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96, シィーさんの本音。それは、大精霊なんて二度と引き受けたくない苦しい役割だったと。そして、きずなの次は通貨の「ノルム」が壊れてしまう、だと?

 俺は……ネゲートの担い手です。本来なら同行すべきだった。まいったね、心配です。なぜならあいつは逃げるべきタイミングで、なぜが逃げ遅れるような行動を取るからです。たしか……ラムダの時代から逃げ切ったあの時とかさ……。これからやばい奴らが確実に襲い掛かってくるのにさ、残された最後の力をフィーさんに託して自分はその場に留まろうとしたからね。まったく……俺が説得を試みていなかったらどうなっていたのやら。


 さて。俺の同行を拒んだネゲートは、強めの口調でシィーさんの話し相手になるようにと、不思議なお願いを俺に残していきました。なぜ……? それでも、この地で女神の命令は絶対ですから。


 ところで、シィーさんとはとりわけ気軽に話せる仲だった。たしかにそうでした。少し前までは……です。まったく別の存在に成り果てたのです。何かに追われているような焦燥感も時おり見受けられます。……。やれやれ、だから話し相手になってやれ、か。


 最近、何やら暖かくなってきました。でも……、急激に暑くなる、だったかな。俺は、ミィーの件で忙しいフィーさんを手伝いながら、成り行き任せの生活に浸っています。もちろん、あの凄惨な件が一刻も早く止まることを強く望んでいます。先日あのラムダが立ち止ったので、ようやく終わると連日マッピングで騒がれています。でも……俺らは裏の事情をネゲートとシィーさんから知らされています。このままだと終わりません。ひたすら姿を隠して暗躍してきた者……精霊を止めるしか、望みはありません。今生に「聖なる一つの地」を構築って……。この地に来て日が浅い俺ですら、それは狂っていると理解できます。


「……。ちょっと良いかしら?」

「はい、別に構いませんよ。」


 さて。シィーさんの話し相手になるお時間です。儚げな表情を浮かべながら俺に話しかけてくださいました。俺にしか話せない内容、か。そのような内容らしいと、事前にネゲートから伺っています。


「女神ネゲートって、すごく頼れるのよ。そうよね?」

「はい。それは間違いないです。あいつは頼れますよ。」

「そうよね! やっと……、やっと、ゆっくりできそうなの。あと少し……。そうよ……ね?」

「えっ? あと少しとは、何を指すのでしょうか? ……。あと少し、とは?」

「私にとって最も大切な『現実』よ。チェーンに宿る仮想短冊の価値を『この地の主要な大精霊』の『きずな』に戻す過程のことね。あの聡明な女神ネゲートなら、間もなくよね?」

「それのことか……。」

「そうよ。早くしてもらいたいわ……。早く……その価値を……。早く……。」


 シィーさん……? 何か様子が変です。


「えっ? それは……。」

「……。ああ……情けない。なに取り乱しているのかしら……。私は強くて当たり前の大精霊。そう……よね。」


 ……。明らかに様子がおかしい。どうしたのだろう。


「あの?」

「……。ここだけの話。よろしいかしら?」

「はい。」


 急に改まって……。俺にしか話せない、だよね。


「私は『時代を創る大精霊』。今は本調子……。だけど、一つだけ問題があるの。」

「あっ……。それって『きずな』の事ですよね?」


 俺も「きずな」には興味があります。一応……相場を張ってましたからね。


「うん。」

「それで……。」

「……。これが民を支える重圧よ。大精霊って……きついのよ。もうやだ……。二度と引き受けたくない苦しい役割……。嫌になるわ……。私が『大過去』で何をしたっていうの? こんな恐ろしい役割……。何でなの……。私はフィーと平穏に暮らしたいだけなの……。」

「シィーさん……?」

「……。私が弱気になれる相手は、あなただけ。なぜなら『時代を創る大精霊』は強くて当たり前。ここから一歩でも足を踏み出せば、そのような概念に強迫されるの。私が弱いと不満を漏らす政の敵にも狙われ続け、ミィーを巻き込む大失態をしでかし、身も心も弱り切ったところに『きずな』の問題が浮上。もちろん、私も悪いのよ。売りの限界が来たの。私の通貨の価値を『売り売り』で下げ、それを『時代を創る大精霊』の力によって支える仕組みで稼いできたのよ。……。女神ネゲートは『きずな』の『ノルム』が壊れたと言っていた。私はその時……何も言い返せなかった。」


