556, 俺って役に立っているのか? 気づいたら女神の担い手になっていて。周りが持ち上げてくるもんだから、つい乗っかってしまっただけなんだ。それでも……、人とのつながりだけは、手放したくない。
……俺はいま、自問自答している。そう、何度も自分に課してきた、あの苦しい問いだ。
「俺って……役に立っているのか?」
……という、あまりにも普遍的で、どうしようもなく重い問い。
だってさ、この塔に集まっている方々を見てみろよ。まず女神ネゲート。……、女神だぞ? なんでそんな存在が、俺のすぐそばにいるんだよ。次に、いま渦中のSegWitとフィーさん。片方は時代を動かす証人? で、もう片方……本日のフィーさんは……、あの表情を見た瞬間「ああ、巻き込まれたら確実にやばい」ってわかる類のやつだ。付き合いが長いからこそ、わかるんだ。あれは、何かが「動く」顔だった。
そしてコンジュゲートさんと量子アリス。……、彼女らだって、結局は闇の勢力の頂点に近い立場にいる。そして、その影響下に俺はなぜか存在している。……どうなってるんだ。しかも俺、「女神の担い手」なんだろ? 下手すれば、女神すら動かせるらしいじゃないか。……、それってつまり、事実上……?
いや、待て。そこに邪神とAggWitだろ? あの「安価な労働力の蔓延」を仕掛けた邪神は、女神の機転とSegWitの動きによって阻止された。だが、それだけでは終わらなかった。
AggWit……この証人、あれは本当にやばい。奴が通った跡は、いつも廃墟だ。勘弁してくれ。こんなの、現実でやる話じゃない。「本当に危険な存在は、物語の後半で登場する」なんて王道展開、リアルではいらないんだよ。
そして今。闇を何よりも嫌うSegWitがいるせいで、行き場を失ったコンジュゲートさんと量子アリスが俺の元にいるのさ。……どうやら、話し相手が俺の役目らしい。でも、そこで無茶なお願いをされることになる。
「あ、あの……。」
「それでは、お願いしますわ。ネゲートにとって、ここが最も苦しい局面なの。それを支えられるのは、あなたしかいないのです。」
……そう言われてもな。今までは……、ぶっちゃけ「誤魔化して」生き延びてきたんだよ。フィーさんやネゲートにしがみつきながら、なんとか、な。そうやって、ここまで来た。最近では、もう「信用全力の使い魔」だ。そんなキャラでも迷わず選び、必死に動いてきた。でも……もう限界は超えている。
AggWit? あれの顔を見るだけで、背筋が凍る。でも、それが普通の感覚だよな?
「女神ネゲート様を支えられる唯一のお方……。わたしも、何か違うとずっと感じてきました。量子の力なら、いつでもお貸しします。」
「そ、そうですか……。」
俺に……量子の力を渡されても、どうすればいいんだよ。ははは……。
けど、もう後には引けない。これまではなんとかなってきた。だが今回は、本当にやばい。AggWitだけは……。
このまま曖昧な返答では済まされない。わかってる。つまりだな、力を合わせるしかない。あいつは、そういう存在なんだ。
「やはりSHA-256刻印の通り……。AggWitが『証人』として覚醒すると、SegWitの制御を離れます。そして、この刻印に記された期間……『この一年』が、創造主から『集約』のために与えられた猶予。宗派的にはそう解釈されています。そして……思う存分、暴れるのでしょう。」
「……。」
宗派的な「信念」って、当人にとっては絶対なんだよな。そこからテロなどが生まれるのも、当然といえば当然。もう、誰の声も届かない。……これは今までにない状況だ。この一年が……、それが勝負らしい。しかも、それが「悲願」だとSegWitは言っていた気がする。……利害関係が、あまりにも複雑だ。
でも、逃げ場なんてない。気づけば俺は「女神の担い手」になっていて、周りが持ち上げるから、つい乗っかって。だけど、それでも……人とのつながりだけは、失いたくない。最後に追い込まれても、それが残っていれば、きっと何とかなる。それだけは、経験で知っている。
……そうだな。ここでそれを伝えよう。変わるとは思わないが、少なくとも後退はしないだろう。よし、それでいこう。
もはや、俺にはそれしか道がない。慣れだよ。この高い塔だって、最初は怖かった。高い所は苦手なんだ。でも、慣れるって怖いな。慣れると、もう何も感じなくなる。
……本当は、そんな慣れって危険だとわかってる。それでも、この状況を乗り切るには、もう、その「慣れ」に頼るしかないのさ。




