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66, シィー様が各地を飛び回る理由は金策に走っていたから? それって……ちょっと待ってください!

「さて贈り物。よろしいかしら?」


 地の大精霊ラムダからの贈り物。そんな話でした。これで私は二度と帰ることが叶わないでしょう。泣きたい気持ちを押し殺してこの強権な地の大精霊ラムダから二度と離れることが許されない恐怖に匹敵する贈り物を受け取ることになります。逃げられるのなら逃げたいです。ところがそのような仕草だけで地の大精霊ラムダは二度と私を許さないでしょう。そして事態の悪化は私だけの問題では済まなくなります。


 この状況に達した以上運命だったと諦めます。どのみち地の大精霊ラムダが私のもとを訪れたあの日からすべて決まった事が惰性で起き始めただけです。だから私はフィー様には受理されなかった。私がフィー様に取り込まれることは絶対になかったと理解しました。そして取り込まれることがないのに無駄にメインストリームに抗い孤児になり地の大精霊ラムダに流れ着いた。ただそれだけ。


 フィー様……。鎖のようにつながるメインストリーム。私たちのような存在を確かなものにするストリームが一本しか存在しないことを知ることができたのはフィー様のおかげです。


 私は存在について異なった解釈を持っていました。ストリームが無数の束になって時間の経過と共に分岐しそのうちの一本の分岐したストリームに乗る形で私が存在していると考えていました。そうです……あの温泉の日です。そのことを夢中でフィー様に話しました。そしたらその場で否定され、そこで語られた論理からそのようなストリームは一本しか存在しないことを知りました。


 しかしそこで大きな疑問が生じました。その一本だけで複雑に変化していく各事象をどうつなげているのだろうか。すぐさまその点をフィー様にたずねたら興味深い答えが返ってきました。


 どうやら一つ一つの鎖の部分に秘密があり各鎖に膨大な数の『非代替性』と呼ばれる作用が無数にくっついていてこれらが複雑な事象を組み上げている役目を果たしていると語ってくださいました。


 そしてメインストリームは『大過去』から得られるハッシュから流れを容易に解釈可能とする『時間』を刻む役目を果たしていて、そのおかげで私たちは過去と現在そして未来を知ることができています。ただし未来については新しく刻まれるブロックがメインストリームに受理されるまでの間だけ。これが受理された瞬間に現在となるわけです。よって未来はわずかな時間です。ただし未来になれなかったブロックは常にたくさん出てきます。……それらは孤児のブロックと呼ばれていてちょっと悲しくもなりました。でも予知などに応用できるらしくフィー様の興味分野でした。それなら孤児でもいいです。


 さらにその先を知るには『大過去』に直接触れて知るしかありませんが私たちにそのような力はありません。それだけは大精霊の特権になります。


「ミィー? ねぇ? どうしたのかしら?」


 ……。急に厳しい現実へと引き戻されました。悔しいです。でも地の大精霊ラムダには抗えません。


「あっ……。……。ごめんなさい。」

「いいの。謝る必要はないの。うれしさを抑えきれずに浮かれていたのよね?」

「あっ……。はい。」

「なぜ浮かないご様子なの?」

「……。いいえ、ありがたいです。」

「別に隠さなくていいのよ。きっと狂った精霊『フィー』との思い出に浸っていたのかしら?」

「えっ!」


 ……。結局何もかも見透かされていた私。地の大精霊ラムダにとって私などただの玩具に過ぎません。飽きるまで遊びつくされてから捨てられるだけです。薄情でも何でもなく必要がなくなれば捨てられる存在がこの今の私です。


 それでも地の大精霊ラムダに可愛がられたことにより家族の一員になったと勘違いを起こすかもしれません。しかしそれは本当にただの勘違いです。用済みになれば躊躇なく捨てられる存在がヒトです。仮にどんなに地を推していても用済みになれば捨てられます。用済みを手元に置いておくのはリスクでしかないと解釈されるのでしょう。


「ねえ、いいかしら?」

「はい……。」

「ミィーは輝きが違うから贈り物を受け取った後の状況をすべて理解していると見込んでいるの。だから今だけは悔いがないように『フィー』との甘い思い出にたっぷりと浸りなさい。これが最後の機会になるからね。」