 俺は記憶を取り戻しています。その流れ……今ではしっかり理解できております。ミィーの件も、たしかに弱気になったシィーさんの失態だった。


「ミィーの件か……。」

「あの件……。どうしても都への直撃を避けられない渦が発生してしまい、……。……。」

「シィーさん?」

「その回避を引き受けて大失敗したの。当然よね。その頃も『きずな』で困っていて、つい……。」


 ああ、そういうことか。


「つまり、シィーさんの『きずな』をあの神々に買ってもらう事を条件に、引き受けたんだね。」

「……。……。……。……。」

「シィーさん?」

「うん。やっぱりダメね、私……。」

「……。」

「さらに情けない話をするわ。ラムダにその件をつかれてミィーを奪われたのよ。私の『きずな』をあの神々に買ってもらうには大きな価値……カネを動かす必要がある。それで、わざと大失敗したのだろう……ってね。あの被害なら大きなカネが動くだろうから……そのついでに買ってもらったと。」

「……。ラムダってそういう『陰謀』、好きそうだよな。」

「信じて。お願い。それだけはないの。お願い……。お願い……。……。」

「シィーさん、落ち着いて。」


 シィーさん……。胸のわだかまりを吐き出せずに追い込まれていたようです。それで俺なのね。


「……。」

「陰謀か。そういう噂を流して喜んでいる輩は多いからね。」

「……。信じてくれて、ありがとう……。」

「ただね、陰謀が唯一役に立つ場面もあるのさ。それは、俺が手を出すような銘柄の値を上げるときだ。あれだけは、陰謀でしか上がらない。そういう銘柄があるのさ!」

「……。そんなのを買っていたの?」

「そういうのは上がり始めると短期でがっつり取れるんだ。」

「そうなんだ。短期でね……。」


 ふう。何とか笑顔でまとまりそうでした。しかし……。


「シィーさん……?」


 すぐに、つかの間の笑顔が消え去りました。


「……。このままだと私の通貨の『ノルム』にも……。」

「えっ……? 通貨にもその……ノルムがあるの?」


 ノルム。フィーさんによると多次元の解釈で測ったりするときの小箱に相当するらしい。よくわかりませんが、壊れると非常にまずい事になる、それだけは理解しているつもりです。


「うん……。きずなの『ノルム』の修復なら何とかなるわ。でも……通貨の『ノルム』は……。壊れてしまったらもう……。」


 ノルムが壊れる、それはつまり測れなくなるという解釈でいいかな。ああ……、通貨の価値が測れなくなるという事なのか……。うわ……、それだけはやばい。


「……。それはやばいよ。短期トレード大好きだった俺ですら、そんな恐ろしい事になって、買い向かう事は絶対にしない。売りに並ぶよ。シィーさん、それだけは絶対に阻止だよ!」

「そうよね! だから、だから! 女神ネゲートには仮想短冊の件を早く片付けてもらいたいのよ。もう……。今まで『パンプ』とかで十分に遊んだでしょう! もともと『非中央』の確立なんて無理なのだから、早くして。そうよね!」

「シィーさん、落ち着いて!」

「揺らいでいるだけの仮想短冊、嫌よね? あんな所に価値を積んでも崩されるだけ。なんで……。あんなものに『時代を創る大精霊』が追い込まれるの? ううん……。これは『大過去』からの試練。そうよね?」

「シィーさん、落ち着いて。ネゲートには、俺からも頼み込んでみるよ。」

「本当に……? ありがとう。……。」


 ……。勢い余って、約束してしまった。一応は担い手となった俺。ただ、女神ネゲートってそう簡単には応じないです。それはよくわかっています。フィーさん相手なら甘いもので釣る手もありましたが、女神ネゲートには無理です。でも、何とかしてあげたい気持ちが強いです。


 それからシィーさんは落ち着きを徐々に取り戻し、俺は解放されました。さて、女神ネゲートの帰りを待ちましょう。まずはそれからです。

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