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78, 「ステーク……変更因子」が輝く度に血が流れる。そのうち生きたまま爪を剥がす程度では刺激が物足らなくなるのかしら。それをシィーさんから問われ、俺……どうしたら。

 俺とネゲートに冷たい視線を向けるシィーさん。その凍り付いた眼差しに、「時代を創る大精霊」としての強烈な狂気が含まれているのでしょう。


「シィーさん……。ラムダのその判断は恐ろしいよ。でもさ……。」

「シィーは『時代を創る大精霊』。つまり、身の毛がよだつ狂気を持ち合わせていても……全く不思議ではないの。」


 地の大精霊ラムダは人を動かしてしまい、後戻りが許されなくなった。その結果、シィーさんに見事にはめ込まれる結果になった。そのような強気の姿勢を崩さない自信たっぷりのシィーさんが目の前に存在します……。いや、そうではなく……存在してしまった。この解釈で正解です。


「ネゲート? 身の毛がよだつ私の狂気って何かしら? 『売り売り』のこと? 反省しているわ。私の『きずな』がボロボロ。仮想短冊に価値を取られ、ここまで私がやられるなんて。」

「シィー……。まだそんな悠長なことを……。」

「あら? それにしても本当に驚きよね。精霊ではなく大精霊が事もあろうに『べき』にしかならない仮想短冊の虚構な『価値』に己の矜持と命運を賭けて人を動かそうなんて考えるかしら? 地の大精霊ラムダが人を動かし始めた。その一報には本当に驚きよ。この地って、何でこんなにも『想定外の事態』が多発するのよ。不謹慎だけど笑ってしまうほどの酷さだわ。」

「ねぇ、シィー? これからわたしが問うことは嫌味ではなく親友としてだからね。」

「なにかしら? わざわざ改まって問うことが私にあるのかしら?」

「あるわ。単刀直入に問うわよ。『時代を創る大精霊』のシィーが仮想短冊に『価値』を持たせた本当の目的。それ、はじめから『ラムダをおびき出す』のが目的だったのかしら? 答えなさい。」


 えっ……? 仮想短冊でラムダをその気にさせたのではなく、さらに……おびき出したの? それだとシィーさんが何年も前から策を練ってきた計画性を帯びてしまうから、すなわち……。これについては……考えたくもない。恐ろしいです。あり得ない。


「おい……、ネゲート。おびき出すって……。さすがにただの偶然だろ。」


 ああ……。シィーさんが不満そうにネゲートをみつめています。俺はフォローしたつもりでしたが……。効果は全くないようです。


「ネゲート……。そんな解釈をするんだ。それでも私の親友なの?」

「な、なによ?」

「さあ。解釈だけならご勝手に。でもね、ラムダは『地のチェーン』によほどの自信があるようなの。さらには到来するはずがないラムダの時代なんかに備えて嬉しそうに『変更因子』を地のチェーンに組み込んでいたわ。私だってね、まさかそんな程度のチェーンで『時代を創る大精霊』を倒そうだなんて、そんなぶっとんだ発想をラムダが抱くなんて考えたこともなく想定外なの。そうよね。ネゲート?」

「それで、しらを切ったつもり?」

「ねえ、今日のあなた……、何かおかしいわよ?」

「わたしがおかしいの? それはシィーの方でしょう。」

「私がおかしい? このような事態を引き起こしたのは地の大精霊ラムダの『意志』よ。だから私は『時代を創る大精霊』としてこのおぞましい事態を早期解決すべく正義に動いているわ。その一環としてラムダに手を出された地域一帯へ私の下で輝く優秀な精霊を貸し出すことに決定したの。『時代を創る大精霊』がこのような事態で何も対処しない訳がないでしょう。もう……。」


 シィーさん……。ただ眺めているだけではないようでホッとしました。


「へぇ……。ところが、その手の論理にはケチが付くのよ。なぜなら、シィーが優秀な精霊を本当に貸し出すのかしら? 本当に優秀なの? 捨て駒にすらならないポンコツ精霊かしら?」