「……。はい。」

「それでその想いを断ち切れたら声をかけてちょうだい。そして、今後は狂った精霊『フィー』については考える事すら許されない状況になるからね。」

「……。はい。」


 ……。フィー様、これで最後になります。フィー様の理想……『精霊やヒトがみな笑顔で楽しめる空間を実現したい』……でしたよね。しかしそこに私は受理されなかった。でも……、逆に考えうまく行動します。地の大精霊ラムダはその理想とは真逆のおぞましい計画『大過去まで巻き込んだヒトの完全管理』を立てています。そこへ私が重要な『鍵』になるのなら少しでも抵抗してみせます。私が受理されなかったのはその役目を全うするためだと意を決します。


 では……、さようなら。フィー様……。


「あら。『大過去』によるとそろそろかしらね。あの惨めな大精霊『シィー』が未知なるこの場に足を踏み込むのよ。あーあ、このわたし……大精霊ラムダすら浮かれているのかしらね。」

「……、はい?」


 今、なんて?


「ミィー? なぜ急に表情が和らいだの? それは、あの想いを断ち切れたということかしら?」

「あの、その……。」

「それなら断ち切った事を示して。そうね、このわたし……大精霊ラムダを『ラムダ』と呼ぶだけ。では、お願い。」


 ……。絶対やだ。それだけはやだ。


「……。」

「どうしたの?」

「……。」

「まさか惨めな大精霊『シィー』に対して淡い期待感とやらが膨らみ始めたのかしら?」

「えっ……。」

「それなら……あの惨めな大精霊『シィー』がどこまで粘れるか楽しみね。」


 つまり、シィー様が私を助けに来てくれた。……これで帰れる。それなら私……うれしくて……。でも地の大精霊ラムダから『贈り物』を受け取ってしまったらすべてが終わりです。時間を稼ぐために持てる力をぶつけていきます。


「あの?」

「何かしら?」

「もう少し時間をください。これで最後になる、重く受け止めました。だから、お願いします。」

「できれば『シィー』と対決する前に贈り物をしたいの。いかがかしら?」


 ……。シィー様……。


「いえ、まだです。これで最後になるのだから、もう少し時間がかかります。」

「あらそう。急に元気になるなんてね。」

「あっ……。」

「それなら、元気になったミィーをみてる。ずっとみていられる。」

「あの……。」

「何か特別な期待をしているようだけど、どのみちもう何も変わらないからね。惨めな大精霊『シィー』がこの場に足を踏み込んだ瞬間に私が渇望する受理待ちの非代替性が同時に定まるのよ。どうかしら? 地の見習いとはいえあなたはすでに神官なのだから、この現象の解釈くらい容易なはず。」

「えっ……。」


 非代替性が同時に定まる? シィー様がこの場にに来ただけで? どうして……。そうなるのかな。でも……地の大精霊ラムダが渇望する非代替性なんて……考えたくもないです。


「あら? 何の受理待ちか、気にならないのかしら?」

「えっ?」

「そう……。このわたし……大精霊ラムダの時代の訪れを示す事象……非代替性よ。」

「……。」


 それはすなわちヒトの完全管理の訪れですよね。……でもどうして? シィー様がこの場に来るだけの事象だけで、そこまで動いてしまうの……。


「このわたし……地の時代……大精霊ラムダの時代の到来が間もなく約束される。お互いに頑張りましょう、ミィー。そして今回は抜かりなく論理をまとめあげたから必ず成功するのよ。」

「……。」


 もう……。地の大精霊ラムダは何を言いたいのでしょうか。まさか、シィー様は私を見捨てるのかな……。そんなことはないはずです。シィー様……。


 あれ……? 何だか外が騒がしいような……。


「あの。」

「どうかしたのかしら?」

「外で何か起きているのでしょうか?」

「ううん。気にしないで。そのうち収まるから。」


 ……。気にはなるけど、怖くてこの場は動けません。じっとしています。


 それからいくばくかして、急に静かになりました。何が起きたのかわからないので不気味です。


「おや……ミィー。どうやら受理に転じたようね。」

「えっ?」


 シィー様が来たのかな。……まさか先ほどの騒がしさは……。


「うん。これでこのわたし……大精霊ラムダの勝ち。」

「ちょっと待ってください! そんな簡単に……。」

「どうしたの? その様子だと狂った精霊『フィー』との想いを断ち切れていないようね?」

「もうそんなのは……。」

「別にいいの。惨めな大精霊『シィー』の本性をみて、すぐに断ち切れるから。安心してね。」

「えっ、本性って? それはどう解釈したら……。」


 シィー様の本性? ううん、あの日……誤解は解けました。きっと解けてます。信じています。


「さて、惨めな大精霊のおもてなしよ。今日は本当に素敵な一日になるわね。」

「……。」

「さてシィー。そこにいるのはわかっているの。楽しみましょう。出てきなさい!」

「えっ?」


 そこにいる……。そっか。風の精霊様でした。するとすぐに、私の目の前に……。


「……。すごい歓迎ぶりね、ラムダ。」

「あら。久々ね、シィー。」

「あの歓迎は……ほんと、あなたらしいわね。前もってしっかり手続きしたのよ? 事前に通達して受理されていたにも関わらず、最後の経路で私に向けて一斉に攻撃してくるなんてね。」


