54, エプロン姿でニャーニャー言われたって、犬は増えないぞ?
「表が出続ける現象。そして『分布』は何処へ? そろそろ『大精霊ネゲート様』と……?」
……。フィーさんのカードの件に続きまして、今回も、本当に「表」が出続いたので、驚いています。たしかに、歪みがない点を確認していますので、本来なら一回一回が「半々」なはずです。偶然でも、こんな事はないはず。……、ないですね。ちょっと迷ってしまった。
ところで、この力……。「相場」に活用できたら、よさげだと解釈してしまいました。ああ……結局、俺はこの程度だった。ネゲートの「カネの問題」について、深くは追及できる立場ではないようです。
この「表」と「裏」をさ、「売り」「買い」に変えたら……「相場で勝ち続ける」ことができますよね。それだけの「奇跡」が、まさか……、まさか、こんな「お遊び」で消えてしまうなんて……。ああ……何とも俺らしい展開です。
これこれ、このような感じになると「負け」が重なってくるんだ。いつもこの流れです。つまり、俺がフィーさんに「この地」へ呼び出される前……、何かはじめようとしても、なぜか「肝心な時」に「逆」を向くからです。
ここでさえ勝てれば上に突破できるというタイミングで、なぜ、いつも「逆」になってしまうのだろうか。俺は、何度も何度も悩みました。例えば……、「売り」と「買い」のボタンが反対だったら儲かっていたのにな! とか。こういう……情けない出来事が重なって苦しい気持ちしか残りません。そういや、負け続けた嫌な記憶は、いまだに残っています。フィーさん……さ、これらの「負けた記憶」については、このまま残すおつもりなのかな?
さーて、このネゲートです。なんか、とぼけた事を言っていますね?
「たしかに『表』が続いたね。」
「……。それだけ?」
「うん。」
「な、なによ? こんな面白い現象を間近でみられたのなら、そうね……あの神々の『演算装置』に取り組んでいた者たちなら、泣いて喜んで『大精霊ネゲート様』になるわよ?」
俺は、単に「表」が出続けた、以外の感想はありません。……。
そういやミィーの兄なら、このような現象が間近で起きたのなら、泣いて喜ぶのだろうか? そこはちょっと気になります。
それでもね、表が出る瞬間……について、です。どんな仕掛けなのだろうか?
「俺でもさ、そのタネや仕掛けは気になるさ?」
ネゲートが俺をみつめてきます。
「……。あのね、これ『演算』だから。マジックではないの。タネや仕掛けなんてないの。」
あっ、ないんだ。
「そうなんだ……。」
「な、なによ? これはね……、概要だけ説明すると……。そうね。『表』が出るという瞬間に合わせて投げているのよ。」
表が出る瞬間……ね。そんなのが存在するのか? にわかに信じがたいのですが、実際に俺自身の目で、表が出続ける現実を見てしまったので、否定はできません。
「わかった。結論です。それは……ネゲートで十分。」
一言で示せる綺麗な結論です。
「……。そ、そんなにわたしが不満、なのかしら?」
「だって、そんなのが表になっても嬉しくないからね……。」
「……。そうね。あんたからみたら、それだけだもんね。」
「はい?」
だって、それだけですよね?
「これによって、あの狂ったシィーの行動が変わるはずなの。」
「……。はい?」
なぜここでシィーさんが出てくるの? 理解が追いつきません。
「あの狂ったシィーでも、わたしの『演算』には作用されるはずだから。そのうちわかるわ!」
「これと、シィーさんが絡むの……。ああ、だめだ。わかりません。」
「……。ゆっくりと悩むのも悪くはないわよ。まあでも、あんた、なかなかの見込みがあるようね。たしかに、あのフィーの『スマートコントラクト』が受け入れただけはあるわ。しっかりと、うまく作用したからね。」
「あ、あの……?」
さらに、ネゲートの話の意図がよくわかりません。
「とまどっているのかしら? まあ、事情がわからないなら、そうなるかしら。でも……、いよいよ『恩返し』の時が来たのかもしれないのよ?」
「はい? お、恩返しって……?」
さらにさらに、わかりません。突然「恩返し……」ですか? ネゲートが俺に? なぜ?
