623, 144000 part32 目元に、かすかな滲みが浮かぶ。涙は落ちない。拭う必要もない。わたしは観測者。そう……長期資金前提では、バーンは初めから許されていなかった。
ここは、クリプトの塔。……そうね、わたしは魔女になった。
……クリプト。そう、仮想通貨。どうやらそれは、わたしが考えていたよりも、何もかもが、ずっと厳しい状況だったようね。
Hashrate-Grover。それが厳しい構造であることは、すでに述べてきた通りよ。それでも、ショアのアルゴリズムに対する対策なら、比較的、容易に済むと考えていた。なぜなら……それは、PQCを補助的に追加するだけ。つまり、ソフトフォークで済む。そう理解していたから。
……いいえ。理解していたつもりだった、だけね。つまり、ショア対策なら、危機が迫ってからでも、間に合う。間に合う。間に合う。
……そう、勝手に解釈していただけだった。
ところが……。出回り始めた、クリプト評価に関するレポート。その内容は……静かで、そして衝撃的だった。
まず指摘されていたのは、長期資金を預けられる魅力が低下してきた、という点。
遠回しな書き方。いかにもレポートらしい表現ね。でも、意味は一つ。この状態では、もう預けられない。ただ、それだけのこと。
すでに、この指摘を受けて、ポートフォリオからクリプトを外した者すら現れているわ。
そして……わたしが、量子アリスのハードフォークの見解に、はっとさせられた理由。それは、この指摘から、自然に導かれた。
それは、「クリプトを現物の銘柄として取引できる仕組み」そのものに対する、静かな圧。つまり、ハードフォークを見越した上での指摘。このレポートを書いた者は、クリプトの存続に関わる、採掘におけるHashrate-Grover近接ギャップの問題を確実に見抜いている。その問題の解決には……ハードフォークしかないからよ。
……うん。そして、その次。それこそが……驚きのあまり、言葉を失った箇所。
目元に、かすかな滲みが浮かぶ。涙は落ちない。拭う必要もない。わたしは観測者。そう……長期資金前提では、バーンは初めから許されていなかった。
わたしは、この事実に、恐ろしくなった。今から、ショア対策を間に合わせるには、バーンが必須よ。
つまり、新しい量子耐性アドレスへ移動していない分は、セキュリティリスクの観点から、整理……バーンするしかない。なぜなら、アドレスの移動には秘密鍵が必要。個別に対応していただくしか、方法がないから。
それ以外にも、公開鍵をランダムに生成した結果、誰も秘密鍵を知らないアドレスが存在するわ。
……なぜ。なぜ、そんなものを作ったの。少しは、量子を考えてよ。こうなると、そこだって……ショアによって秘密鍵が求められたなら、動かせるようになってしまう。
つまり、そのような場所を含めて、バーンしか選択肢がないわ。……。でも、バーンは許されていない。いいえ。誰も、責められない。わたしだって……。
ううん、わたしは観測者。
これでは、ショア対策ですら時間的に困難。許されていなくても、バーンするしかない。
ところが……過去に一度でも、ショア対策を理由にバーンした痕跡が見つかるなら……。そうなった瞬間、長期資金は……。
もう。ますます、Reed-Solomonなんてやっている場合じゃないわ。
このレポート、淡々と書いてあるけれど……。この内容では、クリプトの……。
……ううん。わたしは、落ち着く。そして、観測し、そのまま書き留める。




