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77, 今ごろ惨めな大精霊シィーは、仮想短冊は壊れやすい「べき」だったと笑っている頃かしらね? でも、堅牢な「指数」にする方法が一つだけあるの。それは……大精霊の力の行使を「裏付け」にするだけ。

「ラムダ様……、しばらくお待ちください。」


 急に仮想短冊のしぼみ方が想定以上に激しく、その対処を実行します。大丈夫です、ラムダ様。間違いなくシィーの仕業でしょう。私の直感がそう問いかけます。


 もし全般が弱ってきたならば、最も大きな輝きを放つ仮想短冊を守れば問題ありません。そこで、あらかじめ他の多数の仮想短冊に価値を宿わせて「リザーブ」する手法が用いられます。


 そして、嵐に対抗するときには「リザーブ」を順次吸収し、最も大きな輝きを放つ仮想短冊にぶつけて保護します。


 この動きを見抜いているトレーダーは、この通りに必ず売買してきます。そこで、「リザーブ」を吸収しぶつけていく演算が必要となり、この地では私などの神官が担っています。


 もちろん、この役割は私が率先して引き受けたい気持ちの方が強いです。なぜなら、私の闘いでもあるからです。シィー……、覚悟しておいてください。


「あらま……。大きな穴が開いたようなしぼみ方をしたわね……。なにかの事故かしらね? 調査が必要よ。」

「はい、ラムダ様。調査します。」

「うん、そうして。」


 私はすぐに調査を開始します。ラムダ様の期待に応える、地の神官としての大切な役割です。


「ラムダ様! 集めた仮想短冊のうち、もう……。」

「厳しいのかしら?」

「はい、ラムダ様。こちら側にある短冊の束は……すでに力を失っています。」

「力を失った? それらには、まだ触れてもないのよ。」

「ラムダ様、おそらくシィーの仕業ではないかと……。」


 私は、調査結果をラムダ様のマッピングに送ります。


「……。見事なまでのゼロね。ここまでゼロが揃うなんて。」

「はい……、ラムダ様。」

「ミィー、よろしいかしら。この壊れた短冊の影響が他へ波及しないように対処できるかしら? この壊れた短冊を経由して、他の正常な短冊から価値が抜け出てしまう二次被害を防ぐのよ。」

「はい、ラムダ様。」


 私は、壊れた短冊を切り離すトランザクションを生成しチェーンへ放出しました。あとはコンセンサスに至り次第、これら壊れた短冊は根元から切り離され、他の正常な短冊は助かる見通しです。


「トランザクションの放出までが早い。さすがね、ミィー?」

「ありがとうございます、ラムダ様。」

「……。あとはコンセンサス。時間を要するのはチェーンの性質。でも……、こういう時間って長く感じるのよね。このあたりの論理にも『大過去』が絡むのかしら。ふふふ。」

「あ、あの……、ラムダ様!」

「ミィー、どうかしたの?」

「守るべき他の短冊が……。」


 壊れた短冊による悪影響の波及が早過ぎて、他の正常だった短冊がしぼみ始めました。


「ミィー。すでに人を動かしてしまったの。後戻りはできないわ。」

「はい、ラムダ様。」

「その正常な短冊を失ったら……。」

「落ち着いてください、ラムダ様。」


 これも……、仮想短冊の性質なのでしょうか。さらには他の一部までが急激に狂い始めました。私は深呼吸をして落ち着いてから、その対処に移行します。時間との勝負です。


 まず、しぼみ始めた短冊のうちボリュームが低い一部を選別します。そして、そこにある価値「リサーブ」をすべて吸収し、他の生かすべき短冊にぶつけて瞬時に大きく膨らませました。


