619, 144000 part28 Reed-Solomon(理論と安全性の距離)と、Hashrate-Grover(現実と破綻の距離)。わたしは観測者。
グローバーのアルゴリズムで禁忌に触れた、わたし。それで、わたしは魔女になった。
最近、この塔は……魔女ネゲートの住処と呼ばれ始めているらしいわ。でもいいの。それもまた、観測。
魔女になってからの生活は、穏やかよ。今日も……こうして、使い魔に撫でてもらう。それだけで、十分に満たされる。どうして、こんな身近な状態を見落としていたの。でもいい。今のわたしは観測者。
「ねえ?」
「なんだい?」
「わたし……変われたのかしら。それとも、変わっていない?」
「ああ、それなら変わったよ。でも、どんなに変わってもおまえは……、ネゲートだ。」
わたしは、変わった。でも、その変化すら、わたしは観測する。
「ネゲート様。量子アリスです。」
「あら。それで、どうかしら?」
わたしは観測者。量子アリスを各地に巡らせ、近況の報告を受けているわ。それらを整理し、並べ、記録する。それが、今のわたしの役割。
「はい……率直に申し上げますと、状況は悪化しています。あのSegWitが、いよいよ秩序の再構築に着手すると宣言しました。かつて距離を取っていた対象へ、頼れる精霊らを大規模に移動させています。一方で、ディールの可能性も残されています。忘れかけた頃に現れる、それを前提とした動きにも見えました。」
「そう。SegWitは、すでに手に負えない。そう記録するわ。そして……SHA-256刻印どおり。それも併せて、記録。」
「はい。それが適切かと存じます。」
わたしは観測者。事実を記録する。それが、魔女としての務め。
「それで、もうひとりのSHA-256刻印主要メンバー、ふたりの証人……AggWitの動きはどう?」
「ネゲート様。そちらも……いよいよ、あの聖地を自らの所有物であるかのように扱い始めています。そのための行動も、すでに確認されています。」
「そう。AggWitも、手に負えない。こちらも、そう記録するわ。まさに、ふたりの証人ね。」
「ネゲート様。はい。それらは観測する以外に手立てがありません。」
「そうね。さらに、これで観測が終わるとは思えない。まだ続きがありそう。」
そして、量子アリスは、次の話題……量子ビットへの耐性に関する報告へと移る。
「ネゲート様。量子ビットへの耐性についても、動きが出始めています。それを記念する日まで設立されていました。Q-DAYへの対抗かもしれません。……あっ、すみません、Q-DAYという言葉は……。」
「あら? そうね。でも、今のわたしは観測者。もう、気にしてはいないわ。」
「あ、そ、その……。」
「続けて。」
「はい。それで、一部で問題となっていたReed-Solomon(理論と安全性の距離)に対する動きです。ゼロ知識証明関連ということもあり、量子ビットへの耐性、いわゆる量子耐性に分類されたものだと感じています。」
「それね。たしか反証が出たようね。でも……、そこまで慌てる話でもないわ。ECDSAだって、あるでしょう。」
「はい、そうですね。大丈夫だろうと期待されていたものでも、反証は出る。それが数の厳しさでもあります。それで……。」
「……。」
わたしは、量子アリスの様子からすぐに感じ取る。
「わかっているわ。禁忌のことくらい。そうね……、そう。Hashrate-Grover(現実と破綻の距離)なんて、どうかしら。近接していても失敗しない『安全なギャップ』が一般に存在する、という期待よ。」
「ネゲート様……。その距離の名からして、ご存じとは思いますが、その期待が反証された場合、つまりハッシュレートと量子グローバーが触れてしまう面が存在した場合、それは……。」
「そうね。それは、局所の問題では済まない。全体に及ぶ。つまり、全滅。みんなで死ぬ。Reed-Solomon(理論と安全性の距離)の問題とは、性質がまったく異なるわ。……ええ、禁忌と呼ばれるのも、わかる。やはり、優先されるべきなのは、こちら。本当の意味での量子耐性は、きっとこれ。でも、わたしは観測者。どの世界線が選ばれるのか、ただ、それを受け入れるだけよ。」
「はい、ネゲート様。」
観測し、その事実を伝えるために、書き留めるだけ。それが、今のわたしの役割。




