607, 144000 part16 なぜ大赤字で採掘するのか。もはやそれは儲けるためではない。現状のハッシュレートを維持しなければ、量子に喰われるからだ。……いったい、なんなんだ。この仕組みは?
わたしは、依然として……うつむいたまま……。そのときだった。
「女神よ。まあ、よい。そもそも俺様もな、採掘が大赤字だった時点で、気づくべきだったのだ。」
……。
「採掘で大赤字なら、どう考えても……採掘するより、普通に買った方が合理的だ。いや、理屈としては当然だろう。どこをどう見誤れば、買うよりも高額な燃料代を払ってまで採掘する利点が生まれる? ……そこで、ようやく気づく。そうだ。これだったのだな。」
……、うん。
「……利点なんて、ないわ。本来なら、大赤字の採掘が続けば、みんな自然と控えめになるはずよ。そうすれば、ハッシュレートが下がって、やがて採算が取れる難易度に落ち着く。そこでまた、本格的な採掘が始まる……。それが、本来の姿よ。」
「そうだ。だがな、その自然な循環に……闇からの採掘への指南が、いくたびも入り込んでいるようだ。そこで、俺様も気づくべきだった。なぜ、こんな事態に陥っているのか……。」
……。
「なぜ、闇はハッシュレートの低下を嫌い、採掘の件で暴れ始めたのか。理由は一つだ。ハッシュレートを上げ続けなくてはならないからだ。儲けるために上げる……ではない。絶対に、上げなくてはならない。この違いは、あまりにも大きい。……そうだな?」
それって……。そうか。そういうことなのね。
「……。ハッシュレートが下がると、そういうことだったのね。量子グローバーによる探索空間が、さらに小さくなって……一気に、やられやすくなる。70ビットとか……そんな水準にまで落ちてしまう。つまり、今のハッシュレートですら、下限に近い。……これ以上、下がったら……。」
「墜落、だな。」
……。
「まあ、そんなイメージだ。だが、ハッシュレートを維持するには、燃料を突っ込まなければならない。その結果が……大赤字、というわけだ。」
……。
「これでは……。」
「そうだ。もはやそれは儲けるための採掘ではない。現状のハッシュレートを維持しなければ、量子に喰われるからだ。……いったい、なんなんだ。この仕組みは? こんな採掘を続けなければ安全が保てないなど、ビジネスモデルとして破綻しているではないか。」
……。
「赤字を強制され、万一、合理的な撤退が同時に集中すれば、結果として安全を保てなくなる可能性がある。そういう状況でも、すでにあるのだろう?」
「それは……。」
「最近、採掘から推論へ転身しようとしている者が多いと聞く。それも、当然だろう。量子問題が片付くまで、大赤字を前提に採掘を続けろ……そんな話、成立しない。」
……。
「そうなると、わかるな。いまのところは、赤字分を含めて先端計算設備等の助成で持たせている。だが、こんな状態がいつまで続くのか。その原資は……わかるよな? 民はそれに納得するのだろうか。」
……。またここに、極めて現実的な問題が生じてしまった。……。




