16 平和
「智君、君はもう少し大人しい人だと思ってたんだけど」
僕と対面して剣を構えるその精悍な顔付きの少年は漣江峙聖。
僕の元クラスメートであり職業、勇者の持ち主だ。
「まっ、残念ながらこの世界に来てから三年ほどだが染め上げられてしまった」
僕は苦笑しながら言う。
「三年?」
僕の言葉に聖は疑問を抱いたのか僕に聞く。
まあ、三年はサバを読んだ気がするがまあ良い。
「まっ、色々あってね」
僕は敢えて隙を見せている。
しかし、聖は突っ込んでこない。流石だ。
頭脳明晰、成績優秀、しかも顔まで良いときた。
まあ、彼が劣るのは戦闘技術のみだろう。
少しばかり話し込んでしまった。
「さて、智君。覚悟は良い?」
彼はそう言うと魔力を纏わせた。
まあ、僕の魔力を浴びせればこいつらくらい一瞬だろうが面白くないので使わない。あと、死ぬかもしれないから。
「良いよ」
僕は短くそう言うと残像を残して聖の後ろに移動して剣を振るう。
聖はそれを軽く受け流す。
鍛練をかなり積んだはずだ。
僕のスピードについてこられるのは結社の一等と準一等と二等くらいと父及びリヴィスさんだけだ。
聖はそれをした。
あの中で唯一の勇者の職業なだけはある。
「君の剣も意外と遅い?」
聖はそう言いながら剣を振るう。
僕は剣を受け止める。
「凍てつく氷の弾よ、彼の者を刺し殺せ!氷弾」
後ろから霙が放った氷の弾が襲い掛かる。
数発、まともに食らったが超回復で治す。
「菜津君に当てました」
霙が嬉しそうに言う。
まあ、僕もただではやられる気はないので、火球を加減しながら打つ。
「《不可侵結界》」
司が霙を結界で守る。
他の連中も無属性の魔法で僕にかかってくる。
流石に避けきれない。
僕は彼らをナメ過ぎていたのかもしれない。
そんな時、解説の声が聞こえた。
〔取得条件を満たしました。スキル 痛覚軽減Lv.Ⅰを取得しました。〕
〔続いて、進化条件を満たしました。スキル 痛覚軽減Lv.Ⅴに進化しました。取得条件を満たしました。スキル 痛覚無効を取得しました〕
あっ、言われてみればさっきから痛みがないわ。
まあ、何か頭の中で傷の位置が分かるから対して痛みを感じなくても困らんわ。
〔取得条件を満たしました。スキル 自動回復Lv.Ⅰを取得しました。種族スキル 超回復に合併されました。〕
種族スキルに合併?
〔種族スキルは種族ごとに持っているスキルのことです。菜津智は種族 半吸血鬼のため吸血鬼族の種族スキルが使用可能です。〕
なるほど、今は考えてる場合じゃないけどなっ。
さっきから聖の攻撃にキレが出てきた。
気を緩めるとこっちが負けそうだ。
僕は、浮遊でクラスメート全員に身体能力低下の魔法をかけた。
まあ、めんどくさいから魔力出しても良いけど。
結局、何か後味悪そうだから止めとくか。
「燃やし尽くせ炎巨人!」
リンがそう唱えると僕の前に炎の人型生命体が出現する。
それを僕は風切で切り裂く。
その瞬間、僕は動きを止められる。
この感じは影魔法の中級魔法闇の捕縛か。
なかなかどうして厄介だな。
捕まっている僕に向かって剣閃が煌めく。藤堂だ。
その切っ先は僕の喉元の前で止まりこう言う。
「降参するなら――」
その瞬間、藤堂は口から血を吐き倒れた。
僕は闇の捕縛を解除し発動させた当人のもとへ行く。
「やあ、菜津智君」
陰気な少年は僕に言う。
「ああ、久しぶりだな。三菱」
僕は言う。
「流石だね。まさか、破られるとは思ってなかったな」
悠長に話す三菱は僕の呪詛で寝た。
まっ、闇魔法師らしい場所と言えば場所だ。
この闘技場の完全に影になっている選手入場口の側とは。
僕は再度、先生及び半数のクラスメートを呪詛で寝かせていく。
というか、全員に聞こえるようにしたつもりだがマインドがある程度、高いのには効いていない。
まあ、剣劇にも避けつつ拘束魔法をかけていく。
大崎摩耶、この前先生を庇った奴だが。
そいつは拘束魔法を解除し僕の前に立ちふさがる。
「菜津君、私は君を殺す」
その瞬間、彼女の体から殺気が放たれるのが分かった。
「君に、かい?」
僕は煽るように言う。
「ええ、みんなの仇よ」
彼女は動かない。
