621, 144000 part30 このクリプトの現状……その方は、いにしえの時代の豪華客船になぞらえ、船体に穴が開く前のハードフォークを求めていました。
わたしは観測者。そう、わたしは……魔女。それでいいの。……。
「ネゲート様。観測者になられてから、そのことを重く受け止める方も現れてきました。」
「あら……。わたしは観測のみ。静かに、時代を書き留めているだけ。でも……案外、その方が自然に動いてくるものね。」
「はい。このクリプトの現状……その方は、いにしえの時代の豪華客船になぞらえ、船体に穴が開く前のハードフォークを求めていました。」
その例え……。すぐに察したわ。深海へと沈んだ……そうよね。
「その豪華客船、当時は最先端で絶対に沈むことはないと謳われていた。そうよね?」
「はい、ネゲート様。絶対安心。強度の高い部分を強調し、弱点は存在しないとされていた。完璧な隔壁。沈まない前提に基づいた設計。そして……沈むことを想定しないがゆえの退避戦略の欠如です。」
「……なるほど。ええ……どこかで、聞き覚えのある言葉がずらりと並んでいるわね……。」
そう。その方の比喩は、偶然ではない。構造が……完全に一致していた。
似ている、という次元ではない。完全に、一致していたわ。何もかもが同じだった。
こうして、同じ構造は時代を超えて姿を変え何度でも現れるのね。
「はい。その方は、数を専門としていました。数を扱う者にとって、まず構造を捉えるのは……日常作業の一つです。そして、これはもう……グローバーのアルゴリズムの問題を完璧に捉えています。まさに、Hashrate-Groverです。」
たしかに。そこへ至るまでの過程。発生する規模。衝撃の大きさ。さらに……そこに至るまでの復号的な要因。
何もかもが、揃っていたわ。
当時もきっと、この設計、この構造なら、どんな状況でも問題は起きないと信じられていたのでしょう。
けれど……どんな構造にも、弱い部分は存在する。
問題は……、その弱点がどれほどの力で突かれるのか。いいえ……本当は違う。
あらゆる歪みが積み重なった果てに、限界は訪れる。よって、その前に……構造そのものを別のものへと変えなければならない。そうでなければ、いずれ……全体を巻き込んで、終わる。
その構造自体を変えること。クリプトにおいて、それがハードフォークよ。PQCに代表されるような局所的な変更では、そこまでは必要としない。でもね……構造そのものが問題になったとき、話は別よ。
ううん……。わたしは観測者。ただ、記録するだけ。そうね……ハードフォークは、選択される世界線を変えるかもしれない。ただし……それでも、言い切れることがある。
ここで、何もしなければ……それは確実に、あの結論へと収束する。




