620, 144000 part29 エネルギーを基準とした経済基盤。それが採掘。その基準は、量子グローバーの台頭によって数学的に成立しなくなった。ステーキングは、この基盤の上に乗っていただけ。
グローバーのアルゴリズムで禁忌に触れた、わたし。それで、わたしは魔女になった。
そういえばフィーは、今のわたしを見て、どう感じるのかしら。少しだけ、気になった。でも……、わたしは観測者。ここで静かに、選ばれそうな世界線を、ただ見つめるだけ。それが、今のわたし……。
使い魔も、それでいいと。今のわたしが、本当のわたしだった。そんな気もしてきたわ。
「ネゲート様。おはようございます。」
「あら、量子アリス。それでは、観測の続きをしましょう。その後はいかがかしら?」
わたしは観測者。事実をそのまま受け止め、記録するだけの立場。
「まず、SegWitとAggWitは……。何も変わっていません。流れるまま、最後まで……。SHA-256刻印の通りです。やはり、あのような刻印には、強い意志……すなわち、高い確率振幅が宿るのでしょう。」
「そうね。もう、手に負えないと……観測済み。でも、その事実は重く受け止める。それが、わたしの立場よ。」
「はい、ネゲート様。」
「それで、クリプトはいかがかしら?」
観測者なんて、案外気楽なものね。さて……、クリプトはどうなっているかしら。
「はい、それは……。PQCの署名の大きさで、少し揉めているようです。」
「……。そのまま、ね。」
「はい。PQCはもともと、このような用途に向けて作られたものではありません。署名の大きさは、どうにもならない。偶然的に、ECDSAの署名が小さかった。それは幸運だった。この程度の解釈で許されるはずです。」
わたしは、そのまま、量子アリスの解釈まで含めて、書き留める。
「はい。それで……、少し変わった話もあります。」
「変わった話? それ、聞かせて。魔女の生活……少し退屈でもあるのよ。ううん……今のは、聞かなかったことにして。」
「はい、ネゲート様。それはですね、ステーキングに経済基盤を移転させることを示唆する動きです。」
……。
「それは……。わたしも、考えたことがあるわ。でも、エネルギーを基準とした経済基盤。それが採掘。その基準は、量子グローバーの台頭で数学的に成立しなくなった。ステーキングは、この基盤の上に乗っていただけ。そこへの経済移転は厳しいわよ。」
「はい、ネゲート様。わたしも同じ結論に辿り着いています。その経済基盤の移転を実現するには、ステーキングと採掘の相関を外し、互いに独立させる必要があります。しかし現実は……、その独立とは非常に遠い位置。すなわち、極めて強い相関が生じています。相関を外すことで、独立させることは理論上は可能です。ただし、それには確実に年単位が必要です。ところが、タイムリミット……次の半減期までは、二年ほどしかありません。ショアの連呼で一年以上の貴重な時間が失われました。つまり、この案は現実的ではありません。」
「……。」
そして……。
もし次の半減期までに間に合わなければ、
待っていましたと言わんばかりに、
Hashrate-Groverの量子リスク基準が
「厳しめに変更」されます。
そこに、ブロック報酬半減が重なる。
この厳しめへの変更によって、
これまで以上に広い採掘の探索空間が要求され、
そのために、報酬が減ったにも関わらず、
より高いハッシュレートの維持が必要になります。
そこに注がれる膨大なエネルギー代は……
採掘の探索空間の拡張に伴い、
2のべき乗スケールで上昇します。
それが報酬減と重なることでさらなる大赤字を招き、
採掘は実質的に「維持不能」へと陥る。
これは経済的にも維持不能であることを、
数学的に示しているモデルであります。
「……。観測してきた通りね。」
「はい。そこで、詰む。そして、クリプトは静かに終わります。この仕組みが面白くないと感じている勢力は、確実に、次の半減期を狙ってきます。今は、笑いながら静かにしているだけです。そして、そんな終わり方では……、その流れでは、間違いなく誰も納得しません。……。それを量子アリスが言うのか。はい……、それは、わかっています……。」
わたしは観測者。量子アリスの所感を書き留める。これは、わたしも同感。そして……、これこそが現実だった。
「そうね。それこそが、Hashrate-Groverにおける最大のリスク。なぜなら量子リスク基準は……恣意的に、変えられる。」
「ネゲート様……。それです。」
……。
女神の頃なら、また……。ううん、今は魔女。わたしは観測者。ただ、事実を書き留めるだけよ。




