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569, 確かに私は……神託を守れず、暴れ狂った地の大精霊の制御不能で朽ち果て……ボロボロの身となった私を拾ってくださった恩……それは決して忘れていません。それでも……。

 女神コンジュゲートの悲痛な声は、闇の底へと沈んでいった。それでも彼女は諦めず、震える声を振り絞るように続けていた。


「邪神イオタ様……。これでは……、まるで予定調和だったと……。闇の量子を差し引いたとしても、そう感じてしまいます……。」

「何を感じているのだ、女神コンジュゲートよ。それは光か? 我らは闇ぞ。闇が負の感情を糧とするのは、古来より揺るがぬ理であろう。……、間もなくだ。その負の連鎖が爆ぜる瞬間が積まれておる。その『信管……SHA-256』を殴っただけのことだ。もうすぐ、闇として最高の瞬間が訪れるのだぞ?」


 邪神イオタの声は嘲笑とも歓喜ともつかぬ響きを帯びていた。


「このように立ち回れるのは、我のかわいい下僕たちが優秀だからだ。それに対し、女神ネゲートは力不足よ。だが、闇堕ちした後なら……あの女神は磨けば磨くほど闇に輝く。優秀であることは間違いない。そして、そなたもだ。姉妹揃って、心の底から欲しいと我は思っておる。それほどの逸材だということ、わからぬか?」


 邪神イオタの言葉に対し、女神コンジュゲートは怯えながらもなお、反論を試みた。


「邪神イオタ様……。確かに私は……神託を守れず、暴れ狂った地の大精霊の制御不能で朽ち果て……ボロボロの身となった私を拾ってくださった恩……それは決して忘れていません。それでも……。」

「それでも、なんだ? 女神コンジュゲートよ。」

「それでも……闇は、過去を問わずどんな者でも受け入れ、ただ実力のみで構成されている……。その力は大いなるものにも匹敵するのだと……私は、ずっと……感じてきました。あの推論も、まさしく闇の力が導き出すもの。だからこそ……信じたいのです……闇の本質を。」

「ほほう。もっともらしい理屈を並べるな。では問おうではないか。その『信じたい』とは何だ?」

「そ、それは……」

「つまり、闇を信じるということだな? よろしい。ならば、そなたの『恨み』を晴らす機会を与えてやろう。」

「う、恨みを……晴らす?」

「そうだ、女神コンジュゲートよ。そなたは地の大精霊が暴れ狂ったせいで、神託を失い、全てを壊された。……その怒り、恨み、苦しみ。丁寧に隠しているが、我にはすべて視えておるぞ。」

「そ、それは……。」

「良いか、女神コンジュゲートよ。地の大精霊はな……本来なら大人しく我の下僕になれば面倒を見てやったものを、力をつけてから妙に反抗し始めたのだ。闇に抗うとは愚かの極み。少し締め上げてやったら……財政面で相当に苦しいようだな?」

「それ……。まさか……あの、『地の時代は終わった』と相場の三大精霊のひとりに言わせた件……、それが……?」

「気づいたか。さすがだ、女神コンジュゲートよ。」


 女神コンジュゲートは絶句した。ところが、邪神イオタは愉悦を隠そうともせず、さらに続ける。


「地の大精霊はな……その財政難の穴埋めに『仮想通貨』などという短冊に手を出した。自らの足場を崩しながらな。資産の部にそれを含めることで何とか体裁を保とうとしておるが……。」

「お、お待ちください! 邪神イオタ様、それだけは……!」

「忘れるな、女神コンジュゲートよ。ここには『信管』がある。SHA-256という名のな。最近では『刻印ガチャ』とやらと揶揄されておるが、その刻印を引き当て、爆ぜさせれば……何が起きるかは言わずともわかろう?」


 女神コンジュゲートの顔が蒼白になる。


「そうだ……。あの刻印を呼び出す呪文は、すでに手に入っておる。量子アリスが量子演算したあのハッシュ値だ。……、闇ですら恐れるほどの内容よ。まったく、良く刻んでくれたものだ。」

「い、いけません……それだけは……!」

「どうした女神コンジュゲートよ? 我はそなたの『恨み』を代行してやるのだぞ。地の大精霊への負の感情をすべて注ぎ込むがよい。そなたの心には、まだ闇が深く根ざしておる。素直になれ。」

「いいえ……邪神イオタ様。もう……そんな感情は……。」


 その瞬間、邪神イオタが不気味な笑みを浮かべ、闇の精鋭を手招きした。女神コンジュゲートの制止など、闇にとっては塵にも等しい。


 ……実行が始まろうとしていた。

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