12 姉妹
「さて、家族団欒もこの位にして結社に乗り込むわよ」
母が言う。
「そう言えば、精霊女王様は?」
「手紙はあるけど?」
「えーと、私は精霊界へ戻ります。何かあったら呼んでください。さよなら~。だってよ」
父が読み上げる。
「まあ、良いじゃない。行くわよ」
母がそう言うと同時に《転移》を発動する。
「ここが、結社?」
「ええ、この地下が本部なはずよ」
「で、このドアをどうするか」
リヴィスがそう言う。
「大丈夫よ。《解除》」
母はドアを開くと何処からかダガーを出してきた。
そして、ダガーを構えて警戒しながら入る。
警備係は全員【色相符】によって気絶している。
そして、次々にドアを開けては階段を下る。
気絶している警備係を横目に。
そして、遂に出会してしまった。コードネーム五等。結社の幹部。
「こんにちは。御姉様。そして、お連れの方々。私はフィリス=アレース。あなた方が言う五等よ」
目の前に立っているフィリス=アレースと名乗る女性はリヴィスを見ながら言う。
「バカ妹」
リヴィスがこぼす。
「バカとは失敬ですね御姉様」
指をならしながらフィリスは言う。
「なんで、こんなところに入っている」
「ここしか、居場所はないんです。家でも姉様、姉様。私はどうせ要らないんですよここ以外では」
乾いた笑みを漏らしながらフィリスは言う。
「要らないなんて訳あるか!やっぱり、お前は……バカだ。勘違いして家出をして……」
リヴィスが唇を噛み締めながら言う。
「じゃあ、何で…何で…あの時。いえ、もう吹っ切れたんでした。私は結社第五席フィリス=アレース。あなた方を殺すものです」
そう言うとフィリスはこちらへ大剣を持って飛び掛かってくる。
リヴィスはそれを鉄の剣で弾き返す。
「あの時は!お前を救いたくて!」
リヴィスが剣を交えながら言う。
「何が救いたくて、ですか、あの時御姉様は私を殺そうと……したじゃないですか…」フィリスは泣きながら剣を交えつつ言う。
「じゃあ、一つ聞く。あの剣がお前を狙っていたとでも!?」
リヴィスは防戦一方ながらも言う。というより、敢えて攻撃をしていないようだ。
「ええ、そうですよ。あの剣は私を殺そうと振り下ろしたんでしょう!」
フィリスは大剣を振り下ろしながら言う。
「何を勘違いしている!お前ではなく後ろにいた奴らを……討とうとしたのだ。母様と父様を殺した。憎き奴らを!」
フィリスが振り下ろす大剣を全て鉄の剣で受けながら言う。
「そんなこと……そんなこと……あり得ない!だって、御姉様は私を憎んで……」
フィリスの大剣を振り下ろすスピードが徐々に落ちていく。
「誰がお前を憎むと!?私は……お前を……実妹を助けてやりたかっただけなんだよ!」
リヴィスは振り下ろされている大剣を切り裂きながら言う。
「そんな…私はバカだったのでしょうか?いえ、きっと、姉様に嫉妬していたのかもしれません。自分より出来る姉様に…自分より誉められている姉様に…そして、何より親からの期待に応えている姉様に。私はなんの努力もせずに…姉様を嫉妬して勝手に……」
フィリスは折れた大剣を落として膝から崩れ落ちながら言う。
「フィリス、私はお前が悪いなんて思っていない。悪いのは私の方だ。フィリスのことも何も考えずに。いや、もとはフィリスに嫉妬していたのかもな。私への愛情を全て奪ったお前を、だから、親から誉められるために努力した。それでも、奪われた愛情は戻っていなかった。私に向けられているのは期待だけ。しかし、あの時の私は期待に応えれば親の愛情を少しでも戻せると思っていたのだろう」
リヴィスは崩れ落ちるフィリスを抱き締めながら言う。
「ごめんなさい、姉様。姉様、どうかお許しを」
「別に良いさ。昔のことなど気にしてはない」
「ありがとう……ござ…い…ま…す…」
そうして、フィリスは息絶えた。
「フィリス!?フィリス!?しっかりしろ!ヴォーウェン様、どうか、妹を!」
リヴィスは母に懇願する。しかし、母は首を縦には降らない。
「なぜ、ですか…」
リヴィスは事態を理解したのか放心しながら言う。
「姉妹の絆、しかと見届けた。しかし、奴が寝返るのであれば殺すのは必然」
奥から聞こえる低い哀しみのこもった声。
「貴様が、フィリスを?」
リヴィスは泣きながら四等に聞く。
「ああ、私は鬼怒哀楽。狂人と呼ばれている」
今度は楽しそうな声が聞こえる。
「あなたが四等ね?」
