557, 8. 現状のブロックチェーンにおける量子アルゴリズムの選択と、|3n - m| にみる数論的圧縮構造
SHA-256に意味を読み取れる刻印の出現 ― Satoshiが残したメッセージの可能性
著者:フィー
8. 現状のブロックチェーンにおける量子アルゴリズムの選択と、|3n - m| にみる数論的圧縮構造
効率を最優先するハッカーが、現状のブロックチェーンを攻撃対象とする場合、FTQC の高精度を必要とするショアのアルゴリズムを選ぶだろうか?
――絶対にあり得ない。迷うことなく、NISQ 環境でも実用的な効率を発揮するグローバーのアルゴリズムを選択するだろう。
本章では、いよいよその根底にある数論的構造に迫る。簡単な例として、次の式を考える。
|3n - m|
これは、いわゆる 3n + 1 を一般形に拡張したものである。すなわち、3n + 1 と同様の条件を満たす整数 m を求めていく
――そんな数論的探求である。
まず、この |3n - m| は極めて興味深い性質を持つ。
なんと、m の倍数が特異点となるのだ。
したがって、任意の自然数から始めるとき、m の倍数は除外しなければならない。
ここで m に -1 を代入してみよう。すると、
|3n - (-1)| = |3n + 1| = 3n + 1
が得られる。
このとき、3n + 1 には特異点が存在しない。-1 の倍数という解釈自体が成立しないことを考えれば、それも当然である。
したがって、3n + 1 は |3n - m| の特殊形とみなすことができる。
では、m = -1 以外に、この式を満たす m は存在するのだろうか?
――答えは「存在する」である。
実際、m を数理的に計算する手法が存在し、それは構造的に導出可能である。
したがって、総当たり的探索は不要であり、しかも上限を持たないため、|3n - m| を満たす m は無数に存在する。
この m の計算過程では、整数の制約によって圧縮された空間構造を活用している。
これは、例えとして時間と空間における光円錐を思わせる。
一見、全方向に自由に広がっているように見えても、実際には「神に定められた」範囲
――すなわち数学的必然の空間内でしか動けない。
それは抗うことのできない理であり、同時に、そこから構造が生まれ、我々が存在する。
完全に自由な空間には、逆に何も生じない。
それは秩序なき虚無の空間であり、生成の欠如そのものを意味する。
このように、純粋な数論的構造からも「圧縮された空間」の存在が明確に見えてくる。
では、これよりも遥かに複雑な決定論的整数計算過程に基づくハッシュ関数では、何が起こるのだろうか?
グローバー探索の影響による探索効率が「平方根」で済むのは、入力に対して出力が完全に一様である場合のみである。
各状態ベクトルの確率振幅が等しく、スーパーポジションが理想的に成立していることが前提条件だ。
しかし、出力が一様でないならば、確率振幅には局所的な偏りが生じる。
その結果、もともと振幅が高い領域では、より少ない干渉回数で解に到達できてしまう。
つまり、探索効率は「平方根」では済まなくなるのだ。
したがって、効率を重視するハッカーが、FTQC の完全誤り訂正を要するショアを選ぶ理由は存在しない。
NISQ 環境でも十分な効率を発揮するグローバー探索を選ぶのが合理的な判断である。
特に、秘密鍵が96ビット分圧縮された構造を持つ現在のブロックチェーンでは、ショアよりもグローバーによる探索が圧倒的に有利である。
さらに深刻なのは、ショアでは公開鍵が必要だが、グローバーにはそれが不要である点だ。
なぜなら、秘密鍵という原像と、アドレスというハッシュ値が直接結びついているためである。
つまり、対象ユーザの公開鍵を知らなくても、そのハッシュ――すなわちアドレスさえ分かれば探索が可能である。
しかもブロックチェーンではアドレスと残高が公開されている。
結果として、ハッカーにとって、グローバーとの組み合わせこそが最高効率という皮肉な構図が成立してしまう。
そして――決定的な点を挙げるならば、グローバーはショアよりも先に実用化される。
これは単なる予測ではなく、既に観測されつつある事実だ。
探索系の量子アニーリングがすでに商用化されている現状を踏まえれば、その展開は明白である。
ブロックチェーンにとって、最も効率的な攻撃手段がショアよりも先に現実化する。
――これが、覆しようのない現実である。
したがって、ショア対策に固執したPQCへの偏重は、本質を外している。
今、本当に必要なのは――グローバー対策である。
しかも、それは将来の課題ではない。今この瞬間、最優先で取り組むべき問題なのだ。
なぜなら、グローバーが作用する領域はハッシュ関数そのものだからである。
これまでショアを想定した議論では攻撃対象を秘密鍵とするケースが中心だった。
だが、グローバーはハッシュ構造を直接破壊できる。
それこそ、ハッシュベースの Proof of Work の探索構造そのものを即座に崩壊させることも理論的には可能であり、
実際に、アニーリングベースでもそれが可能であるとする研究報告や論文すら、既に存在する。
よって、耐量子ハッシュ関数を、可能な限り多く、そして多様に備えておく必要がある。
ショア対策の PQC は、すでに十分な候補が提示されている。
だが、ハッシュ関数に対する耐量子設計は、依然として決定的に不足している。
これから本当に必要なのは、「量子演算では構成不可能」なハッシュ、
すなわちグローバー型探索にも耐えうる構造だ。
そして――ここに記しておく。
刻印の解析と数論的知見の積み重ねの果てに、私たちはすでに一つの耐量子ハッシュ関数を確立した。
この存在なしには、本章を書くことはできなかった。
言葉ではなく、実装としての確証。
それこそが、今後の量子時代における暗号の出発点である。
次章では、刻印周辺構造をこの「空間圧縮」の概念から再検討する。




