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91, 本当の敵はその姿を表に出さない。それは、いにしえの時代から伝わる戦の法則。わたしは女神として、ラムダがチェーンに操られている点を怪しんでいるのよ。

 チェーンの「分散型」に対する激しい追求が行われ、ラムダ様は弱気になっています。こちらにも「あの式」が絡んでくるのでしょう。


 私は地の神官の頃「あの式……漏洩厳禁の式」をラムダ様から知らされ、チェーンから価値を回収するように命じられました。もちろん回収とは名ばかりで綺麗なトランザクションではありません。それらは単に「チェーンから価値を一方的に奪え」……ですから。価値を奪われる犠牲者が必ず出ます。


「この女神は……シィー側の女神、間違いないわ。」

「それで?」

「チェーンはただ、『この地の主要な大精霊』から一方的に狩られた価値を回収しているだけ。シィー側が生み出した市場や通貨はいびつで狂っているから、それに対抗した措置が仮想短冊の価値であり通貨。女神なら、これくらいは寛容になりなさい。」

「その仕組みに寛容になれと?」

「……。そうよ。はっきりと答えなさい!」

「もう……声を張り上げてどうするの? ラムダが急に推し始めた『分散型』の意義と『自分で鍵を持てば絶対安心』という論理を今から崩されるのが怖いのかしら? 今のチェーンの状態では、どんなに改善やアップグレードをいくら施したところで、何も考えずに安心して使える実用的なチェーンにはならないのよ。少しでもはめられたら、そこにある全てを一方的に奪われて終わり。これが現実かしら? もともとそういう仕組みだからね。」

「なによ……。それならシィーの市場は実用的なのかしら? 『時代を創る大精霊』として君臨するシィー。この大精霊が生み出した市場は、この地で立場が弱い大精霊が本来持つべきだった価値や、地の力を一方的に搾取するように仕上がっているの。そうよね、女神ネゲート。そろそろこの私の質問にも答えていただく番よ。」

「……。わかったわ。女神として、シィーについて話せば良いのかしら?」

「そうして。」

「それなら……シィーの『売り売り』かしら。『売り売り』は、一方的な搾取の周辺に生じる渦に対して行われるからね。これにより本来なら売りと買いで一周してゼロに戻るはずの価値が……調和が壊れてしまってゼロにならないのよ。そのため、その差分のご負担を各地域にお願い、みたいね。でもそれは……お願いではなく『容認』だったわ。そうね、シィーだから。」

「あら? この私……地の大精霊ラムダの象徴は……。調和に準じるものよ。」

「大精霊の象徴のことかしら? それならわたしは『半月』だけど……。ラムダは……、そうだったわね。」

「その形なら、上弦でも下弦でも現実でも一致する。だからこの女神は現実主義なのね。」

「そうよ。」

「それなら、この私がかわいらしい女神に絡まれているさなか、今ごろシィーは何をしているのかしらね?」

「そんなの……喜んでいるに決まっているわよ。どこかの大精霊が暴れ始めてこの地のバランスを崩そうとしたからね、シィーの頼れる精霊が大喜びの高値で各地に爆売れて大助かり。こんな感じかしらね?」

「なによ……。喜んでいるですって……。」

「これも現実よ。受け止めなさい。結局、どの地域一帯の大精霊も実益重視よ。それゆえにラムダの話にも乗ったのでしょう。だから『分散型』の方がもっともっと恐ろしいわ。比較にならない位にね。」

「……。」

「ラムダが『強い大精霊』をアピールした後くらいかしら。『分散型』のボリュームが大きく膨れて大商いになっていると、カネでも掴まされた妖精が『分散型』に価値を突っ込めと吹聴し始めたわ。そんなはしたカネで動く妖精が出始めているなんて、まるで沈みゆく船から真っ先に逃げ出す、かしら? どうせ後で奪うのだからいくらでも出せるはずなのにケチよね。」

「なによ……。そんなカネの話……知らないわよ……。」

「それなら、そのような仮想短冊の通貨には、虚構を示す記号を積んだ『循環取引……トークン』『循環精霊……フェイク』と呼ばれる者たちが常に暗躍しボリュームをお互いに循環させて引き上げる機構が成り立っているのよね。そして『分散型』がそれらに好都合なのは、その前の形態であった非中央による『板なしの循環取引トークン転がし』で十分に掌握できているので大きな安心だったはず。そのボリュームの膨大さにみな騙され、仮想短冊に価値を突っ込んですべてを奪われる。そうよね、ラムダ?」