「ああ、如何にも私は君らの言う四等だ」
先ほどと同じトーンで四等は続ける。
「で、私たちも殺すのかしら?」
「その通り、我らの神域に無断で踏み込むなぞ、言語道断。死んで償え」
こんどは、怒りがこもった声になる。
「では、容赦なく。《氷弾》」
母は四等に向かって氷の弾を撃つ。
それを、四等を破壊する。
しかし、当たったとしても大したダメージにはなっていない。
「魔法攻撃ごときで殺られるとでも?」
「魔法以外はどうかしらね?」
僕は四等に呪詛《減速》を掛けた。
「ナイス、シー」
母はそこにミクが出した魔工具に付与術を展開して奴に投げつける。
すると、四等の頭は見るも無惨なことになっていた。
「完了ね」
「んじゃ、進むか」
結社本部、第九階層
「しっかし、誰もいないわねここ」
母が言う。
「ええ、先の四等達以外に起きてる人間に会わないですね」
リヴィスが言う。
「そりゃ、【色相符】で眠らされてるのもあるし先の張り紙を見る限り一部の人間しか入れないみたいだしね」
母がリヴィスに対して返す。
「そんなものですかね」
リヴィスが言う。
まあ、言われてみれば人も物も灯りも少ない。
そんなときだった。
「全員、臨戦態勢」
母が声をあげる。
僕らは各自戦闘用意をする。
非戦闘員のミレンドスとミクを中心にした円形に体制を組む。
「姉さん姉さん、遊んでくれる人が準備してるよー」
幼い声が広い廊下にこだまして聞こえる。
「準二等ね」
「準二等?違うよー。私はクロ~」
「私はシロ~」
「挟まれたわね」
母が言う。
「ヴォーウェンはクロとか言うのを」
「分かったわ。任せて」
母と父が話し合う。
「じゃあ、行くよー!」
声と足音の感覚が近く速くなっていく。
父が剣を振るう。ただの魔道剣だ。
シロは軽々と剣を避けて父の剣を真っ二つに斬る。
「おじさん、よわーい」
シロは嘲笑うように言う。
「おう、そうか。おじさんか」
父は何よりおじさんという言葉が嫌だったらしい。
「本気で来る~?」
「ああ、本気で殺ってやろう」
父に火がつく。
そこから、戦闘は激化していき……
「シロだったか?つええな」
「でしょー、赫爪が稽古してくれたから~」
「そうか、じゃあバトンタッチだ。シー、リヴィス」
こっちを向いて父が言う。
「お姉さんと、子供?」
「おう、子供だ。まあ、君よりは強い自信があるけど」
「なら、その自信、全部潰してあげる」
「潰してみろ。リヴィス、ごめんけど、サポートお願い」
「分かりました」
「じゃあ行くよ」
シロはこっちに走ってくる。
こちとら、一回死んでんだよ。
走って僕にスティレットを刺そうとして来る。
こいつのタイプは分かった。
剣が強い相手には敢えて剣を使い、剣を使わない相手には剣以外で殺す。
相手のメンタルもろとも破壊してくるタイプの敵だ。
なら、こいつのメンタルをもろとも潰してやろう。
ということで、妖刀さん出てきて。
この紫色の刀身をした如何にも刀は妖刀 村正。
こいつは斬った傷のぶんだけ切れ味、攻撃力が増加していく化け物刀だ。
僕は的確にシロの急所を外していく。
「当たってないよ~?」
煽るように言う。
「いや、予定どおりだ」
そう、僕はシロに傷をつけることに執着した。それはこいつの特性を活かすためだ。
最後の一刀で隻刀に出来る。
村正、隻刀化。
「っ!何それ。私知らない、反則」
「戦いにルールなんかないっての。シロ」
僕はその一瞬にシロの体を二つに斬っていた。
「シロ!」
母が相手にしているクロが叫ぶ。
そんなときだった。
「クロ、下がりなさい。ここからは私が相手にします。あと、シロと仮面人と狂人、アレースは隻眼の吸血鬼様が蘇生していらっしゃいます」
「分かりました。怪物様」
そう言うとクロは闇に紛れるように姿を消した。
「あなたが二等ね」
「ええ、漆黒の魔女、剣鬼、剣聖、剣星、最強の回復術師、それに剣鬼と漆黒の魔女の子供。なるほど、中々愉快なメンバーだ」
背中から触腕を生えた老人が言う。
「ミゾレ、その子供達は私に頂戴」
上の方から女の人の声が聞こえる。無機質な声だ。
「はっ、分かりました。隻眼の吸血鬼様」
「じゃっ、私らはあっちで遊ぼ。気を付けてねー老人君」
「隻眼の吸血鬼様も気をつけて」
僕らは隻眼の吸血鬼と呼ばれる女性の後ろについて歩いた。
さて、いきなり結社最強の奴と戦う羽目になったシー達。
どうなるのやら。




