76, フィー、目を覚ましなさい。結局、裏付け無くみなで集まっても「べき」にしかならない。だから崩壊する。その一方、大精霊の裏付けは「指数」になるの。数が好きなあなたなら、すでに理解しているはず。
「フィー、目を覚ましなさい。数が好きなあなたなら現況をすでに理解しているはず。」
「……。」
フィーさんが重大な決断を迫られています。しかし、何も答えられません。
「何か答えたらどうなの?」
「それは……、それは、です。」
「また言い訳? フィーは優しい精霊だから一方的に押し付けられた。そうよね?」
「姉様……。」
「この地の万物は『大過去』から映し出されている現実。その現実で『確かな価値』を保つには……『大過去』に触れられる『大精霊の裏付け』が必須。そして、その強靭な裏付けは『指数』になるのよね? ところで、価値の裏付けなくただ揺らぐ仮想短冊にみなで集まったところで……その価値は『べき』にしかならない。そうよね、フィー?」
「……。」
「この地の多くの精霊や人が寄ってたかって仮想短冊に集まれば、いつかは『大精霊の裏付け』にすら勝る。本気でそう考えているのなら、あなたが好きな『数の叡智』を裏切る行為になるわね。つまり、本日をもってフィーは時空の精霊から退場よ。これは……時代を創る大精霊シィーとしての『意志』よ。」
「そ、それは……。」
「価値が膨大になると……仮想短冊の『べき』は大精霊の裏付けの『指数』には勝てない。この二つの数の成り立ちをよくみなさい。変動が激しい『大過去』で残れる可能性を秘める力を持つのはどちらの数かしら? フィー、『数の叡智』は、そう示しているのよ。そうよね? もしご不満なら、いまここで証明する? それでも私は別に構わないわよ?」
「……。はい……、姉様……。その『数の叡智』は正しいです……。でも……。」
「でも、何かしら?」
「それは……増減します。だから……、その……。」
「フィー。その増減に影響を与えるだけの精霊や人がこの地に存在するのかしら?」
「それは……、姉様……。」
「『大過去』は厳しい空間なのよ。例え、膨大な価値を『べき』に持たせたところで、僅かでも積むのが遅れれば……どうなるのかしら? たちまち崩壊し、そうね……わずか一晩で『短冊に宿っていたすべての価値を失う』ことだって十分に考えられるの。そして、それが実際に起きているわよね?」
「……。はい……。」
……。フィーさん……。俺にはわかるぞ、その絶望感。すべての価値を失うって、ああ……。ああ……! 朝起きたら評価額が激減している、だよね? ……、朝から吐くやつだよ。胃に何もないのに吐ける、あれだよ。いくらでも吐ける、なぜだろうか。
というかさ、フィーさん……。何をやっているんだよ、です。
「フィー、頭を冷やしなさい。フィーは優しい精霊。この地であなたより優しい精霊はいない。だから……『この地で立場が弱い大精霊』から仮想短冊の存在……チェーン管理精霊を哀願されたのよね? もちろん、この地の自由と楽観を標榜とする私は、どんな事であれ、しっかりと取り組むのなら問題ないと判断したのよ。しかし『大過去』から映し出された現実は大きく違っていたわ。そうよね、フィー?」
「……。はい……、姉様。」
「それなら、『虚ろの式』や『パンプ』。あれらは一体なにかしら? 説明しなさい。」
「そ、それは……、その……。」
「これすら説明できないの? ……、まだまだあるわよ。そうね……手癖が悪い精霊に仮想短冊を預けてしまうと勝手に他へ流用されてしまい、その引き出しに応じられなくなるようね? ところで、チェーンのコンセンサスでは『手癖の悪さまではコントロールできない』から、このような事故を防ぐには手癖の悪い精霊を避けるため『管理精霊が不要』の仕組みを必要とするわ。それには、自律や分散型、それらを成すためのゼロ知識証明などが組み合わさった理想かしら? しかし……。管理精霊を不要としたこの理想では、短冊のボリュームが常に見えないフィールドで歪み放題、それにより方向感覚を失い、やられておしまいね、フィー? 私は『自律の原型』で、おかしなボリュームの問題を必ず解決しておいてと伝えておいたはずよ。それはどうなのかしら? しかし、その様子だと……?」