「ならば、僕も殺す気で行く。良いね?」
僕は彼女の後ろに回り込みCQCで気絶させる。
CQCはまあ、真似だが。
その時、試合終了のゴングが鳴った。
僕は部屋に戻った。
そして、風呂に入り食事を食べた。
そして、公務に戻ろうとした時。
ノックが聞こえた。
「誰だ?用件を言え」
僕は即座にそう言う。
「あっあの、私です。富士栗葵唯です。」
と、ドアを少し開けて顔を覗かせていた。
「先生か、取りあえず入れ。そこにいるとめんどくさいことが起こる」
僕は葵唯を手招きする。
「失礼しますね」
葵唯はドアを開けて部屋をキョロキョロ見回していた。
「で、何用だ?」
僕は応接用の椅子に腰掛けながら言う。
「えっと、ダンジョンに行く時は着いてきてくれないかな~、なんて思ってるんですけどダメですか?」
先生は僕の前の椅子に腰掛けながら言う。
「僕も公務やら何やらで忙しいし。たまには家に帰らないと何ですけど……」
僕は執務用の机の上を見ながら言う。
「あれの確認をするんですか?」
先生が顔をひきつらせながら言う。
「ええ、おまけに先生達が来たから生徒たち用と先生の部屋やら諸々の諸経費がかさんでるんですよ」
僕はお茶をのみながら言う。
「何かすみませんね」
先生が椅子に座りながら頭を下げる。
と、そんな時だった。
「シー君、着替え持ってきたよ」
という声がしてドアの方を見る。
そこにはミクが立っていた。
「あー、ミク。あとで良い?」
「良いけど、誰?」
ミクが睨む。
まあ、確かに端から見ると子供だからな。仕方ない。
「この人は勇者の一人だ」
僕は葵唯の方を見ながら言う。
「えーと、菜津君この方は?」
葵唯が首をかしげながら僕に聞く。
「僕の婚約者のミクナレド=ベリウェールです」
僕はミクの横に立って言う。
ミクは右腕に抱き付いている。
その様子を見るなり葵唯が大声で「不純ですー!」と言った。
それから、数分立って……
「分かりました。それで、着いてきてもらうのは?」
葵唯が僕に尋ねる。
出来ればいやと言いたいがそうも行かなそうなので
「まっ、時間があれば着いていきます。というか、あの状態でダンジョン攻略は無理がありますよ」
僕は愛想笑いで返す。
「そう言えば桐ヶ谷君の姿が見えないのですが?」
葵唯が真顔で聞いてくる。
「桐ヶ谷は現在個室で過ごしています。先のダンジョン探索及び戦闘時に一人で突撃したことで勇者育成部から正式に書面が今朝来ました」
僕は桐ヶ谷の一件の報告書を葵唯に見せて言う。
まあ、本来は見せてはいけなかったりもするが身内の話だし大して重要事項もないので見せた。
変な疑いを持たれても困る。
「分かりました。ですが、解放は――」
僕は葵唯が言い切る前に言う。
「あり得ません」
葵唯は落ち込んだようにそうですかと言い自室へ戻っていった。
「シー君、大丈夫?」
ミクが一言僕に聞く。
「今日は帰るから」
僕はミクの頭を撫でて言う。
「良かった。あと、女の人と近付かないで」
と、ミクが微笑んでから頬を膨らませて言う。
「分かったって」
僕は机上の片付けをしながら言う。
「なら良い。許す」
ミクはそう言い部屋を出ていき家に戻る。
今日は色々あったな~。
まあ、平和と言えば平和な一日だ。
えーと、魔法省の防衛部軍事局から武器を新規購入?
何で経費のやつをこっちのほうに混ぜとくかな。
にしても、物騒だことで。
明日にでも防衛部まで行くか。
次は、B+の魔獣が首都へ、ってヤバイ。
この前僕が提唱した魔獣のランク付け。
順位的には
S→A+→A→A-→B+→B→B-→C+→C→C-→D+→D→D-→E+→E
と言う感じだ。
そのB+相当がこちらに向かっていると。
冒険者やら部隊にも同じランク付けをしたが魔獣を討伐する際はその一つ上のランクの冒険者か部隊ではないといけないという馬鹿げた法案をやってしまった。まあ、無駄死には防げるようになったから良いけど。
最低でもA-の部隊が必要か。
これは先生たちにも協力してもらうしかなさそうだな。
なぜ最近まともに投稿しているかと言うとですね土日の隙に書き上げたのを予約してるからです。はい。
それだけのことです。