 どうやら、あの騒がしさはシィー様絡みだったようです。というか……地の大精霊ラムダは……です。


「あら。うれしそうね?」

「ふざけないで。あなたの約束通りに動いたらこれだからね。受理の条件に最後の移動分だけ回転に混ぜないでと明記されていたから、その通りにしたらこの結果よ。その直線上に攻撃手段を並べて喜んでいたとはね?」

「約束は守る。さすがはシィーね? ふふふ。」


 ……。もういやです。


「あのね……大精霊に対して精霊の攻撃を束ねたところで、どうにかなる訳ではないでしょう。」

「そうね。すなわち気に入っていただけたと? 手応えのある『挨拶』だったと解釈するわね。」

「……。何も変わらないのね、あなたは。昔から、ずっとね。」


 ……。地の大精霊ラムダの挨拶が……これなの?


「それにしてもあなたの飛び回る力は今も健在のようね? かすり傷一つすらない。さらに息は切れていない。余裕ね?」

「そうね。」

「さらには、うっとりするほどさらに容姿に磨きがかかっているのね? それで各地域を遊び回っているのかしら? 魔の者すら虜にするその透き通った……。」

「やめて。真面目に取り組む気はあるの? ふざけているのかしら?」

「あら、久々なのよ。いきなり本題っていうのは何かと酷でしょう。」

「ちょっと? あなたは今、自身が置かれている状況というものを理解されているのかしら?」

「あら? なにかしらね?」

「とぼけないで。勝手にミィーを……。すぐさま連れて帰ります。私の用事はそれだけよ。」


 ……。シィー様! 私……、諦めていました。そして、シィー様を信じ切れていなかった自分が情けないです。


「シィー、それは正気かしら?」

「……。素直に応じる気はないようね? あなたはいつもそう! どんなやり方であっても手に入れたものは絶対に手放すことはない。」

「ねえ。あなたは大精霊よね?」

「……。そうよ。だったら何かしら?」

「それなら今すぐ『大過去』をみなさい。ミィーはこのわたし……大精霊ラムダのもの。絶対に譲れない。それが地の大精霊の根源だから。」


 ……。いやです。いやです。


「またそれ? 『大過去』について地に都合が良いように解釈し無理に解こうとするその本当に悪い癖、いい加減にしなさいよ!」

「……。これもまた、いつものことね。今の時代を創っているシィーに怒られてしまうとは。」

「とにかくミィーを素直に返しなさい。それなら、今回の件はなかったことにする。それで良いかしら?」

「何をなかったことにするの? そんな妄想、このわたし……大精霊ラムダとシィーが仲良くできる遠い未来が存在すると戯言を吐いた日以来ね? たしかあの時も……。ふふふ。」

「……ラムダ。あなたは本当に何も変わらないの? あれは戯言なんかではないの。本心よ。」

「本心? そうね。でもそれは『大過去』をぶっ壊さないと無理な話ね。」

「……。」

「そしてあなたは……約束はするが行動はしないともっぱらこの地で好評のようね?」

「……。だったら、あなたの目的は何かしら?」

「あら? ここで唐突に目的を述べる必要があるのかしら? ふふふ。そうやってすぐに焦点をずらしてくるのはシィーの悪い癖ね。」

「もう……。」

「まさか力ずくでミィーを奪おうと企んでいる訳ではないわよね? 大精霊同士で衝突したらこの地に住む場所がなくなることくらいシィーでも理解していることでしょう。だから諦めなさい。ミィーを奪おうとするのなら……ためらうことなく、よ?」