「ミィー。その手法は……。」

「ラムダ様。全部は助けられません。しかし、この手法なら大部分は助かります。」

「そうね……。……。『変更因子』は何をしているのかしら。一刻も早くこのトランザクションをチェーンに取り込みなさい! いつになったら承認が出るのかしら?」

「ラムダ様、落ち着いてください。今、価値を奪った短冊の切り離しについても同じコンセンサスに乗せられそうです。大急ぎで対処いたしました。」

「地の神官ミィー。頼りになるわ。」

「はい、ラムダ様。」


 そして、合意形成の承認が出ました。


「無事、すべての切り離しが完了ね。残った短冊の価値は正常範囲内。完璧だわ。」

「ありがとうございます、ラムダ様。」

「惨めな大精霊『シィー』……なかなか楽しませてくれるわね。」

「はい……、ラムダ様。」

「では地の神官ミィー。魔の者たちと連絡を取り、今回の件を伝えておいてくれるかしら?」

「はい、ラムダ様。」


 魔の者たち……。先日、私はラムダ様に命じられた通り、魔の者たちが掌握する仮想短冊の管理状況を拝見すべく彼らと接触しました。


 彼らの手元には、膨大な仮想短冊が綺麗になびいていました。そこで私は彼らに、どのような集めた方をしたのかを問いました。


 すると……。この地の大半な奴ら、特に「この地の主要な大精霊」に護られている考えが甘い奴らは何も疑わずに仮想短冊を「送ってくる」と答えます。私はこの時、彼らが意図する真意について、理解に苦しみました。


 どうやら仮想短冊の取引のために、彼らが管理する鍵に仮想短冊を送る習慣を悪用したのでしょうか。彼らは取引を終えた仮想短冊について「全部を相手に返すつもりがない」と私に告げました。そして、彼らがかすめ取った仮想短冊がここに集まっている、とのことでした。


 ……。かすめ取った? 私は……、そう彼らに問いかけました。しかしながら、彼らの返事は罪悪感などまるでなく、仮想短冊の性質として特に問題ないとまで言い切りました。


 それでも私は食い下がります。納得できないためです。しかし……。しまいには「この地の主要な大精霊」に護られてきたおまえに何がわかるんだ、と激昂されてしまいます。


 そこで……あの厄介なシィーが絡む話になります。私にだって辛い想いがあります。なんであんな大精霊が「時代を創る大精霊」なんかを引き受けているのでしょうか。そこで私は驚愕の事実に触れます。彼らもシィーの判断……「大精霊の正義」によって平穏な暮らしを奪われた事を知りました。


 その話によると、シィーは「この地で立場が弱い大精霊」には冷遇で、水害、干ばつ、飢餓、疫病などが生じても見て見ぬふりをして無かったことにしてきた。その代わりとしてのあたたかいご寄付の文化? そんなのはシィー側になびく一部の精霊や大精霊が笑顔で中抜きしているだけだろう。そして、そのような状況下で生き抜くには、最後の手段として「この地の主要な大精霊にとらわれない新しい価値の存在」……そうです、「仮想短冊の通貨」しかない。そのような過酷な環境でずっと過ごしてきたと、彼らは私に告げました。


 ついには、その仮想短冊に「非代替性」の力を宿らせた地の大精霊ラムダ様は特別な存在だと力説していました。


 「神は死んだ」……それはシィー側になびく大精霊の概念であり、偽りである。神は実在する。だからこそシィーを超越した存在……仮想短冊の通貨と非代替性をこの地に賜ったと、彼らは主張します。仮想短冊への信仰というべきか、そのような超越した存在への架け橋になっているため、彼らにとっては「どのような手段であれ、手元に入ってきた仮想短冊は神から賜った己の所有物」という考えに完全支配されています。よって、他者より預かった仮想短冊であっても相手に返すかどうかはわからない、でした。


