあえる位には強いそうだ。
「で、あなたは?」
僕に桃色髪の女性が聞く。
というか、何と言うか所々、日本人っぽいんだよね。
正座もそうだし。
断定は出来ないけどこれをしてからにしよう。
「奈津智」
僕は日本語でそう言う。
「奈津先輩ですか?」
すかさず桃色髪の女性が僕に聞く。
先輩?てことは、年下?
「ちなみに僕のこと知ってるの?」
「酷いですよー、忘れてるなんて」
ちょっと待て。本気で誰だ?
年下で女子で相手は知っている。
……あいつか?
いや、消去法的にそいつしか居ないしな。
「お前、千歳か?」
僕は桃色髪の女性に聞く。
「やっと思い出してくれましたか~。良かったです」
なるほど。
千歳なら理解できる。
千歳とはキャンプ仲間だったからな。
ベタベタくっつく訳だ。
「で、何があった?」
「実はですね、先輩が殺されてから私も殺されたんですよ」
へっ?いやいや、待て待て。
つまりこいつは僕が死んだことを知っているってことか?
というか、葵唯も知ってたな。
「お前、いつ殺された?」
「えーと、二月二十五日です」
僕が殺されたのは西暦二〇六五年の二月二十三日だったから二日後にこいつも死んでるってことか。
「じゃあ、何で死んだ?」
「確か、お葬式に行ってそれから、いつの間にかここに来てました」
てことは、僕の葬儀後に誰かに殺されたというわけか。
「もう一つ質問だ。その状態で転生したのか?それとも、子供だったか?」
「転生したのは十八年位前です」
十八年も前!?
有り得ない。今の所…フォッレン、三石が十六と言ってた。
何が違う?いや、三石は殺されたことを知らなかった、ということは、僕の死が告げられるより前に死んだ。
おかしい、何処にも共通点がない。三石は十六年前、千歳は十八年前。二年の差は?
そして、僕が来てからは三年ほどしか経っていない。
つまり、この世界とあっちの世界の時間軸は違う。こっちが一年経つ間にあっちはどのくらい進むんだ?
三石と千歳の間には二年間の隙間がそして、三石は僕が死ぬより早く又は同日中に死亡した可能性が高い。
つまり、死亡日時は二月二十三日ということ千歳は二十五日、二日間の間に二年が経ったということはこちらの一年は一日?
いや、そうだとしても僕が三年前に転生して他の転生者は十年以上前に転生している。
全く持って理解が出来ない。
「先輩、えと、どうかしました?」
「いや、ちょっと考え事」
「ならいいんですけど」
〔結界に囚われました。抵抗を開始します。……失敗しました。代行措置として結界破壊を開始します。成功しました。破壊部位が復元されました。脱出は不可能です。〕
そんなことを話していた時に頭の中に声が響く。
結界?何言ってんだこいつ?
〔能力制限がかかりました。魔力使用系の能力が封じられました。〕
それヤバくね?
いや、確実にやばいだろ。魔王城に結界張るとか聞いたこともないんだが。
〔抗魔能力を確認。吸血鬼化を解除します。吸血鬼化解除の影響で能力値が大幅に下がりました。〕
抗魔結界なんか魔王城に張れるものなのか?
〔解:抗魔結界ではないため可能と予想します。〕
抗魔結界でもないのに抗魔能力を持ってるとか確実にやばそうだな。
「先輩、なんか体が怠いんですけど」
こいつは普通の魔族よりも魔の部分が濃い。
というか、吸血鬼の血と魔族の血が混ざってるせいで抗魔はもの凄い弱点属性になっているはず。
なら、こいつだけでも転移でいれば…
〔空間操作系魔法及びスキル発動を阻害されています。使用は不可能です。〕
徹底してるな。
なら、せめてメーベに《思念伝達》を。
阻害!?