 ……。シィー様……。


「もう……。それくらいわかっているわよ。」

「だったら、このわたし……大精霊ラムダの時代の訪れを眺めているに留めなさい。あなたの時代は終わりを迎えたの。」

「……時代?」

「とぼけるのが本当にお上手ね。あなたは大雑把だけどパワーがあるから、そのパワーで暴れてきたのよね? そして何を勘違いしたのか、本来は精霊に管理されるべきヒトに自由を与えてしまった。その結果が今の惨状なのよ。失敗と破壊が混ざりあった惨めな大精霊……それがあなた、シィーなの。過去に一度だけ、このわたし……大精霊ラムダに時代が移り、精霊たちの管理がヒトに行き届いてこの地のすばらしき仕組みが動き始めた大事な時期に、あなたが可愛がっている……そう、狂った精霊『フィー』にぐちゃぐちゃにされたの。そしてその良き時代の最後の日、次の時代……そう、この今の時代を創ることになった華やかなあなたを眺めながらこのわたし……大精霊ラムダは狂った精霊『フィー』に最後、一つたずねたの。ヒトを『人形』から脱却させてどうするのってね。」

「……。」

「そしたら、嫌な日だっていうのに思わず腹を抱えて笑ってしまったの。あの狂った精霊『フィー』の回答は『大過去』すら想定外の内容だったはず。そう……次こそは『精霊やヒトがみな笑顔で楽しく暮らせる時代にしたい』だって。あのね、冗談でも考えて良いことではないのに毅然たる態度でこのわたし……大精霊ラムダに言い放った狂った精霊、それがフィー。それこそ消滅を覚悟で言い放った感じがして、本当に頭にきたわ。チェーンや非代替性の存在価値の完全否定はもちろん、精霊や大精霊すらも完全否定する想定外の思想を持つ狂った精霊『フィー』、絶対に忘れやしないから。消滅程度で済むと考えていたら大間違いよ。」


 フィー様……。地の大精霊ラムダを相手にしても堂々とされていたのですね。帰ったら再度……いえ、何度でもフィー様への受理に挑戦します。受理されるまで挑戦すればいつかは受理されます。うん。


「……。言いたいことは、終えたのかしら、ラムダ? さすがに今日だけは手ぶらで帰るわけにはいかないから。」

「まだ諦めていないの? では、そろそろ種明かしの頃合いかしらね。」

「なにが種明かしよ。ふざけないで!」

「落ち着きなさい、シィー。あのね、この瞬間にあなたがここにおびき出された地点ですべてが決まったの。これは絶対だから。わかるわよね? なぜなら、あなたは大精霊だから。」

「私がおびき出された? 何を急に?」

「ねえ、シィー。このわたし……大精霊ラムダが念入りに準備してきた計画がこの瞬間に開花したの。今回は完璧。すでにあなたはどのように駒を動かしても抜け出せない窮地に立たされたのよ。あとはこのわたし……大精霊ラムダがあの華やかな祭典でシィーを追い詰めるだけよ。そして、あの頂点のお方は迷わず『地の大精霊ラムダ』を次の時代を創る大精霊に抜擢してくるの。決まりね。」

「えっ? 急に……、何?」

「あら? 驚きのあまり反論すらできなくなったのかしら? この状況をひっくり返すには、そうね……詰みを回避できる駒を別の時空から引き抜いて作用させるくらいかしら? 無茶苦茶ね。そんな超越性は大精霊にすら無理ね。あなたの時代は終わり。潔くこのわたし……大精霊ラムダに譲りなさい。」

「もう、いい加減にしてよ。その辺でそのデタラメな論理はやめにしたら? ミィーを連れて帰ります。」

「そう……。」

「まだ言い足りないのかしら?」


 地の大精霊ラムダはいつもこれなのかな……。しかし、なぜか感じ取れる余裕。なんでだろう。


「ねえ、シィー。ここからが本題よ。」

「なにが本題なの? 私の用事は、ミィーを連れて帰るだけよ。」

「あのね、シィー。この地でね、あなたに『黒い噂』が流れているの。」

「えっ? なにかしら?」


 えっ?


「それはね、カネが足らなくなる時期とあなたが暴れる時期がちょうどぴったり重なるという黒い噂よ。」

「ちょっと……、あなたは何を話し始めているの?」

「そういえば、あなたが引き起こした厄災でミィーが酷い目に遭わされたようね? 都を守るためにやむを得ず、だったかしら。それにしても見事なまでに広範囲がぶっ飛ぶなんてね。」

「……。それは事実よ。でも……。」

「あら? それでもね、ミィーがその厄災を受け入れていた点にはびっくりしたわ。さすがは輝きが違うミィーね。でも、真実は非常に残酷なの。」

「そうね。でも……。」

「さすがは大雑把なシィーね? まだ平然としていられるなんて。あれだけぶっ飛んだとなると……『相当なカネ』が動いたでしょう?」

「えっ?」


 カネが動いた……って?