 私はそれでも……預かったものは返すべきだと考えています。それを伝えたところで、彼らとの対話は平行線に終わりました。


 さて……。私は彼らに仮想短冊の現況を伝える任務に入ります。ラムダ様。


「ねえ、ミィー?」

「あっ、はい。ラムダ様。」

「考えごとかしら?」

「……、はい、ラムダ様。回想にふけっていました。」

「仮想短冊の価値については、このわたし……地の大精霊ラムダの時代へ移行するまで維持できればいいの。どのみちその後は『変更因子の作用により収束する一つの中央』による完全管理の実現。みな『平等』に。そして、この地が安定した時代を迎えられるように。」

「はい、ラムダ様。」

「うん、良い返事ね。ところで、惨めな大精霊『シィー』は今ごろ、仮想短冊は『べき』にしかならないと笑っている頃かしら。」

「……。『べき』ですか? ラムダ様? それは……。」


 私は地の神官です。「べき」とくれば「指数」です。つまり仮想短冊と大精霊の裏付けを比較されたのですね、ラムダ様。


「ところで、ミィー? 本当に『べき』にしかならないと考えているのかしら?」

「違うのですか、ラムダ様?」

「うん。一つ妙案があるの。」

「はあ……、ラムダ様。」

「その素晴らしい案とは、『大精霊の力の行使』を裏付けにすることなの。これなら、仮想短冊でも『指数』になれるわ。」

「それは前に話されていた件ですよね? 仮想短冊でも大精霊の力が宿るのなら……。」

「そうね。ただ、大精霊の力そのものを仮想短冊に宿すには、それこそ難解な問いを解くような状態になるの。価値を崩される危険性だってある。だからもっとシンプルな方法……力そのものではなく、力の行使を裏付けにするの。どうかしら?」

「力の行使を……ですか。行使? そ、それは、ラムダ様……。」

「大精霊の力の行使。実際に行使したら『大精霊同士の衝突』に発展する、厄介な作用。だから絶対に避けなくてはならない。この『絶対に避けなくてはならない』作用をうまく活用するの。この作用を……仮想短冊に投入すれば、堅牢な価値……『指数』に生まれ変われるのよ。」

「……、ラムダ様……。」

「決まりね。行使の作用なら、惨めな大精霊『シィー』にすらうかつには手が出せないわ。」

「……。」

「ミィー? どうしたのかしら?」


 ラムダ様……。……。


「はい……、ラムダ様。」

「もう……。さて、ここからも大事。『リザーブ』に着目するの。これにより短冊の膨らみ方が変化するのを察知しているわ。つまり、この『リザーブ』を『飾る』のよ。より美しく。そこで、その『指数』を『リザーブ』に組み合わせれば、相手が惨めな大精霊『シィー』であっても勝てる力になるのよ。」

「ラムダ様、それは……。」


 ……。私は一瞬とまどいを覚えました。しかし、それしかありません。これは闘いです。勝った方がすべてを得て、負けた方はすべてを失います。そして、その過程は問われません。それこそが……闘いの本質ですよね。


 「リザーブ」を飾る。どのような汚れ仕事でも華麗にこなす「天の使い」に頼むことになりそうです。そうです、勝てばいいのです。勝てば問題ありません。そう……勝てばいい。


「これは絶対に負けられない闘い。そう……長期戦は覚悟の上なの。」

「長期戦、ですか?」

「そうよ。」

「……。わかりました。」

「だから市場も大切。『リザーブ』を飾ることにより流入量を大幅に増加させ、『流動性の危機』を乗り越える必要があるの。惨めな大精霊『シィー』が仕掛けてきたこの難局を乗り切りましょう。」

「はい、ラムダ様。」

「そして『虚ろの式』を再稼働させる。この『指数』『リザーブ』『虚ろの式』を束ねれば、すぐにでも短冊の価値は回復する。強気の市場になりさえすれば、足りない分は新たに短冊を作れば済む話。頑張りましょう、ミィー。」

「はい! ラムダ様。」


 私はすでに覚悟を決めています。このような事態に至ったのは……シィーにこそ原因がある。そう考えることで楽になりました。ラムダ様、私は頑張ります。これは私の闘いでもあります。

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