 ポンコツ? えっ……。


「ネゲート……。そんなにも私が信じられないのかしら? さらには『この地の主要な大精霊』と連携して『この地の主要な大精霊の通貨』からラムダを締め出すことになったのよ。さて、ラムダが頼れるのは『仮想短冊の通貨』かしら? いつまで耐えられるのかしらね。」

「……。何が楽しいの? シィー? こんなことをして?」

「楽しい? どうしてそんな解釈になるのよ? 私だってラムダが……悔しいわよ。もし仮想短冊で戦いを挑むのなら『経済的に勝負すべき』よ。そのような平和な選択肢だってあったでしょう。そうよね、ネゲート?」

「……。そうね。」

「そもそも、ネゲートはラムダに狙われ狩られそうになったはず。そうよね?」

「そうよ。」

「そうならなぜ、ラムダなの? 答えて。」

「あのね……。それとこれとは話が別なの。落としどころを探りなさいよ。」

「ネゲート、あなたは甘いわ。今回は私の可愛いフィーまで巻き込んでいるからね。そして、なぜフィーが巻き込まれたのか。それも、わかっているつもりよ。だから、今回は派手に飛ばすわ。」

「なによ……。」

「まずは『パンプ』ね。これさえ封じれば『虚ろの式』が作用しなくなるの。そこで、『パンプ』で積まれた『パンプ』に着目して攻撃したのよ。『べき』を『べき』で積んだ砂上の楼閣など、すぐに形が変わって崩れて去っていったわ。」

「……。」

「この程度、ラムダにとっても想定内なはず。最も大きな仮想短冊の価値を守りながら『地のチェーン』のコンセンサスを駆使して、まだ利用価値がある短冊に価値を集中させる手法で守りに入っていたわよ。それくらい頑張らないとね。なぜなら『時代を創る大精霊』を怒らせたのだから、当然よね。」

「……、ねぇ、シィー? 楽しんでいる気配を感じるわよ?」

「そうかしら? 私だって巻き込まれたの。少しくらいはね……?」

「シィー? 人が動いているのだから早く終わらせるのよ?」

「それは……難しいわよ。」

「どうして? あなた……『時代を創る大精霊』でしょう?」

「そうね。でも、難しいの。それには『相場の性質』が絡むからよ。わかるでしょう。止められないの、これ。」

「……。ラムダが禁忌に手を染めるのかしら? その前に……止めなさいよ? 絶対に、止めなさいよ? それが『時代を創る大精霊』としての義務よ。」


 禁忌? なんだよそれ……。まだ何かあるのかよ。うう……なんか鬱になりそうです。


「あのね……。チェーンの仕組みは大精霊が絡まない『非中央』を標榜としているのよ。だから『時代を創る大精霊』であっても介入できないの。でも……それを望んだのは大精霊でも精霊でもなく……『この地』の民、よね? それにも関わらず仮想短冊の通貨が原因で血が流れ始めたら『時代を創る大精霊』が何とかしろと? それはちょっとおかしいわよ。後片付けもしないし、散らかし放題で、血まで流し始めるなんて。文句をつけたいのは私の方だからね。」

「それでも何とかしなさいよ。ラムダが諦めるような策を練りなさいよ!」

「あのね……ネゲートだって大精霊だからわかるはずよ。そんな簡単に諦めるような根性なし大精霊など、この地に存在しないから。そうよね?」

「……。そうね。でも、それでも、何かあるはずよ。」

「それならまず、ラムダの禁忌ね。人を動かしたとなると急激に懐が寂しくなるものよ。その懐を補填するため、禁忌に手を染めると読んでいるわ。ラムダが愛してやまない仮想短冊の裏付けを『ラムダの傘……ラムダの力の行使』の内部に入れるの。この方法なら、避けなくてはならない『大精霊同士の衝突』を防ぎつつ仮想短冊への価値の流入を図ることが可能になるわね。もちろん、こんなのは禁忌かつ『周辺の地域一帯にとっても緊急事態に相当』するわ。『非中央』が標榜だったチェーンがラムダの力の管理下になるのだから。それでも狡猾なラムダは『チェーン管理精霊』になっただけと言い張るでしょう。でも、それとは異なる概念よ。精霊と大精霊は異なる存在だから。」