 ラムダ様……。そんな「分散型」を私に……だったのですか。


「……。この口だけ達者の狂った女神……。なおさらフィーにそっくり。狂ってるわ……。」

「これで狂っているのかしら? ラムダが敵視するシィーの市場で『循環取引……トークン』『循環精霊……フェイク』などが暗躍したらすぐに退場するわ。シィーだってね、それらは絶対に許してないの。」

「なによ……。」

「さて。ここまで意見をぶつければ十分ね。それとも、『チェーンに宿る仮想短冊の罠を利用する、価値を洗い放題の仕組み』などの論理にもご興味あるかしら? たくさんあり過ぎてきりがない。そうよね?」

「……。」

「このようにして、価値を洗い放題の仮想短冊がチェーンを媒介しながら、大精霊が人を動かすという大惨事を引き起こした要因にもなった。ヒストリーは、こんな感じかしら?」

「……。もういいわ。女神の望みはなにかしら? この私の……消滅かしら?」

「消滅?」


 えっ? ラムダ様が消滅……? 女神ネゲート様……それだけは……。


「この私……地の大精霊ラムダは、チェーンの利用目的を決める聖戦に負けたのなら、消滅くらいは覚悟しているの。それでも地の誇りは捨てられない。さあ、はやく!」

「消滅なんて決して許さないから。もしそれを望むのなら、ラムダが消滅後、わたしは女神として各地域を回り『地の大精霊ラムダは仮想短冊の通貨に心を奪われ自滅しました』と言いふらすから。そこには、地の誇りの欠片すらないわね。」

「……。狂ってる。この女神……、狂ってるわ!」

「落ち着いて。ラムダが『ブル』や『ベア』を追い回して強い大精霊をアピールしていた頃……。経済は右肩上がりで地の民の支持も良好だったはずよ。それを……『仮想短冊の通貨』なんかに心を奪われるなんて……。情けない話ね。それにより地の民の経済は豊かになるどころか崩壊しているわよ? つまり、仮想短冊の通貨は、あなたの深淵をのぞきこんでいるの。」

「なによ……深淵って……。」

「では、その深淵を解読しましょう。深淵についても女神が扱う大切な分野よ。それでは、人が中心だった……いにしえの時代から伝わる戦の法則。ご存じかしら?」

「戦の法則? たしか……、本当の敵はその姿を表に出さない。これね。……、……、これって……。本当の敵……。」

「やっと目が覚めたのかしら? そう……。チェーンの仮想短冊の通貨にラムダは操られていたの。本当の敵は陰に隠れて笑っている頃かしらね。わたしは女神としてそう考えているのよ。さて、仕掛けたのは誰かしら……。それは案外近い位置……『シィーの政の敵』とか、そのあたりかしらね。」

「シィーの……政敵?」

「そう。シィーは『時代を創る大精霊』ゆえに敵も多いのよ。それで……常日頃からシィーに敵対心をあらわにするラムダに仮想短冊の通貨を勧めて、そこに膨大な価値を間接的に投入し、その膨大な価値およびチェーンの利用目的を決める聖戦を打ち出してラムダの心を奪ってから、その敵対心をシィーに向けさせるという戦法よ。その本当の敵は自らの手は一切汚さずに、シィーの政敵としての目的を完璧にこなす。シィーを『時代を創る大精霊』から引きずり下ろすという……とても汚いやり方ね。地の諜報すら驚く完璧な仕事だわ。」

「……。それでは、この私の時代など……。」

「このまま聖戦を続けて勝ったとしてもラムダの時代は来ないわ。どうなると思う? 狡猾なチェーンと仮想短冊の通貨は、ただちにラムダの地域一帯を『分断』するような戦を仕掛けてくるわ。地域内での内戦なら、大精霊の力同士が衝突する恐れはない点まで見越した上でね。それで……ラムダを消滅に追い込むのよ。そして、その本当の敵は、残った地の民を隷属にしてから、そこにある地の力をすべて吸い上げて強奪するのよ。それから、この計略で都合よく作られた功績『この地の敵であったラムダを消滅させた』で……シィーを『時代を創る大精霊』から引きずり下ろすのよ。結局、その本当の敵は手にした地の力の売却により暴利をむさぼった上で、シィーの政敵としても完璧な仕事をこなしたと評されるのかしら。とても嫌な論理ね。」