「まあ、これについても、この先……、時間をかけて理解していくはずだから。」
「……。急に『恩返し』ってさ、俺……、ネゲートと過去に何かあったの?」
この大精霊様とお会いしたのは、少し前のご訪問時です。そのはずです。
「そうね……。過去というよりは『大過去』かもしれないけど、まあ、この話はゆっくりと理解していきましょう!」
「……。そうします。本当の意味で、混乱してきました。」
「あら? それなら休憩しましょう。」
ネゲートって、話しやすい相手なのですが……、突然、話の方向性がわからなくなります。うう……。
「そうだね。こうやって複雑に悩むとさ、俺……いつも失敗するから。」
「失敗? 物事を複雑にしたら、そんなのは当たり前よ。」
「えっ?」
失敗が当たり前? 気になってきました。
「物事はね、シンプルに考えないと『逆』に作用するようにできているのよ。」
えっ? その論理だと、俺が失敗したのではなくて、俺が失敗するように……他から作用したことになるぞ。
「えっ? いま『逆』って言ったよね?」
「うん。しかも、その理も簡単なの。シンプルに考えると、その方向に進み始めるようになるから、あとはその流れに身を委ねるだけでいいの。でも……、そこで『欲をかいたり』して複雑に考え始めると……。あら不思議。なぜか『影の部分』というべきか……『逆』が作用し始めないと理が合わなくなるのよ。」
「……。」
「なんか上手くいかないとか……これで悩んでいる方々が多いのはね、理を合わせるために『逆』が作用し始めているだけだからね。考えを改めて、シンプルに戻せば、ちゃんと『解決』するの。」
「……。理が合わなくなるの?」
負けて絶望したときの気持ちが蘇ってきます。こういうのは残っていますからね。
「そうなの。とにかく今、ここで覚えておく方が、この先、生きていくのが楽になるわね。あと、これは論理ね。その証拠に、精霊の界隈には『シンプルこそが最良』という言葉があるの。」
そのフレーズは聞いた事があります。ところで、精霊の界隈って? ああ……フィーさんみたいな精霊が集まっているのね。……。今後、気を付けよう。
「一つ、いいかな?」
「あら? どうぞ。」
「それさ……例えば、俺が相場で負け始めたとか、そういう事象については、俺自身が悪いのではなく、理を合わせるために『俺を負けさせた』、になるよね?」
「負けた? ……。あのフィーの話は本当のようね? あれこそ、わたしでも……だったから。」
「……。はい。」
あちゃ。まじで情けないです。最後、「あんな形」でフィーさんに召喚され、故郷とお別れしましたからね。でも、隠しません。隠したら、俺は逃げてしまうと考えています。逃げてはいけません。全てを受け止め「この地」で暮らしていきます。
「まあ、おおむねそれで正解ね。おそらく『全力で張っていた』とかで、手持ちの余力が急回復したところで『調子に乗り』、『影の部分……逆』が作用し始めたのね。でも、そうしないと論理が壊れるのだから、しょうがないのよ。別に、あんたが悪いわけではないから、悩む必要はないの。この『演算』の『大精霊ネゲート様』が直に説明したのだから、これは、信じなさいよ?」
やはり、本当のようです。
「……。でも、本当にそうなんだ。やっぱり、なんか『不思議』だよ。とにかく、相場に負けて悩んだ時間、返せだよ!」
「あら? この論理について『不思議』だなんて、もしあの『フィー』に告げてしまったら、……、さあ大変。いったい、何本の『式』が飛び出てくることやら……。怖い怖い。」
「……。やっぱり、そうなるのか。」
「それが、フィーだから。」
「納得です。」
それについては、相場に負けた以上の苦しみになりそうです。まあ、このネゲートとは、そういった冗談を話せる関係にはなりました。
それにしても、相場を張るとなったら「シンプル」に考え、方向を合わせる。納得です。
「フィーさん……。今、この瞬間も……。」
「『なんとかの虫』にでもなっているわね。それが、フィーだから。」
「……。」
「では、そろそろ『犬』ね。」
「……。今回の表が出続ける件も、とるの?」
「うん。」
……。少し減らそうかな。
「では……このくらいかな。」
「犬」の投げを「少なく」してみました。
「えっ?」
「……? どうした、ネゲート?」
「少ない。」
「まあ、あのペースで減り続けたらね、さすがにね……。」
「……。そう。それなら、……。ちょっと待っていてね。」
そう告げるのと同時に、俺の目の前から消えました。……。
それからしばらくして、戻ってきたのですが……。な、なんでしょうか。これから、何かの手料理でも振る舞ってくださるのでしょうか?
「……。どうしたの? その格好は?」
「ニャー。」
「はい?」
……。移動した先で、柔らかいものに頭をぶつけたのでしょうか?
「……。無反応なの?」
「急に、どうしたのさ?」
「……。おかしいわ。この格好でニャーと鳴く真似をすれば、夢中になって『犬』を……。」
「……。」
そういえば、ネゲートは「カネの問題」を抱えていた。つまり、それって……。
「それが、いわゆる芝の上で玉を転がす接待というか……、それらに相当するものなのか?」
「……。接待? そ、そういうものではないわよ?」
「申し訳ないけどさ、それで『犬』を増やすのは、ちょっとね……。」
「……。うう……そんな……。こちらの方向性ではなくて、ロウソクとか、そっちなの?」
な、何を言い出すんだ……。まったく!
「もう……、わかったよ。今回だけだよ?」
「……。ありがとうございます。」
このネゲートは、こういう時だけ急に礼儀正しくなるから、困ってしまいます……。
そして、増えた「犬」に、ネゲートが歓喜していた「その瞬間」でした。急にフィーさんが……戸をノックもせずに……。
ネゲートに急用があったのは明らかで、当然ながら成り行きで、あのお姿のネゲートをみつめることになります。そして、呆然と立ち尽くすフィーさん。
そういえば「この地はハードモード」だった。つまりこの事象も、この地でよく耳にする「創造神」とやらのお遊びなのだろうか……。