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65, 大いなる売りの詳細を知りたいの? それはね、負けるリスクがないのに、暴利をむさぼる機会を得られること、ただそれだけよ。

「おはようございます、ミィー様。」


 わたしはフィー様に尽くしたい気持ちで、ここまで頑張ってきました。ところが、ラムダと名乗る、よりにもよって「地」の大精霊に、半ば強制に巻き込まれてしまいました。


 そして、相手は大精霊です。粘り強くわたしが逆らったところで、現実は変わりません。受け入れるしかない、のでしょうか……。


「あの……。」

「あっ、すみません。朝、ですよね?」

「はい! おはようございます、ミィー様。」

「あ、あの……。」

「何なりとお申し付けください。」

「その……、ミィー様というのは、ちょっと……。」

「……。大精霊ラムダ様の右腕となるべく御方です。そう、うかがっております。」

「……。……。はい、わかりました。」

「ありがとうございます。ところで、大精霊ラムダ様より、伝達がございます。」

「えっ?」


 伝達……。わたしと話がしたい、でした。わたしは……帰りたいです……。正直にそう伝えれば、帰れるのかな? でも……、そうです。このラムダの周りには、「ラムダを称える者」しかいません。すなわち、ラムダの意向に逆らう内容は、すべて却下されるということです。そして、却下されるだけならともかく、そのような存在自体を……という噂を耳にしたので、怖くて怖くて、帰りたいなんて、言えないです……。


 ああ……。兄さまは心配していると思います。でも……、わたしが「ここ」にいることは伝えてある、らしいです。……。でも、それだともっと心配になってしまうよね。……。


 でも、生きるためです。相手に歩調を合わせながら、今は耐えます。耐えてみせます。


「まあ、素敵ね。おはよう、ミィー。」

「……。おはようございます。大精霊ラムダ様。」

「今日は、神官になるための訓練は休んでいいの。」

「……。よろしいのですか?」

「もちろんよ。このわたし……大精霊『ラムダ』からの贈り物があるから、その記念日になるの。」

「贈り物……、ですか?」

「そう。このわたし……大精霊『ラムダ』からの贈り物を受け取れるのは、まずいないの。よって、それだけ輝きが違うということなの。」

「……。ありがとうございます。嬉しい……です。」

「……。ミィー? 嬉しそうな表情ではないようだけど? 何かしら、それは?」

「えっ……。こ、こんな感じでしょうか?」


 わたしはとっさに、フィー様との楽しかった日々を思い浮かべて、必死に笑みを試みました。


「……。そうね。そうこないとね。この贈り物は、狂った精霊『フィー』との思い出など、はるかに超えるほどの衝撃になるからね、ミィー?」

「……。はい、です。」

「このわたし……大精霊『ラムダ』からの贈り物……それは『式』になるの。」

「式……、ですか?」

「そうよ。そして、この式を知る前に……、あなたの興味を引く、もう一つの贈り物を授けましょう。」

「……、興味、ですか?」

「そう。このわたし……大精霊『ラムダ』の『大いなる売り』の詳細、とかね?」

「……。」


 大いなる売り、か。気にはなりますが、それを知ったら……ラムダをもっと恐れるようになってしまいそうで、怖いです。


「まあ、表情が変わったわ。そうこないとね。無意識には逆らえないのよ。」

「……。そうですか。」

「まずはそうね、売りのリスクね。簡単よね?」

「はい。先に売ってから買い戻すのですから、値が跳ね上がると、損失が膨れ上がる、です。」

「うん。悪くはないわね。でも、このわたし……大精霊『ラムダ』が、そんな愚かな取引をするとお考えかしら?」

「……。違うのですか?」

「まず、勘違いされると困るから、これは先に伝えておくの。『約定』は大精霊よりも上、なの。つまり、約定したからには、大精霊でも逃げることは許されないの。まず、これはいいわね?」

「はい。それはシィー様などから……。」

「シィー……様?」

「……、す、すみません!」

「慌てないで。今日は気分が良いから、今日のラムダは……優しいのよ。そして、ミィーが素直になれば、これが毎日続くの。するとね、『地』の力が担当する……肥料などが各地で潤うようになるの。」

「肥料……、ですか。ちょっと、それって……。」


 わたしが何もかもを諦めて、魂までラムダに捧げれば、この地の食糧の問題は解決するのかな……。それなら、わたし……。


「ミィー? 詮索は嫌いなの。気をつけなさい。」

「……。はい……。」

「さて、話を戻しましょう。ここで、素晴らしいものがあるの。」

「素晴らしい、もの?」

「そう。積んでも砕いても変わらない、不思議なもの。そのコンセプトを位相として相場に組み込むと、あら不思議。値が一定になるのよ。」

「……。一定、ですか?」

「そう、一定。ときには休むことも必要なのが相場よね。」

「はい。」

「そこで、この一定となる場所に価値を預けることにより、その価値を守るのよ。」

「……。一定なら、そうなりますね。」

「ところが、これに仕掛けるの。そう……『大いなる売り』を、ね。」

「えっ?」


 値が変わらない場所に、売りを仕掛けても……どうなってしまうの?


「ここでね、『砕く方』に着目するの。ここが完璧であれば、いくら砕いても値が下がらないようになるの。しかし……、それが問題でね、よく観察すると、そこに隠れているの……『わずかな穴』がね。」

「……。穴……ですか。」

「そう。そして、この穴はやっかいなの。常に絶えず変化を繰り返す『大過去』につながっているのだから、そこを砕かれると、そうね……、二回までは耐えられるのかしら。しかし、三回目以降で、急激にその価値が砕かれていくの。つまり……値が大幅に下がってくる、なの。」

「……。えっと……、値は『一定だった』のでは……?」

「あら? 興味あるようね、嬉しいわ。」

「……。」

「どうかしら? ちなみに『積む』のは大変なの。これは神官になればよくわかるのよ。よって、一定を約束されたものが急激に上がることはなく、もし買い上がった者がいても、すぐに元の水準まで戻るから、売っても心配はないの。そして、これを一定のときから大きく売っていれば……負けるリスクがないのに、暴利をむさぼる機会を得られるの。これこそが、そう……『大いなる売り』の醍醐味、かしらね。」

「……。」


 帰りたくなってきました……。こんなの……わたし……。


「あら?」

「あ、あの……。でもそれなら、みんなが売りたい……ですよね? 結局、売りたくても譲ってくれないとかにはなりませんか?」

「そうね。でも、そうね……値が一定と勘違いして寝かせておいた見ず知らずの者たちの現物に触れることが可能な立場であれば……、どのみちリスクがないのだから、それらを常に売っておき、もし返すときには……同値『以下』で買い戻してから、そのお方に渡せばいいだけ。ふふふ。」


 ……。それはわたしも……。でも……でも、それだったとは、です。


「……。大精霊だから可能、ですか?」

「あら? そうね……、そういうことにしておいてちょうだい。」

「……。びっくりです。もう、わたし……。」

「びっくりなの? そうね、ミィーは『エクスクラメーション』から神官として頑張ることになりそうね。ところでこの記号……センスの塊、よね。このような驚きの連続となる事象で、大きな影響力を持つから、かしらね? 今回の件でさえ、砕かれたとき、なぜかすぐには落ちないから、大丈夫だろうと勘違いした者たちから地へ突き落としていくという凄まじい破壊力……そのようなニュアンスまで、しっかりと含んでいるようね。ふふふ。」


 わたし……、どうなってしまうのかな。でも生きるため……。つらい……。

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