〔思念伝達系魔法が阻害されています。使用は不可能です。現在発動可能な魔法はありません。また、スキルの使用も制限を受けています。〕
最早、万策尽きたな。
さて、どうにか千歳は抗結界術でカバーしてるがどうする?
移動出来るなら良いがこの状態で移動するのは危険か?
〔スキル 解説が進化条件を満たしました、スキル 賢者に進化しました。〕
賢者?
まあ良い、賢者、ここからの脱出方法を考えろ!
僕は賢者に命を下す。
〔命令を受諾。並列処理で演算を開始します。…結界への抵抗、成功しました。行動制限は解除されました。〕
ナイス、賢者!
じゃあ、千歳もどうにかしてくれ。
〔白鳥千歳の結界効果を解除または破壊します。…白鳥千歳の結界効果の解除に成功しました。続いて、結界自体の破壊を試みます。……失敗しました。〕
まあ、千歳が助かっただけ良いか。
さて、ミトリスのとこまで行くか。
取りあえず、吸血鬼化。
これで良し。
僕らは魔王城を進む。
先ほどまでとは違う。
静寂が魔王城を包んでいる。
自分たちの足音しかしない。
外の音も聞こえない。
正に自分たちしかいないかのようだ。
ミトリスのいる部屋につく。
「ミトリス、大丈夫?」
僕はドアを開けてミトリスに聞く。
「これで大丈夫なのは貴方程度なものだ」
ミトリスの結界効果を解除しろ。
〔すでに解除完了しました。〕
早!
「おっ?何だか体が軽くなったんだぞ」
流石です。賢者さん。
「なら良かった。他の魔王も助けに行くつもりなんだけどどうする?」
「私は他の階を見てくるのだ。何かあれば思考回廊で知らせる」
思考回廊?
〔思考回廊の取得を試行します。成功しました。
思考回廊の能力は大勢との思考の共有ができるスキルです。〕
はえー。
これで便利になったな。
ということで、瑠璃につなぎましてと。
「これは、我が主様。どうかされましたか?」
「瑠璃、そっちの状況は?」
「現在、謎の結界により身動きが取れませぬ」
賢者、解除は可能か?
〔演算中…。成功確率5%〕
低すぎるので却下。
「分かった。何かあればすぐ連絡を。あと、魔王ミトリスも混ざるからよろしく」
「分かりました」
「どうかしたのか?」
「いや、思考回廊に瑠璃を混ぜたけどいい?」
「別にいいのだ」
ということで、僕らは又もや二人で静かな廊下を歩くのです。
というか、こんな状況この前もあったな。
此処が会議室。
ここにいるはずだけど。開かないな。
破壊するか?
〔この扉の向こうには別種結界が展開しています。発動者は四天王メリオトです。〕
なるほど、じゃあ大丈夫そうだな。
さて、どうするか。
この結界の発動者を討伐するのも手だし、相手が出てくるのを待っとくのも手か。
取りあえず、瑠璃に会えるかを試すか。
にしても、広すぎだろ、魔王城。
ようやく一階に着いた。
ドアを開けて外に出る。
この結界バカでかいけどどーしよ。
取りあえず、瑠璃のとこまで行く。
「瑠璃、ちょっと待ってね」
賢者よ、瑠璃の結界効果を解除しろ。
〔個体名 瑠璃の結界効果を解除しました。
上空に魔力反応があります。注意してください。〕
上になんかあるのか?
そう思って上を見る。
上には特に何もない。
別段先程から変わった感じもしない。
まあ、注意はするけど。
「我が主、大丈夫ですか?」
「ああ、それより瑠璃は大丈夫だった?」
「どうやら、龍を封じ込める封龍効果のある結界だったようです」
相手によって能力が変わる?
だとすると厄介すぎる相手だな。
まあ、解除出来るから良いけど。
「先輩、この状況どうすれば良いでしょうか?」
千歳がそう言う。
周りを見ると黒いローブを羽織った人物達が僕らのことを囲んでいた。
殺るしかないよな。
普段より少し短くなりました。