「……。私の地の力は燃料等で常に狙われている。それはわかっていたつもり。しかし、チェーンに騙されていたのね。でも……。『非代替性』は……。」

「もう。ラムダが信じ込んでいる『非代替性』も偽りの塊なの。どうして『非代替性』によって所有権が完璧に示せると勘違いしてしまったの。その『非代替性』はね、数の叡智からみたら片方の条件しか満たせないの。なぜなら、数の叡智が示せるのは『非代替性』からみてそれが自分自身と結びついていることだけ。ところで、その逆はどうかしら? 自分自身からみて『非代替性』が結び付いているかどうか、という論理になるわ。自分の所有権を『非代替性』から完璧に主張するには、こちらも示せないといけない。しかし、数の叡智でこれを示すのは困難よ? もしチェーンの罠に捕らわれていたら、その罠を仕掛けた自分以外の不届き者もその『非代替性』に結び付いてしまうからね。そして、そのような不届き者がいない事を数の叡智で示すことはできないので『非代替性』で完璧な所有権を主張するには無理があるのよ。仮に『非代替性』を正式な所有権として大精霊が認めたら、そのような不届き者による『乗っ取りの所有権』が何年も経ってから出てくる事例が多発してしまい、法の精霊が大混乱に陥るわ。それでも、その乗っ取りを数の叡智で証明できないので乗っ取り被害を受けた方は所有権の全部をその不届き者に奪われ『泣き寝入り』する事が確定するわね。」

「……。今、マッピング経由で、ヒトを動かすのを停止するように命じたわ。」

「ラムダ……。」

「この私はチェーンに騙され、地の民や……。……。」

「この地で立場が弱い大精霊についても、奪い放題洗い放題のチェーンから目を覚ましてもらってから、精神の鍛え直しが必要ね。もちろん、シィーにもたっぷりと手伝ってもらうから大丈夫よ。」

「……。ミィーは返すわ。」

「あら? でも、ミィーの『意志』はどうかしら。」


 ラムダ様が騙されていた。でも……。女神ネゲート様は、そんなラムダ様でも……。


「あ、あの……。」

「ミィー。チェーンに騙されていたとはいえ、汚い任務を押し付けてしまったわ。謝るべきね。」

「……。」

「もう……。そんなことまでミィーにやらせていたの。まったく……。」


 私はフィー様の神官に挑戦したいとラムダ様にお伝えいたしました。


「そうね。好きにしなさい。でも、たまには遊びに来なさい。それだけは約束して。」

「はい、ラムダ様。」

「うまくまとまったようね。では、その本当の敵について探っていきましょう。」

「そうね。」

「まずはチェーンに対する徹底的な調査。女神の立場で調査するから本格的よ。」

「調査? これだけの事を仕掛ける位だから、逃げ足は早そうよ?」

「そうね。でもね……、このような場合はカネの動きを調べ上げるのが手っ取り早いわ。そこで、チェーンがカネで操っていた妖精たちに着目よ。このような妖精たちに『チェーンへの忠誠心』を求めるには無理があるから、仮想短冊にうるさい妖精を順に引っこ抜いてね、胴元の名を吐けば許してあげるで締め上げれば十分ね。それだけで、その場で泣き叫びながら胴元の名を口にするわ。それでも胴元の名を吐かないのなら、その身をラムダに預け、そのような者たちを極寒の地にでも放り込んでおけばよろしい。それも付け加えておけば完璧ね。」

「へえ……。この女神様、しばく方も完璧にこなすのね。見た目によらず……恐れ入ったわ。」

「はぁ……、女神ネゲート様。」

「それで胴元の情報をたくさん集め、そこから位相構造を取り出して、少しずつ本当の敵を追い詰めていく手法が最適解ね。」

「どんな敵に辿り着くのか楽しみだわ。その本当の敵がチェーンを操り、そのチェーンがこの私……地の大精霊ラムダを操っていたなんて。絶対につきとめてやるわ。」

「あ、あの……。私もその……手伝いたいです。」


 私はラムダ様に出会う前からチェーンを信じていました。しかし、そのチェーンが血を流す惨劇を招いてしまいました。だからこそ、女神ネゲート様によるチェーンの調査に加わりたいです。そこで……、女神ネゲート様とラムダ様にお願いしたら、すぐにその場で快諾をいただきました。がんばります。


 そして……。ラムダ様が人を動かした件も無事解決しました。さらに私は、生まれ育った地域一帯に帰ることができます。女神ネゲート様の聖なる風の力で……。兄さまやフィー様との再会。女神ネゲート様の機転がきいて実現しました。まるで夢のようです……。

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