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611, 144000 part20 量子の力を託されたわたしは、憎まれるのでしょうか。そして……「これでも二十年から四十年は大丈夫」という言葉に、騙されてしまった。

 わたしは、量子アリスがじっとこちらを見つめていることを、見逃さなかった。……そうよね。この状況を、いちばん深く悩んでいるのは……、そう……量子アリスだった。


「量子アリス……。」

「女神様……。わたしは、理解しています。」


 その一言に、すべてが詰まっていた。論理の化身から発せられた言葉は、説明ではなく共感だった。


「……。」

「それでも、わたしは、ふと思うことがあります。量子の力を託されたわたしは、憎まれるのでしょうか。でも……いつかは必ず、この状況でした。そして……これでも二十年から四十年は大丈夫……、その言葉に騙されてしまったのです。」


 ……。


「わたしも、ゆるかった頃は……量子なんて、と。本気で、そう考えていたわ。その反動で生まれたのが、この『クリプトの塔』よ。でも……それは、大きな過ちだった。」


 わたしは、静かに首を振る。


「量子アリスを憎むなんて、絶対にあってはならないことよ。そう……憎むべきは、こんな状況にもかかわらず『これでも二十年から四十年は大丈夫』……。そう言い続けてきた、その言葉よ。」

「女神ネゲート様……。」


 ……。


「女神よ。俺様も、闇は憎い。だが、ビジネスになるのなら量子でも何でも受け入れてきた。そこは安心してくれ。だからこそ、これだ……この採掘だ。赤字でも1ゼタは保て。そんな『量子防衛』をやらされて、何も得るものがない。どうなっているのだ?」

「そうね。わかりやすくて、結構な性分ね。でも……そのハッシュレートは、量子セキュリティにおける下限であり、ほぼ上限でもあるの。つまりその上限は、古典における限界に限りなく近い水準よ。」


 わたしは、少し言葉を切った。


「そして……その状態が、量子の指数関数的な成長スピードに追われているわ。そうよね? つまり……量子が、僅かでも上への突破を試みたら……たちまち、この採掘の仕組みは崩れるのよ。余裕が無いの。」

「女神よ。古典による性能改善では、ハッシュレートを倍々には上げられない、ということだな?」

「そうよ。その改善は、せいぜい年間で二割程度。つまり……同じ燃料代で倍のハッシュレートを得るには、四年はかかる。しかも、全ての機材を新しいものに交換して、という厳しい制約付きでね。」

「女神よ……それでは……。」

「そうね。誰が書いたのかは、わからないけど……あと二年程度で量子に破られる。つまり、Q-DAYの成立。そんな話が、出回っているのよ。」


 わたしは、静かに息を吐く。


「わたしだってそんな話、最初は一蹴したわ。でも……この状況では、その言葉を書いた人は……。」


 口には、したくなかった。けれど……その噂でさえ、現実味を帯びてくるほどに。それくらい……これは、危うい。

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