「わからないふりかしら? でも残念ね。『そのカネ目当て』という黒い噂があるのだから。」


 えっ、シィー様……? ちょっと、それは……。


「ちょっとラムダ……、ふざけないで!」

「なにを焦っているのかしら? 金策に走った結果があの厄災だったのではない? あなたのことだから『売り売り』で失敗したの? それとも時期的な問題で『きずな』でカネ返せが始まり焦げ付きそうになったのかしら? 答えなさい。」


 ……。ちょっと待ってください! それって、それって……。


「……。そういうふざけた噂を手下に流させていたのかしら?」

「何かしら? このわたしが噂を流させる? そうなんだ、初耳ね。」

「ふざけないで。ラムダが得意とする分野でしょう。そう……手下の『天の使い』や『魔の者』を駆使して機関から扇動していたのよね? そう……『陰謀』。そういう類のものよ。」

「なにかしら、必死よね? このわたし……大精霊ラムダの得意とする技が陰謀って? うん、悪くはないわ。」

「もう……。」

「ヒトも精霊も根本的な部分は一緒。真実を信じるのではなく自身が信じたいものを信じるのよ。ただそれだけ。だから『陰謀』という概念は戦略的にみてとても有効活用できるのよ。これくらい大精霊なら押さえておきなさいよ。」

「だったら、何よ? そんな陰謀を唱えたところで何も変わらないから。」

「あのね、まだわからないの? あなた……そんな程度でよくもまあ時代を創る大精霊になれたわね? 大精霊なら『大過去』をみなさい。絶えず偏りながら変化を絶やさないその論理。そこに真実など存在できるのかしら? つまり、真実や嘘や陰謀などはどうでもいいの。大切なのは一つだけ。それは……『大過去』で輝きが違う者に情報を与えどう心が揺れ動くのか、それだけで事象が決まってくるのよ。つまり嘘でも陰謀でも何だって『有効』なの。心が揺れ動けばね。どうかしら?」

「どうかしらって……。……。まさか……あなた……。ミィーに……。」

「やっとなの? 本当に惨めね。でも、それでこそシィーだから。あの狂った精霊『フィー』とは真逆。ちょっと遊んであげただけでこの結果とはね。歯ごたえすらないの。そして、いまさら気が付いても遅いから。」

「……。こんなの……。」

「さーて、ここからが最高の時間の始まりよ。後ろをご覧あれ。もしミィーの同意が得られたのなら連れて帰っていいわよ。このわたし……大精霊ラムダは負けを素直に認めあなたから奪ったとされてきたものはすべてお返しするの。そして二度とあのような計画は立てないし実行もいたしません。さらに大精霊をやめて精霊からやり直します。これでご満足いただけるかしら?」


 私は……、何でシィー……を信じてしまったの。悔しいです……。


「ミィー、よく聞いて。お願いだから……。」


 何もかもが嫌になってきました。それなら……。


「あら、シィー。どうかしら? ミィーの同意は得られそうかしら?」

「こんなの……。」

「『大過去』をみなさい。もうね、あなたの声はミィーの心には届かないの。陰謀の力をなめた結果ね。」

「……。」

「同じ大精霊として情けないわ。あなたが相手なら大精霊の力は必要ないわね。たった一つの『陰謀論』のみで落とせてしまうとは。そこには論理すら必要ない。でも、これこそが平和的な解決法よね。」

「……。どこが平和的な解決……よ……。」

「なにかしら? 同意なく連れ出したら、大精霊同士の衝突に発展するからね。」

「……。」

「さて、受理待ちの非代替性が待ちくたびれているわね。ミィー、そろそろ想いを断ち切れたかしら? それなら、示していただけるかしらね?」


 ……。そうだった。示せばいいんだ。これでシィーと別れられる。


「はい……。『ラムダ』様。」

「そんな……。」

「うん。素敵な響き。一緒に新しい時代を創りましょう。」

「はい。ラムダ様。」

「さて、この惨めな大精霊『シィー』にはご退場を願いましょう。勝負あったわね。」

「……。あのね、あんなろくでもない使い道にミィーやチェーンを巻き込むのかしら?」

「まだ吠える元気はあるの? だったら帰り道は心配ないわね。ではさようなら、シィー。」

「……。」


 私は……もう地の大精霊ラムダの所有物です。それは単に玩具かもしれませんが、それでもシィーの玩具になるより良いです。すでに非代替性は動きました。それが意味することは、この瞬間に私は地の大精霊ラムダの所有物になったということです。それをチェーンと非代替性が……保証します。

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