手癖が悪い精霊って……。そんなのが仮想短冊を管理しているの? 俺の常識を超越しています。
ところで、預けたものが引き出せないって、さすがに冗談だろ? それってさ……。勝負する前に負けたってことになるよ。だめだ。相場で負け癖がある俺ですら、その状況だけは想像すらできません。
「……。」
「まだわからないの? フィー? 疑心暗鬼に満ちた信用できない者同士が集まった地点で、結局、何をしても破壊的な理想しかできないの。なぜなら本気で育てる気がないから。ドメインで仮想短冊が閉じたら、セルフデストラクトさせて、また新しい仮想短冊でお遊びよね? 果たして、これのくり返しで一体何ができるのかしら? 答えなさい、フィー。」
「……。」
うつむくフィーさんを……シィーさんが優しく包み込みます。
「フィーは悪くないの。フィーが論理的に説明できないようなことが平然と行われていた。そう解釈するわ。私の可愛いフィーをこんな事に巻き込んで……絶対に許さない。」
「姉様……。でも、でも……。」
フィーさん……。
「もう……。まだ未練があるの?」
「姉様……。」
「それなら……、なにか不祥事がある度に『市場の精霊や時代を創る大精霊からの締め付けが強くなる』と騒いでいるようだけど、これはなにかしら? 私から言わせれば『大精霊の裏付け』を信用せず、勝手に自分たちでやり取りして、なにかある度に騒ぎ立てる。悪いけど、そちらの不祥事は市場の精霊や大精霊に頼らず自らの手でお片付けしたらどうなの? 本気そう感じている方々はこの地で増えてきているわ。私としても大迷惑。そうよね、フィー?」
「それは……。」
「わかった、私が先に答えるわ。『この地の主要な大精霊』が幅を利かせてやり過ぎた。そして、私の『売り売り』も狂気だった。いずれも反省しているのよ。でもそれなら『この地で立場が弱い大精霊』も大精霊の公認なんかで『虚ろの式』や『パンプ』を沢山やって価値を引き抜いていった点を反省すべきね。その上、魔の者たちが『パンプ』で価値が増大した仮想短冊を一方的に奪っていった件すら、私は知っているの。それら仮想短冊はどこに消えたのかしら? そうね……どこかの地の大精霊の懐にでも入ったのかしら? 私が何も知らないと考えていたら大間違いよ? 私はこの地で『時代を創る大精霊』。今は本調子よ。」
「姉様……。わたしはどうしたら……。」
「大丈夫よ、フィー。なぜなら、先ほど入った情報によるとね、ラムダがついに人を動かし始めたのよ。」
えっ……。
「そ、それは……。どういう解釈で……?」
「そうね。ラムダって、こうも簡単にね……。笑っちゃうわ。ラムダは仮想短冊とかに弱いの。そして、見事に自ら手を伸ばしてきたわ。どうして我慢できないのかしら。ちなみに、この今回の『餌』は高い代償となるわよ、ラムダ。そう……、いよいよ消滅かしら?」
「姉様……、それは……。」
「そろそろ私の『きずな』が厳しくなってきたの。やっと、かしら。人を動かし始めたのなら、もう後戻りはできない。よって、ここで『仮想短冊』と『ラムダ』、ご一緒にその運命とやらを共にしていただこうかしら。」
……。シィー……さん? この違和感にネゲートも気が付いていました。どうやらシィーさんの狂気って……。「売り売り」なんかではない。違う、絶対に違う。そんな生易しい狂気ではない……これだ。地の大精霊ラムダを……はめ込んだ、です。