「それは……避けられそうにないわ。ラムダ……間違いなく実行に移すわ。だって……こんなにもかわいらしい大精霊ネゲート様に襲い掛かってきた位だから。極端な行動に出る可能性が最も高い……それが地の大精霊ラムダ。」

「……。そうね……。私の可愛いフィーにそっくり。そうね、うん。」

「な、なによ?」


 ああ……。深刻な内容だったので、いつものネゲートに救われた気持ちになりました。


「さて。ラムダを攻略するには『チェーン管理精霊』の本当の意味からね。なぜチェーンの管理は精霊なのか。それは『チェーン管理大精霊』を定義すると傘の問題で矛盾が出るからなの。もちろん、ラムダにそんな論理は通用しない。ラムダが『チェーン管理精霊』を名乗り詭弁を繰り返す。そうなるのは明白。『大過去』には大精霊に都合が良い事象ほど、真実になる性質があるからね。」


 えっと……。先ほどからシィーさんがくり返し着目している傘って? なんだろう……なつかしい響きです。これって大精霊の力……抑止力による地域一帯の保護という解釈でいいのかな。


「次に、ラムダの懐は『ステーク……変更因子』の扱い方で掌握できそうね。どうかしら?」

「……。懐が寒くなってきたら『変更因子』から価値を取り出すのかしら? でも、価値を取り出してしまうとラムダの次の狙い……『一つの中央』を実現できなくなるわよ。チェーン上での存在の証を失うからね。また一からため直し。それだと一部のパラメタが足りなくなるわね。」

「そうね。だから価値だけを取り出せるように……ね? 神官に頼めば実現可能でしょう。」

「……。そのタイミングをみているのね。シィー?」

「そうよ。私は『時代を創る大精霊』、今は本調子よ。」


 なんだろう。価値だけを取り出せるように再構築する、なのかな。俺にはよくわかりません。そこでふと、フィーさんをみます。フィーさんは精霊です。大精霊ではありません。ただ……気にはなったのでフィーさんに冗談半分で大精霊なのかを問いかけてみました。するとすぐさま首を横に振って違うと合図してきました。


「では……『パンプ』の様子をみながら抗戦しましょう。」

「頼れる精霊を貸し出すのよ? そこは絶対よ?」

「もう……、大丈夫よ。あとね、次が迫っているのよ。ラムダの次は……ゼータかしらね?」

「ちょっと……。」

「今日のところは休んで……明日からまた、この地を飛び回る日々が始まるわ。『時代を創る大精霊』は忙しいの。私の傘は頼れるのよ。」

「……。」


 ゼータって……。地の大精霊だった。そちらも動き始めるの……。


「そして、そう……。フィーにこの地へ呼び出された、あなたよ。」

「えっ?」


 急に話を振られ、びっくりです。シィーさん……俺に何の用なんだ。この状況では、俺なんか何の役にも立たないのに。でも、本調子のシィーさんと話すのは初めてだ。ちょっぴり緊張します。


「この中で『人』はあなただけ。だから貴重なご意見……よろしいかしら?」

「はい、別に構いませんよ。」

「『ステーク……変更因子』が輝く度に血が流れる。」

「はい?」

「その繰り返しでは、生きたまま爪を剥がす程度では刺激が物足らなくなる。すると『人』は、次の刺激を求めて何をするのかしら?」

「……。」


 シィーさん……。何? 俺がそんな事を知る由もない。


「この地で最も怖い存在……それは『人』だという話を伺ったの。だから、あなたに聞いているのよ。精霊や大精霊では解釈できない難しい問題だから。」

「ちょっと待って、シィーさん。そんなの俺……。」

「よく考えて答えなさい。これは『時代を創る大精霊』としての命令よ。」

「……。」


 俺に向けられた問いです。しかも命令。この地では大精霊の命令すら絶対ですから、時代を創る大精霊の命令となったら……なおさら答えるしかないです。しかし……。

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